【スタッフコラム】毎日を面白くするのは、難しいことじゃない(かもしれない)
編集スタッフ 二本柳
恥ずかしながら告白しますと、2018年にたてた目標は「毎日をロマンチックに過ごすこと」でした。
いつも感性豊かに、わくわくしていたいなと思って。でもまぁ、案の定、ロマンチックとはほど遠い毎日です。
それどころか、なんだか何をやっても楽しめない。やりたいことが浮かばない。自分はこんなにつまらない人間だったっけ。そう自己嫌悪に陥ることも多かったような気がします。
そんなすっきりとしない気分のときに、ある言葉に出会いました。
たったひとつのきっかけさえあれば
その言葉は、森光宗男さんと大坊勝次さんによる、珈琲をめぐる哲学をまとめた『珈琲屋』(新潮社)という本にありました。
「珈琲を識った時、心底嬉しく思った。面白くて毎日が楽しくて……。(中略)このゆっくりこそ自分が自分に還る唯一の法かもしれない」( p.171-173)
森光さんが書き残したこの文章は、ストンと胸に落ちてくるものがありました。
なんていうか、「人生ってそういうものかも」と思えたんです。
1977年に福岡で『珈琲美美』を開業し、日本全国にファンを持ちながら、今年5月に他界された森光宗男さん。珈琲とともに40余年を過ごした森光さんの口から語られる「珈琲が毎日を面白くした」というメッセージは、とても切実で、真実味に溢れていました。
森光さんにとっての珈琲、というとあまりに壮大で、自分に置き換えるのはおこがましい。でも、“珈琲” みたいなものが、人生には必要なんじゃないかと。
毎日を色鮮やかに変えてくれる “珈琲” みたいな「何か」が、ひとつだけあれば、人生を面白くするには十分なのかもしれないと思えました。
取るに足らないと思ってることに、それはあるかもしれない
それからしばらく、自分にとっての「何か」を考えていました。
無条件にワクワクして、それがあると時間を忘れるもの。
私にとってのそれは、写真かもしれないと思えてきました。
上手い下手は関係なしに、とにかく写真を撮るのが楽しい。旅先だって、写真を撮るために行きたい場所があるし、毎日の食卓も、写真を撮るからちょっとおしゃれする。
携帯には家で作ったご飯をただただ記録しているアルバムも。自己満足だけど、これを見返すのが楽しいのです。
でもこの楽しみを、どこかで「くだらないこと」と恥ずかしがってる自分がいました。
カメラを持たずに旅できる人の方に基本あこがれるし、ご飯だって写真を撮らずに食べ始めたいと思ってる。(しかし撮っちゃう)
でも、森光さんのまっすぐな言葉に出会って、目が覚めた気がしました。
自分の「楽しい」という気持ちに、上も下もない。ダサいも格好いいもない。往往にして、くだらないと思ってることの中に、 “珈琲” はあるのかもしれない。
「珈琲を識った時、心底嬉しく思った。面白くて毎日が楽しくて……」
森光さんの文章が、ずっと心に残っています。
なんてことない日常が、写真のおかげでちょっと特別になるならば、堂々とそのチカラに頼っていこうと思いました。
「ロマンチックに暮らす」と意気込んだはいいけれど、現実世界にときめきを持ち込むのは、なかなか難儀なこと。
でも、たとえば珈琲一杯を飲むことや、好きなテレビドラマを観ることや、月末に洋服を買うこと……自分では取るに足らないと思っていることでも、なにかひとつ心が動くものがあるならば、その毎日は、十分ロマンチックなのかもしれません。
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