【スタッフコラム】5cmヒールと24歳のわたし

バイヤー 郡

先日。自宅のシューズラックがいっぱいになってきたので整理をしました。

「また履きたいと思うかどうか」という判断基準で、もう履かないと思ったものは思い切って処分しようと意気込んでいたのですが、どうしても捨てられなかった靴があります。

6年前、24歳のときに買った、ヒールのパンプスです。

 

手放したくない思い出

社会人になってまだ間も無いころ、大学時代の友人の結婚式に招待されました。

学生生活から社会に出て働きはじめ、自分が想像していたよりも現実は優しくはなく、一生懸命に踏ん張っていた頃でした。

結婚の報告を受けたことも、招待されたことも、そして学生時代の友人たちにまた会えることがとても嬉しくて、舞い上がったのを覚えています。

大人になってから結婚式に招待されたのは初めてだったので、洋服やバッグなどを一式揃えなければならず、私は街へ出かけました。

学生の頃より大人っぽくなった、なんて思われたくて、普段は入らないようなお店にも勇気を出して突入し、あちこち探し回りました。そしてとあるヴィンテージショップに立ち寄ったとき、その靴と出会ったのです。

ブラウンの色味と、落ち着いたデザインに心惹かれ、店員さんの勧めるままに試し履きをしてみると、なんとシンデレラフィット。

私は足が小さく、古着屋さんなどではなかなか探すことが難しいのですが、この靴はまさに運命の出会いをしたような気持ちでした。そうして浮かれた私はそのパンプスを即決していたのでした。

そして結婚式当日。

家の玄関を出たときから、あまり耳馴染みのないヒールの「コツコツ」という音が響いて、心が踊りました。日々仕事を覚えることに必死で、学生時代が恋しくなっていた私は、その式場へ向かう道中に改めて大人になった喜びを実感できたのでした。

同級生の美しいドレス姿にも感動し、親御さんへの手紙にも大号泣で、素晴らしい結婚式。……だったのですが。

普段からスニーカーしか履いていなかった私は、案の定爪先と靴ずれの痛みに苦しむことになりました。女性の方は一度は経験されたことがあるかもしれませんが、あの痛みといったら本当に耐えがたいですよね……。

当時の私は履き替え用のぺたんこ靴も持っていなかったので、半べそをかきながら帰宅したのでした。

その後も、どうしても諦められず何度かそのパンプスを履いて出掛けてみたのですが、やっぱり足に合わず。

正直もう二度と履くことはないでしょう。

けれども、この靴のことは嫌いになれず、何年も捨てられないまま今に至ります。もう履かないと分かっているけれど、私にとっては良くも悪くも思い出の詰まった一足。

今はもうすっかり大人になってしまったから、あの頃大人になろうと頑張っていた自分は大切にしまっておきたいのです。

今思えばたった5cmのヒールで、そこまで高いわけではないのですが、当時の私にとっては精一杯の背伸びでした。

靴は服よりも買い足す頻度が低いからか、なんとなく、思い出が染み付きやすいもののような気がします。

結局そのパンプスは捨てられないので、他の靴を外に出すことになってしまったのですが、どうしても手放せないものが一つくらいはあっていいじゃない、と自分に言い聞かせるのでした。


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