【計画性がなくても】第2話:40代半ばのおしゃれは “マイナーチェンジ” が欠かせない。

ライター 木下美和

年齢を重ねると、ふとした時に今まで似合っていたもの・選んでいたものが、しっくりこないと感じることがあります。

審美眼を持つもの選びのプロにもそんな悩みはある? どうやって自分をつくる暮らしやファッションを選び取っている?

そんな話を聞いてみたくて、世田谷区松陰神社前の商店街でセレクトショップ「This__」を営む、オーナーの石谷唯起子(いしたに ゆきこ)さんを訪ね、お話を伺っています。

1話目ではお店を始めた経緯をお聞きしました。

続く2話目はファッションについて。「40代半ばのファッションは中途半端で難しい」と語る石谷さんですが、その中でどんなポイントを重視しながら、自分に似合うものを見つけているのでしょうか。
第1話

 

「なんか違う?」が増えた40代の服選び

▲ARGUEのリネンワンピースに、08sircusのパンツを合わせて。

「私、飽き性で服の好みが定期的に変わるんです」と話す石谷さんが、 “今” 選ぶ定番スタイルは「丈が長い」もの。取材時に着ていたのも、くるぶしまで届くほど長いマキシ丈のワンピースでした。

石谷さん:
「なぜ? って聞かれても困るんですけど、とにかく丈が長いものが今は気分というか、着ていて落ち着くんです。次女の出産後は体型がなかなか元に戻らなくて、気になる部分を隠せるからというのも理由の一つですね(笑)

それに、40代に入ってからちょっと前まで似合ってものが『あれ、何か違う』って思うことが増えてきました。例えば、以前はリネン100%のざっくりとしたワンピースが好きでよく着ていたんですけど、今はリネンでもシルク混の少しテロッとした生地の方がしっくりくるとか。丸首よりも深めのVネックの方が全体的にスッキリ見えるとか。

ガラリと大幅に好みが変わるわけではないけど、そんなちょっとした差で自然と選ぶものが変化してるんだと思います」

▲お客さんが着ているのを見てひと目ぼれしたというChaosのワンピース。

似合わなくなった服は一旦ワードローブの1軍からはずし、その後もほとんど着ないと判断したら友人に譲ったり、お店で開くフリーマーケットで販売したり。お気に入りの服だからこそ、似合う人から似合う人へと近しい関係性の中で循環させるのが、石谷さんのスタンスです。

 

着る人をきれいに見せてくれる服が気になる

選ぶ服の好みは少しずつ変化している一方で、選び方そのものは昔からずっと変わらないといいます。

石谷さん:
「まず、見た目でグッと心つかまれるもの。そして、試着した時に気分が上がるもの、です。

偶然知り合った『MOON TREE PLANET』というブランドが、まさにそういうコンセプトで服作りをされていて、袖を通してみたら着心地もシルエットも最高で、『自分に似合ってる!』と感じられてうれしくなりました。

人気のファッションブランドなどの知識が本当に疎くて。タグも全く見てないから、ファッションの入り口は見た目と肌感覚でしかないんです。

でも、いいと思って選んだものの制作背景を後々知ると、やっぱり生地から細部のパターンまで、着る人をきれいに見せてくれるように作られているんですよね。しばらく経ってから『だから惹かれたんだ〜』って納得させられます」

▲MOON TREE PLANETの洋服ライン・TOOのサマーニットとパンツの組み合わせ。手紡ぎ・手織りの上質なオーガニックコットン生地と洗練されたパターンが、シンプルな中に大人の上品さを醸し出すデザイン。

▲夏のおしゃれアイテム、wica groceryのストローハット。形違いの2種類をコーディネートに合わせて使い分けています。

▲シンプルな装いのアクセントになるWONDE FULL LIFEのサンダル。

スペックよりも、出合った時の直感や気持ちの高揚を頼りにした服選び。話を聞いていると、もしかしたら直感の選択は案外必然で、自分に似合うものに辿り着く一番の近道なのかも?と思えてきます。

 

コンプレックスを和らげてくれたもの

石谷さんのファッションの情報源は、インスタグラムやたまたま通りかかったお店の店頭に飾ってあるものなどさまざま。時には来店したお客さんが着ていたものが気になって、「それどこのですか!?」と声をかけることも。

そんな風に人から影響を受けたものの一つが、アクセサリーです。

石谷さん:
「手の形がコンプレックスなこともあって、アクセサリーはあまり身につける方じゃなかったんです。でも、お店のスタッフの子が素敵につけてるのを見てかわいいなと思って。最初はお店で扱う商品として選んでたんですけど、段々と自分でもつけてみたくなって少しずつ集めるようになりました。

特にリングはこれまで苦手意識で敬遠してたけど、私でも気負わずにつけられる作家ものに出合ってからは、コーディネートのアクセントとして楽しんでいます」

▲accessories mauのバングルやピアス、BYOKAのリング、ポルトガルの作家・INES SOBREIRAのワイヤー糸のアクセサリーなどがふだんづかいの定番アクセサリー。

愛用のアクセサリーはどれも装飾が少なくシンプル。素材の質感が際立つ表情豊かなデザインは、コーディネートをキリッと引き締め、凛とした大人の雰囲気を醸し出します。

石谷さん:
「特別な日につけるというより、デイリーに使うので、つけていて重さを感じたり、ひらひら揺れたりするタイプはあまり選ばないですね。商品の出し入れやPC作業の時に気になってしまうので。軽いつけ心地でストレスフリーなものが好きです」

 

60歳を過ぎたら振り切ったメイクや髪型を楽しんでみたい

ここまでお話を聞いてわかったことは、石谷さんは自分に似合うもの・心地いいものに辿り着くために、「なんか違う」という「違和感」を大切にしているということ。

それはきっと無意識下に判断していることかもしれないけれど、違和感を見過ごさず、丈、素材、シルエットなど、ちょっとした違いのマイナーチェンジを重ねながら、今の自分にしっくりくるものを更新し続けています。

石谷さん:
「40代半ばのおしゃれって、体型や顔色がまた一段階変わるから、カジュアルなTシャツとパンツじゃ野暮ったく見えるし、パキッとした明るい色は似合うものを選ばないと服が浮くし、グレイヘアにはまだ早いし……と、個人的にはとても中途半端で難しいなあと思うんです。

だから今はこれまでと同じものにこだわらず、着たことのないシルエットも新しいブランドも、気になったものはいろいろ試すようにしています。そしてとにかく気分が上がる服を見つける。

この先6070歳と年齢を重ねたら、服も髪型もメイクも、もっと自由に振り切ったおしゃれも楽しんでみたいですね。シワシワの手に鮮やかな色のネイルを塗るのが憧れです」

▲お店で扱っているBYOKAのネイルカラー。

あえて自分の定番をつくらず、年齢や気分に合わせて柔軟に形を変えていくフリースタイルのおしゃれがかっこいい石谷さん。

「直感」と「違和感」を働かせて、新しい服との出合いを楽しみたくなりました。

3話は、昨年末から暮らし始めたばかりという新居のインテリアについて伺います。

(つづく)

【写真】佐々木里菜

 

もくじ

 

石谷唯起子

世田谷区・松陰神社前商店街に店を構えるセレクトショップ「This__」(ディス)のオーナー。アートディレクターとしてデザインの仕事や、完全無添加の石けんブランド「Atelier Muguet」(アトリエミュゲ)のプロデュースを行う。9歳と5歳の子どもを持つ二児の母。
https://www.this-is.jp


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