【計画性がなくても】第1話:やりたいことって一つじゃない。“今の自分”に正直なライフスタイル
ライター 木下美和
年齢を重ねる中で、自分に似合うもの・心地良いものがわかってきたつもりだったけれど、最近ふとした時に、長年お気に入りだったものが「しっくりこない」と感じることがあります。暮らしまわりはまだしも、ファッションは顕著に選択の幅が狭まり、2、3パターンを着回すことが多くなってきました。
常にものを選び、発信している素敵なお店のオーナーさんやセンスのいい人は、そんな壁を感じることはあるのでしょうか。あるとすれば、どうやって乗り越えている?
そこで、今回お話を聞きたいと訪ねたのは、世田谷区松陰神社前商店街でセレクトショップ「This__」(ディス)を営む石谷唯起子(いしたに ゆきこ)さん。
有名無名、国内外を問わず、作り手の表現に共感した器や、細部のシルエットや造りに凝った服・アクセサリーなどの洗練されたセレクトは石谷さんならでは。
独自の審美眼を持つ石谷さんですが、「計画性ゼロだし、自分の好みがよくわからない時もありますよ」と笑います。そんな言葉に勇気をもらいながら、お店を始めた経緯についてお話を伺いました。
ノープランで始めたお店づくり
世田谷区松陰神社前。2両編成の路面電車が走るこのエリアは、昔ながらの商店街に新旧の個人店が連なり、落ち着いた雰囲気と新しいカルチャーが気持ちよく入り混じるローカルタウンです。
フリーランスのグラフィックデザイナーだった石谷さんが、この街に「This__」をオープンしたのは2017年6月。聞けば、物件を借りた当初はお店を開くつもりはなかったといいます。
石谷さん:
「もともとこの近くのシェアオフィスへ通勤していて、いつものように商店街を歩いていたら空き物件が出ていました。デザイン仕事の事務所兼倉庫によさそうだなと思って借りたんです。
内装を同じシェアオフィスの建築家の友人にお願いして進めていくうちにとっても素敵な空間になっていって、夢が広がって……。これは事務所だけじゃなく、デザイナーとしてこれまで関わった素晴らしいクリエイターやものづくりをする人たちを紹介する “場” になればいいなと思ったんです。
それに、広告デザインの仕事をしていると、誰に向かって届けているのかがわからなくなることがあるんです。だから、すぐそばにいるママ友や近所の人たちがうれしい・楽しいと感じるデザインをしたかったというのも、この場所をつくるきっかけにつながっています。
といっても、どうやって運営するとか商品を集めるとか、ノープランでしたけど……」
▲OBSCURA COFFEE ROASTERSの豆を使ったドリップコーヒーがテイクアウトできます。
OLとして働きながら夜間学校で学び、デザイナーの道へ
▲石谷さんがつけているワンショルダーのエプロンはThis__のオリジナル商品。さっとつければワンマイルウェアになるおしゃれさが評判。
すっかり「This__」のオーナーとしての顔が板についた石谷さんですが、今もアートディレクターとしてデザインの仕事を続けています。
デザイナーになる前は、地元大阪のメーカーで営業事務として勤務。そこで広告制作に関わる仕事に興味を持ち、業務のかたわら夜間のデザイン学校に通い始めます。
その後、広告制作会社にデザイナーとして転職。当時は毎日終電、時には朝まで働き詰めの毎日だったといいます。
人生の大きな転機が訪れたのは、30代前半でした。都内で働くご主人と結婚し、その勤務地に伴って上京。その後も大阪時代のクライアントからの仕事を継続して受ける事になり、フリーランスとして独立しました。
石谷さん:
「当時は東京に知り合いがほぼいなかったし、独立したばかりというのもあって、仕事を途切れさせないように必死でしたね。生まれたばかりの長女を膝に乗せて、あやしながらPCで作業するみたいな。
でも、今もこうしてデザインの仕事を続けられているのは、その時の経験のおかげ。あの時がんばれたんだからきっと次も大丈夫! っていう気持ちは、お店づくりにも何をやるにも、自信につながっているのかもしれません」
知識ゼロ。あるのは「好き」という気持ちだけ
「This__」では美しい木肌が目を引くニュージーランドの木工品、オブジェのような陶磁器、ほかではあまり見かけない個人ブランドの服やアクセサリーなど、いつ訪れても新鮮なものとの出合いを楽しめます。
石谷さん:
「お店という場をつくったはいいけれど、物販の経験もないし仕入れの知識もゼロでした。とにかく自分の目で見て、好き・欲しいと思うものだけを集めてスタートしたので、あまりにも感覚的すぎて、正直たまにこれでいいのかな……って不安になることもありますよ。なので、品揃えを語るようなかっこいいコンセプトとか、なんにもないです。
でも、その『好き』っていう気持ちがご縁を呼んで、作り手の方々に出会うことができたし、選んだものに共感してくれるお客さんともつながることができたから、そこさえ変わらなければいいのかなって」
器、雑貨、アパレルetc. ジャンルは違えどお店に置かれたもののどれもがThis__らしさを纏っているのは、石谷さんが「本心から選んだ好きなもの」だからなのだと納得させられます。
計画性がなくても、店を続けられたのは
デザイナー業、子育て、お店の経営……慣れない土地で三足のわらじを履き続けてきたバイタリティーに驚くばかりですが、石谷さん本人は「私はほんっとに計画性がないし、薄っぺらくて、周りの人たちのおかげで何とかなっているだけ」と恥ずかしそうに笑います。
でもそれはある意味、タイミングや経験の有無を言い訳にせずはじめの1歩を踏み出した、石谷さんの行動力と瞬発力のたまもの。
今はお子さんが9歳と5歳に成長し、以前ほど手がかからなくなったことで、生活と仕事のペースに少しずつ余裕が出てきたといいます。
▲2020年9月、現店舗のはす向かいに増設した「This__2nd」にて。
石谷さん:
「お店を介していろんなジャンルの感性が近い人たちと知り合うことができて、毎日刺激があります。その方々がきっかけで出合った素敵なものもたくさんあるんです」
ということで、続く第2話では、石谷さんが最近出合ったお気に入りのファッションとその着こなしについてお話を伺います。
(つづく)
【写真】佐々木里菜
もくじ
石谷唯起子
世田谷区・松陰神社前商店街に店を構えるセレクトショップ「This__」のオーナー。アートディレクターとしてデザインの仕事や、完全無添加の石けんブランド「Atelier Muguet」のプロデュースを行う。9歳と5歳の子どもを持つ二児の母。
https://www.this-is.jp
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