【知らない世界へ】前編:お菓子みたいな鉱物って、どんなもの?
編集スタッフ 寿山
小さい頃、姉の部屋にあったある石ころに、思わず見入ってしまった経験があります。
一見ふつうの石ころが、半分に割ってあるだけ。ところがその断面をのぞきこむと、内側が洞窟のようになっていて、びっしりと紫水晶の結晶が並んでいたのです。
見つめるほどに、キラキラと光を放つ結晶たちは、角度によってその輝きや表情を変えて、いつまで眺めていても飽きない、小さな宇宙のように思えたのでした。
大人になってそんな経験も忘れた頃に、とあるギャラリーで「鉱物Bar」と題した、世界中から集めた鉱物(石)の標本と、鉱物の新しい魅力を紹介している企画展を見る機会がありました。
小さな石の向こうに、無限の世界が広がっているような、見ているだけで心が高揚する、ふしぎな石の魅力をもっと知りたくて。現在、実店舗「鉱物bar by 鉱物アソビ」を営むフジイキョウコさんにお話を伺いました。
お菓子みたいな鉱物。鉱物みたいなお菓子と飲み物を楽しめる「鉱物Bar」
フジイさんが営む「鉱物bar by 鉱物アソビ」(東京・吉祥寺)は、鉱物ブームのきっかけとなった書籍『鉱物アソビ 暮らしのなかで愛でる鉱物』の世界を、実際に体験できる場所として誕生。
「お菓子みたいな鉱物」を眺めながら「鉱物みたいなお菓子と飲み物」を楽しめる、日本初のカフェ&バーです。
▲カラーバリエーション豊富な「蛍石」をイメージしたカクテル。飲み物は、ノンアルコールのものもある
フジイさんが「鉱物bar by 鉱物アソビ」の活動を始めたのは、2008年から。
暮らしのなかで愛でる、鉱物の楽しみ方を企画・編集・執筆した『鉱物アソビ』『鉱物見タテ図鑑』(ともにスペースシャワーブックス)という、2冊の本の出版がきっかけでした。
フジイさん:
「当時はSNSもあまりなく、鉱物を愛でるという趣味がまだ知られていませんでした。なので、化学的知識に紐づく楽しみ方でも、パワーストーンでもなく『鉱物ってこんなにきれいなんだ』と、鉱物の天然そのものの驚きの造形美と奥深い世界を、あまり構えずに体感して楽しんでもらえる、今までにないリアルな “場” を作りたかったんです」
鉱物Barは、海外で買い付けた鉱物の標本だけでなく、鉱物と一緒に楽しめる雑貨や作家ものの作品など『鉱物のことなら何でも揃っている』ギャラリーショップでもあります。
鉱物は、地球がつくった究極のアート
田舎で生まれ育ったフジイさんは、小さい頃から自然に触れるなかで、野に咲く草花と同じように、河原や山にある石ころにも興味を惹かれて集めていたそう。それが高じて自然と鉱物好きになっていったのだとか。
フジイさん:
「鉱物や岩石、いわゆる石は自然界で唯一の無機物です。命がないからこその凛と静かな存在感に魅力を感じます。
人類が誕生する、はるか45億年前から存在する雄大さと、無機物ならではの永遠性。なにより美しい色や質感、かっこいい幾何学形の結晶形。こんなに美しいものが、一切加工していない天然そのままということの自然の凄さ、人類では到底かなわない地球の創造力の高さに、心を撃ち抜かれてしまったんです」
▲カラーバリエーションの豊富さ、お菓子のような質感、産地ごとに異なる個性で人気の蛍石は、ブラックライトをあてると蛍光するものもあるのが魅力
異なる鉱物がつくり出す、組み合わせの妙
鉱物の標本は、一種類の鉱物だけの結晶(たとえば蛍石だけの結晶)を見るのも楽しいけれど、鉱物ならではの造形のおもしろさは、違う種類の鉱物が組み合わさったタイプの標本だそう。異なる種類の鉱物が、一緒についていることを「共生」というのだとか。
フジイさん:
「店内にある標本で鉱物マニアの方ほど感嘆されるのが、こちらの鉱物。赤鉄鉱(せきてっこう)という、鉄の一種です。一般的に赤鉄鉱は、まさに黒色の塊みたいな標本が大半ですが、これは黒い薔薇のように結晶が薄く、繊細な花弁状になった珍しいタイプで『ヘマタイトローズ(=赤鉄鉱の薔薇)』と、特別に呼ばれるもの。
さらに鉄の成分を含んで赤くなった水晶が共生していて、唯一無二の美しさを創り出しています。加工や研磨をほどこした宝石とは、また違う魅力ですね」
▲透明な水晶に緑泥石という別の鉱物が内包されることで、結晶の中に景色・個性が生まれる
「鉱物の個性をつくるのは、じつは不純物なんです。不純物ときくと、あまり良いイメージがないかもしれませんが “不純” と決めているのは人間であって、この自然界にはさまざまな元素、物質があってこそ成り立っているわけです。
たとえば山入り水晶と呼ばれるこちらの水晶。無色透明な水晶のなかに、緑泥石(りょくでいせき)という別の鉱物が入っているのが特徴です。共生していたり、不純物を内包していたり、いろいろないまぜになっているからこそ美しい。それが鉱物ならではの面白さですね」
▲唯一、本当に食べられる鉱物が岩塩。岩塩のなかでも、特に希少なブルー岩塩コレクション
手のひらにのる小さな鉱物のなかに広がる大自然
フジイさんにとって鉱物は、常に子どもの頃から傍に在るものだったそう。
フジイさん:
「自然は天災などの怖いこともあるけれど、生きている以上、人間にとって絶対に必要なものですよね。東京で暮らしていると自然の凄さや美しさを実感しづらいけれど、手のひらにのる小さな鉱物を見るだけで、たちまち大自然へトリップできてしまう。
同じ一つの鉱物の標本でも、見れば見るほど新しい発見があるし、新しいインスピレーションも湧きます。
好きなものって、たとえば音楽やファッションなどいろいろあっても年代や時代性で好みが変わっていくことが多いと思います。でも、私の場合、鉱物だけは飽きることがなく、鉱物に関わる歴史・文化・美術とますます興味が広がっていくんです」
違う種類と共生したり、不純物を内包したり。鉱物の美しさや個性がつくられる過程の話を聞いて、なんだか少し人間とも似ているような気がして身近に感じました。それに鉱物を見つめながら考えることは、人それぞれの解釈があっておもしろいなあとも。
つづく後編では、鉱物の楽しみ方や、飾るときの注意点など基本の「キ」を伺っていきます。
【写真】井手勇貴(1,2,4,6,7,10,12,13枚目)、大沼ショージ(5,14枚目)
もくじ
鉱物Bar by 鉱物アソビ
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-34-10 204号室
営業時間:木金 14〜LO20時、土日13〜LO19時
定休日:月〜水(祝日の場合は13〜LO19時営業)
Instagram(@koubutuasobi_info)
TWITTERは(@KoubutuAsobi)
最新の営業情報はInstagram、Twitterにて随時更新
フジイキョウコ
「鉱物Bar by 鉱物アソビ」店主。2008年の初著書『鉱物アソビ』、2010年『鉱物見タテ図鑑』で鉱物ブームを巻き起こし、今までにない鉱物世界を提案する先駆者に。2008年〜は鉱物みたいなお菓子と飲み物を提供する日本初の鉱物Barも始める。2017年横須賀美術館での美術展をはじめ企画展も多数開催。鉱物の魅力や文化歴史を紹介・提案する企画編集執筆や、広告や作品のための鉱物コーディネート等も行う。
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