【連載|お星さんがたべたい】09:おまじない
小原 晩
おまじないというか、願掛けというか、祈りというか、ルーティーンというか、習性というか、プラシーボというか、こうするとこうなる、ような気がする、みたいなのってあるものだ。私の場合は、午前二時を過ぎた頃に、ブラックコーヒーと甘いものをひとつ食べると、それから三時間くらい集中できる、というおまじないがある。つまりは糖分とカフェインなのだから、ほんとうに効いているような気もするのだけれど、科学のことも身体の仕組みのことも私はよくわかっていないので、ほんとうのところはいつもわからない。
おまじないのかなしいところは効かないときの絶望である。いつもは効果のでるものが効果のでないときの激しい落ち込みからはなかなか逃げられない。闇の袋小路である。けれども、私も完全に大人なのだから、そんなふうに簡単に絶望の穴へ落ちていないで、次から次へとおまじないを用意しておけばよいのではないか。誰かに依存し過ぎないためには、依存先を増やすことが大切であるというようなことを聞いたことがあるけれど、それはおまじないに関してもそうだろう。ひとつのおまじないに依存しないための策として、その他のおまじないも探しておいたほうがよいと思われた。
・こっそりとグミを噛む
学生のとき、先生に隠れて食べたざらざらのグミはやけにおいしかったし、何となく集中しやすかったような気がする。ひとつのことに集中しようとすればするほど気が逸れていくように、落書きなどの手遊びがあるほうが人と話しやすいように、噛みながら仕事をするのは良い気がする。それならグミよりガムのほうがいいのでは。そう思う人もいるだろうけれど、ガムから味がなくなると、やけに悲しい気持ちになる時があるので却下したい。味のないガム、夕焼けよりさびしい。
・おなかいっぱいおいしいものを食べてから気のすむまで眠る
賭けである。一度、今日という日の生産性を捨ててしまおうという話である。満たされていない自分を無理に働かせるよりも、まずはご褒美を与えて、自分のことを大切に思っているという態度、決して自分のことをないがしろにしないという態度をとるのだ。さすれば自分もここまでしてもらったんだから頑張らなくては、という気になってくるというのが人情ではないのか。自分と自分の人情である。ご自愛とは人情である。
・おさけに頼る
あまりよくないとは思いつつも、時にはいいのではないか。ほどほどであれば、きっと許される。ひとりきりではほどけないものをおさけに頼ってほどくのである。ほどいた先に何かがあればいいけれど、何もないときも多いだろうな、とは思う。
以上が思いついたおまじないである。というより普段実践していることの多いおまじないである。ろくなものでない。特におさけは褒められないと思う。規則正しく起きて寝て、三食食べて、運動をして。健康な生活は一番効果のあるおまじないであろうと思う。けれど、そういうことはできる人とできない人がいるのである。今の私には到底辿り着くことはできなさそうだから、何とか自分の生活にあったおまじないをこれからも増やしていきたいものである。この原稿はパンケーキ二枚とブラックコーヒー二杯のおまじないの効力によって書かれたものであることを、最後に記して終わりとする。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
感想を送る
本日の編集部recommends!
私のおまもりウエア
カラダがあたたまると、ココロもほぐれる。長田佳子さんが出合った理想の「保温インナー」って?【SPONSORED】
期間限定のニットフェアが始まりました!
ベストやプリーツスカートなど、人気アイテムが対象に。ぜひこの機会をご利用ください♩
お買い物をしてくださった方全員に「クラシ手帳2025」をプレゼント!
今年のデザインは、鮮やかなグリーンカラー。ささやかに元気をくれるカモミールを描きました。
【動画】1時間あったら、なにをする?
通い慣れた場所で、寄り道して小さな発見をする(イラストレーター・イチハラマコさん)