【あのひとの子育て】山﨑宏さん、瑞弥さん〈前編〉 同じ時間を暮らした分だけ、家族はもっと家族になる
ライター 片田理恵
子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。正直、わかりませんよね。
だから私たちは、さまざまな仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、自分らしい子育てを楽しんでいる“あのひと”に。
連載第20回は、江戸時代から続く米農家の6代目として家族で米作りに励む「お米農家やまざき」こと山﨑宏(ひろし)さん、瑞弥(みずや)さんご夫妻、そしてふたりの長男・櫂(かい)くんと長女・千穂(ちほ)ちゃんにお話を聞かせてもらいました。前後編でお届けします。
17年間の子育てが、お父さんも育ててくれました
山﨑家のお米は農薬や化学肥料を使わずにつくられています。毎日食べるものだからこそ、すこやかなおいしさを届けたい。それが田んぼの長である宏さんの思い。
手間ひまを惜しまず育てたお米は太陽の恵みを受けて輝く「ひなたの粒」と名付けられ、一家とともに歩んできました。
長男の櫂くんが生まれて17年。子育ての日々は、そのまま米づくりの日々でもあったと、瑞弥さんは振り返ります。
瑞弥さん:
「嫁いできた当初は、あまりの重労働に音を上げたくなることもしばしば。長男を妊娠した頃からは体調を崩すことも多くなって、もう八方塞がりの状態でした。
そんな私を見かねて、夫がごはんを作ってくれるようになったんです。それが今も続いている。彼が『山﨑部屋のちゃんこ番』ですね(笑)」
それまでは台所に立ったことすらなかったという宏さんに、瑞弥さんは自分のやり方をひとつひとつ伝えていきました。
米を炊いて、味噌汁をつくり、魚を焼いて、青菜をゆでる。4人家族なら一食分でどれくらいの量を使うか。どう段取りすれば19時台に夕食が食べられるか。次の日の朝食やお弁当のことも考え、どこで何を買っておけばいいか。
そんなふうに夫婦で台所仕事を積み重ねてきて、今。一日三食+お弁当づくりのほぼ全てを宏さんが担当しているといいます。家族はみんなお父さんのつくるごはんが大好き。
瑞弥さん:
「子どもたちはもちろんですけど、お父さんもよく育ちました(笑)。
17年かけて仕事と家事・育児の両輪がスムーズに回るようになったと思います。
朝は子どもたちを送り出してから夫婦で田んぼに出て、午後は出荷作業。終わるのが大体19時前で、それから足りない食材の買い出しへ。帰宅して夫は食事の支度、私はパソコンで事務仕事、子どもたちはそれぞれ宿題や習い事。一息つく頃にごはんができるから、食べて寝る。
それがわが家の一日ですね」
4人そろってごはんを食べられることは滅多にない、でも
櫂くんはこの春高校3年生に、千穂ちゃんは中学1年生になりました。
授業の後に特別講習を受け、さらに学習塾に行くため、帰宅は22時を過ぎることも珍しくないという櫂くん。それでも、翌日着ていくためのYシャツを自分で洗って干すという日課を中学校からこれまで、休むことなく続けています。
中学受験を終えるまでの2年間、塾へと送迎する車の中では必ず仮眠をとらせていたというほどがんばって勉強した千穂ちゃん。くやしい不合格とうれしい合格の両方を手に、しっかりと自分で進路を決め、新生活を送っています。
瑞弥さん:
「最近は4人そろってごはんを食べられることは滅多にないです。だからたまにそういう機会があると、私がもう、うれしくてうれしくて。
食卓で過ごす時間をなんとか引き伸ばそうとケーキを買ってくるものの、『今日は甘いのはいいや』って言われてシュンとしたりしています。
もちろん夫も張り切って腕を振るうんですよ。でもそれが息子が中学生の食べ盛りの頃のメニューで。生姜焼きと餃子をWで出すのも当時は大喜びだったけど、今は『肉と肉は重いよ』って言われて、彼も彼でシュンとしたり(笑)」
子どもが育つ時間は、家族が家族になる時間
どんなに忙しくても、家族で囲むごはんの時間を大切にしてきた山﨑家。時間がなければないなりにできる手軽な献立を考え、野菜がなければ誰かが自転車で近所の直売所まで買いに行く。日常のごはんをおろそかにしたくないという宏さんと瑞弥さんの思いが、家族の暮らしを支えてきました。
瑞弥さん:
「家族で話をする時間が、今、一番楽しいです。食事のあとに温かいお茶をいれて、なんということもない話をする。興味があることだったり、読んだ本の感想だったり、テレビで観た内容とか、本当にとりとめもないことなんですけど、それが幸せ。
こういう取材では私がお話しさせてもらうことが多いので、山﨑さんの奥さんは話好きだと思われているんですけど、家族の中では私は聞き役なんですよ。3人の話が止まらないんです」
「子育ての取材」を、私たちはこれまでお父さんとお母さんに依頼していました。
でも山﨑家が当たり前のように家族4人で登場してくれて、わかったことがあります。それは、子育ては家族の軌跡でもあるということ。同じ時間を暮らした分だけ、家族全員が成長し、もっともっと家族になっているんだということ。そのことに今回、初めて気づきました。
続く後編では櫂くんと千穂ちゃんへのインタビュー、そして家族みんなの記憶に残っている10年前の田んぼでの出来事について、お話しいただきます。
(つづく)
【写真】川しまゆうこ
父・山﨑宏、母・山﨑瑞弥、長男・山﨑櫂、長女・山﨑千穂の4人で暮らす米農家。屋号は「お米農家やまざき」。埼玉県と茨城県で、農薬や化学肥料を極力使わずコシヒカリを栽培している。著書に『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)がある。
ホームページ https://www.okome-yamazaki.com/
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