【あのひとの子育て】山﨑宏さん、瑞弥さん〈後編〉寂しくて、喜ばしい。いつか来る巣立ちの日

ライター 片田理恵

家業である米づくりをしながら、高校3年生の櫂(かい)くんと中学1年生の千穂(ちほ)ちゃんの成長を見守る山﨑宏(やまざき・ひろし)さん、瑞弥(みずや)さん夫妻。

前編ではあっという間だったというこれまでの17年と、その時間を支えてきた家族で食卓を囲むひとときについて伺いました。

続く後編では、子どもたちが感じているお父さんとお母さんへの思い、4人がお守りのように大切にしている田んぼでの記憶のこと、少しずつ巣立ちへと向かう山﨑家の今をお聞きします。

前編から読む

 

子どもたちから見た「家族」と「子育て」

瑞弥さんのお腹の中にいる頃から田んぼで過ごしてきた櫂くんと千穂ちゃん。

子どもながらに、できる仕事はなんでも一緒にやってきました。無農薬で米づくりをする大変さ、大きな災害を乗り越えたこと。田植えや稲刈りでは頼もしい戦力として、今も家族総出で汗を流します。

両親が懸命に働く姿を誰よりも間近で見てきたふたりに聞いてみたかったことが、ふたつありました。

まずは、お父さんとお母さんそれぞれのいいなと思うところ。

櫂くん:
「お父さんはとにかくお米をつくるのが大好き。ひとつのことに熱中できるひたむきさがあって、すごいなと思っています。あとは料理の腕がいいところ。つくってくれるごはんがいつもおいしいです。

お母さんは家族をまとめてくれる強くて頼もしい存在。お父さんが好きなことができるのはお母さんがいるからだと思います」

千穂ちゃん:
「お父さんは田んぼでの農作業を楽しそうにやっているところ、どんなに忙しくても笑顔でがんばれるところがいいと思います。

お父さんが仕事に夢中になりすぎてお母さんが大変になっちゃうこともあるんですけど、そういう時でもお母さんは家族のことを考えてくれる。そこがお母さんのいいところだと思います」

もうひとつは、家族で過ごす好きな時間について。

千穂ちゃん:
「みんなで田んぼで仕事をしたあとに『お疲れさま』と言って食べるごはんが好きです。帰り道にお店に寄って外食をするのも、家に帰ってからお父さんがつくってくれたごはんを食べるのも、どっちも好きです」

櫂くん:
「小学生くらいの記憶なんですけど、田んぼで仕事をしてクタクタになって、お母さんと僕と千穂で『疲れたね』と話をしながら、日が暮れてもまだ夢中で仕事をしているお父さんを待っていたことがあって、その場面が好きです」

 

苦労を一緒に乗り越えた経験は、今を支えるお守り

子どもたちだけのインタビューの時間に櫂くんが話してくれた、田んぼでの出来事。驚きました。実はその前に私たちは、瑞弥さんからも全く同じエピソードを聞いていたから。

瑞弥さん:
「子育てを振り返って、一番に思い出す場面があるんです。

千穂がまだ2~3歳の時だから、もう10年くらい前。その日手伝ってくれた人たちはみんな帰って、私たち家族だけが残っていて、外はもう暗くなりかけていて。夫がトラクターで仕事をしているのを、私と子どもたちで待っているんです。

それは作業の工程上仕方がないんですけど、昼間降った雨と汗で全身ずぶ濡れで、だんだん空気が冷えてくるから寒いんですよ。体力的にも限界で、疲れ果てて、田んぼの横の小屋で椅子に座ってうなだれている。その場面が強烈に印象に残っています。ここまでやるのか、って。

今でも何か大変なことがあると『あの時よりマシだ』って話になりますね」

その場面が好きと話してくれた櫂くんと、本当に大変だったといいつつやさしい笑顔で語ってくれた瑞弥さん。

レジャーに行ったりするようないわゆる楽しい思い出とは違うその記憶を、大切なものとして心に持ち続けていることに、山﨑家の分かちがたい結びつきを見た気持ちがしました。

瑞弥さん:
「本当に大変だったけど、ポジティブな記憶なんですよ。

笑って話せるし、たまに話したくなる思い出。受験の時もふたりとも『稲刈りよりマシだ』って言ってたから(笑)。

あの経験があるから自分の体力の限界がどこなのかもわかっているし、目の前の問題に対して『まだ大丈夫』とがんばれる。お守りみたいなものじゃないですかね」

 

大事にしてきてよかった。でも、もっともっと大事にしたかった

仕事中心の暮らしで、これまであまりどこかに連れて行ってやることができなかった。瑞弥さんはかつて一度、千穂ちゃんにそれを謝ったことがあるといいます。

瑞弥さん:
「そうしたら、東京でおもしろい人たちにいっぱい会えたから大丈夫だよって。

納品やイベントなどで一緒に都内に出る機会があると、田んぼの手伝いにも来てくれる友人たちとよく食事をしているんです。

料理家さん、カメラマンさん、デザイナーさん。自分の目で世界を見て生きている大人を間近に感じながら育つことができたのは、子どもたちにとってかけがえのないことだったと思いますね」

お父さんとお母さんが大切にしているもの。どうやって協力しあい、認め合って、家族を支えてきたか。ひとりひとりの意思を尊重しながら、みんなで暮らしてきたか。櫂くんと千穂ちゃんにはしっかりと伝わっている。そんなふうに感じました。

瑞弥さん:
「子どもが小さい頃に仕事が忙しすぎて、成長する姿を十分に見られなかった。やり直せるならもう一回やり直したい気持ちは今もあります。

毎日のごはんを大事にしてきたことは本当によかったと思うし、でも一方で、もっともっと大事にすればよかったとも思う。17年はあっという間でした、本当に。

巣立ちが近いんだろうなって思うことはありますね。もちろん寂しいだろうし、その日は泣くかもしれない。でも、それは喜ばしいことじゃないですか。夫はきっとまだ寂しさが想像できていないと思います。それで、ある日突然号泣するんじゃないかな。ごはんを食べてくれる人がいないよ、寂しいよって(笑)」

4月も半ばを過ぎると、まもなく田植えの季節。今年も田んぼに家族の賑わいが響きます。

(おわり)

【写真】川しまゆうこ

 

父・山﨑宏、母・山﨑瑞弥、長男・山﨑櫂、長女・山﨑千穂の4人で暮らす米農家。屋号は「お米農家やまざき」。埼玉県と茨城県で、農薬や化学肥料を極力使わずコシヒカ リを栽培している。著書に『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)がある。

ホームページ https://www.okome-yamazaki.com/

 

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