【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第二十回:ぷるるん

山本 ふみこ

「ふんちゃん(わたしです)、熊谷に遊びに行っていいですか?」
 という絵はがきを受けとりました。
 送り主のなっちゃんは、三女の幼なじみです。初めて会ったのは保育園の玄関、ふたりは生後4か月でした。それから26年の歳月が流れ、なっちゃんは東京で、三女の栞はカナダのバンクーバーで仕事をしています。

 
 その日はきました。
 なっちゃんのために何か何か、と思いめぐらしていたとき、ひらめきました。
「ゼリー、つくろう」

 
 子どもがまだ家に住んでいた時代、わたしはせっせとゼリーをつくったのです。ざっと30年はつくりつづけていました。
「おふみさん(わたしです)の本には、やたらとゼリーが登場するわね」
 と友人にあきれられることもあったのです。
 ええ、ゼリーが大好きです。つくるのが好き。冷蔵庫のなかにゼリーがならんでいるのを見ると、安心します。
 フルーツゼリーやサイダーゼリー(これらは、なかにフルーツを入れます)、ミルクゼリー、ココアゼリー、ほか。
 いったいゼリーって、何だったのでしょうね。わたしのなかでは、重過ぎないおやつ、ちょっと食べたいときのひと口、でした。3人の娘が独立してから、わたしはしばらくゼリーを忘れました。

 
 なっちゃんは「むかし、ふんちゃんのゼリー、よく食べたなあ」と云いながら、食べてくれました。こうしてまた、ゼリーの日日がはじまったのです。うちにくるひとをつかまえては食べてもらったり、ときどきやってくる娘たちとなつかしんだり。そうそう、夫がうれしそうに食べるのには驚きました。
 そんな様子を見るにつけても、ゼリーって食べものではないのかもしれない、と思うまでになりました。いえ、食べものにはちがいないのですが、食べる側の……、つくる側の……「つかまりどころ」みたいです。
 ぷるるんとして頼りないようでいて、ひと息入れる、気持ちを切りかえる、場面転換する効果はあなどれません。
 さてわたしは、ゼラチン、寒天を使い分けてゼリーをこしらえています。じつはゼラチンと寒天を混ぜる食感もなかなかです。
 本日の「つかまりどころ」は、コーヒーゼリーでございます。

 

 

 

 

文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。著書多数。最新刊『むべなるかな』(ふみ虫舎)のお求めは、山本ふみこ公式HPへ。
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
https://www.fumimushi.com/うんたったラジオ/

 

写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
https://067.jp

 

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