【手をかける住まい】前編:ひとつひとつ、好きなものを集めて自分の暮らしを作っていく(編集者・長野宏美さん)
ライター 瀬谷薫子
住まいは人そのものだと、取材でお宅を訪ねるたび思います。その人が何を好きで、何に心動かされてきたのか。大切な軸はどこにあるのか。
住まいの中には、その要素が詰まっているよう。誰かを知りたいと思ったら、その家を訪ねることが近道なのかもしれません。
編集者の長野宏美(ながの ひろみ)さんの住まいもそんな空間。個性的な造作の家具に、長い歴史を感じる暮らしの道具。そのひとつひとつから人柄が見えるようです。
今回はそんな長野さんのインテリアを前後編で訪ねました。
前編では、編集者の彼女らしい「暮らしのもの」との向き合い方を。後編では、住まいの雰囲気を土台から作り上げたDIYについてお話を聞きます。
全国を旅して集めてきた、好きなものたち
編集者として、作家さんの手しごとなど、各地に残るものづくりを取材する機会も多い長野さん。都内の賃貸マンションに、夫と0歳の娘と3人で暮らしています。
ドアを開ければ、そこはセレクトショップのような空間。個性的な家具から、手仕事のぬくもりを感じる日用品まで、全国を旅する中で見つけたものが部屋のあちこちに飾られています。
長野さん:
「昔から、無骨な造作や手彫りの模様など、手仕事の温かみを感じるものが好きなんです。
仕事柄取材で作家さんを訪ねることも多く、直接お話しを伺う中で惹かれたものを、少しずつ集めてきました」
▲北海道で購入した作家・貝澤守さんの盆。アイヌ工芸の伝統的な文様が彫られている
結婚をきっかけに越してきた今の住まい。コンパクトな空間にさまざまなものが置かれていますが、不思議とまとまって見えるのは、それらのまとう雰囲気がどこか通じているから。
長野さん自身が選び持ち帰ってきたものが集まる空間は、まるでひとつの雑誌のように、長野さんらしい基準の中で編集されています。
インテリア小物の多くは、用途を決めずに買ったもの
▲石や土など、自然を感じるものが好き。石は「howtowrap」(左)、「stone +glass / 松原佐知子さん」(右)のもの
じっくりと考えて選ばれたように見えるこだわりの私物。けれど話を聞いてみると、もの選びの基準はごくシンプルで、直感的です。
長野さん:
「特にインテリア小物は置く場所や用途を決めて買うよりも、第一印象で質感や見た目にぴんときたものを連れて帰ることが多いです。
どうするか考えるのは、そこから。ランダムに集められたものがどこにおさまるか、家を見ながら考えていく作業も楽しみなんです。
特に作家さんの手仕事との出会いは一期一会で、機会を逃したら、同じものには出会えないかもしれません。後悔するよりは連れて帰ろうと、歳を重ねるにつれ、そう思うようになりました」
▲石川県・能美の窯元「上出長右衛門窯」で購入した九谷焼の招き猫は、あえて色付けの前の状態が気に入って入手。木台は木工藝家の森口真一さんの我谷盆(わがたぼん)
妊娠を機にお茶の時間が増え、もともと好きだった茶器もさらに充実。この盆は茶器をのせるものでしたが、窯元で出会った招き猫を迎え入れたことで、飾り台としての役目がしっくりきました。
いつかまたお盆として使うかもしれないけれど、今はここに。長野さんの住まいには、そんな風に定位置の決まらない自由なものばかり。
意味や目的に縛られていない、なににでもなれそうなものたちが集まった部屋には、心地のいい余白がありました。
好きなものを使う暮らしは、楽しい
▲好きになるととことん突き詰めるのも長野さんらしさ。キッチン上の棚には、さまざまな茶器がずらり
話の端々から伺える、ものへの愛着。その気持ちが育まれたのは一人暮らしをした頃で、きっかけは器でした。
長野さん:
「実家では割れにくく使い勝手のいいプレーンな器が定番でした。家事育児に奮闘する今となっては、その気持ちもわかるのですが、当時は子ども心に少し寂しくも感じていて。
はじめて一人暮らしをして、器を購入したとき、それにどんな料理が合うか、考えながら選んでいく作業がすごく新鮮でした。
なぜこの色が好きで、この素材が好きなのか。自分の好みを確かめながら選んだものを使うのは、こんなに楽しいんだと実感したんです」
▲料理を引き立たせる落ち着いた色味の器が好み。左から2点は「一翠窯」、右の2点は「宗艸窯(そうそうがま)」、上の小鉢は「NOVEM(ノウェム)」、下の平皿は岩田哲弘さんのもの
長野さん:
「そろそろ娘の離乳食がはじまる頃で、今はどんな食器を使うか検討しています。
ただ私は、子どもが使うからといって必ずしもプラスチックのものを揃えなくてもいいと思っています。
陶器では欠けたり割れることもあるかもしれませんが、金継ぎをする選択肢もありますし、それもまた思い出の跡。手にずしりと重みのある器を使うことも、食事を楽しむ経験の一部になってもらえたらと思うんです」
赤ちゃんとの暮らしも、小さくはじめていく
今年出産し始まった、赤ちゃんとの暮らし。ただ、子どもが生まれたことでの心境の変化は、意外なほどに少なかったといいます。
長野さん:
「子どもが生まれるから暮らしを変えようという考えは、はじめからあまり持っていませんでした。どちらかといえば、今の自分たちの心地いい暮らしに、どうなじんでいってもらうかを考えています」
インテリアは今も、大人にとっての心地よさがベース。その上でラグを取り入れたり、食卓をローテーブルに変えてソファを導入するなど、子どもにとっての居心地の要素を足していきます。
▲格子柄のラグはIKEAで購入。職人が一点一点ハンドメイドで仕上げたもので、汚れを落としやすいウール素材なのもポイント
▲アースカラーの落ち着いたワゴンは、ニトリで購入
オムツなどのこまごました衛生品は、収納力のあるスチールワゴンを取り入れてコンパクトに管理。
リビングに置きつつも、キャスター付きなので来客の時には寝室に移動することで、インテリアの雰囲気を保っています。
長野さん:
「一緒に暮らしてみなければ、何が本当に必要なのかがわからないから、子どものアイテムは、実は生まれてから買ったものばかり。事前に用意していたのは衣服など最低限でした。
今もベビーベッドはなく、小さな折りたたみ式のベッドインベッドひとつを、ベッドの上や居間など、過ごす場所に応じて持ち運べば十分に足りています」
便利な今の時代、欲しいものはネットで買えば翌日には届きます。だから、本当に必要なときに買った方が無駄にならないと長野さん。それはものを大切に考えているからこその、所有のけじめなのかもしれません。
一人暮らしから結婚、出産。暮らしに合わせて住まいの形は変われど、人には変わらない部分がきっとあります。
好きなもの、大切にしたいことはなんなのか。心地いい住まいのヒントは、自分なりのこだわりと、ものさしを持ち続ける先にあるのだと、長野さんのお話を聞きながら感じました。
そんな部屋の個性を出しているのは、家具や収納。じつはこのお家、目に入るものの多くが手作りなのです。
後編では夫婦で力を入れてきたDIYのお話をメインに、暮らしに手をかける醍醐味について伺っていきます。
【写真】上原未嗣
もくじ
長野宏美
編集者。日用品から住まい、街づくりまで。企業やブランドの「らしさ」を伝えるためのサポートを行う。日本各地のものづくりや、暮らしにまつわる取材と執筆、PRなども手掛ける。Instagram:@hrm_ngn。
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