【フィットする暮らし】BROCANTE 松田尚美さん 第3話:たくさん泣いて、そして今。仕事と子育ての間で。
編集スタッフ 齋藤
全4話でお届けしているシリーズ「フィットする暮らしのつくり方」Vol.14は、フランスの古道具を取り扱う「BROCANTE(ブロカント)」の店主、松田尚美(まつだ なおみ)さんです。
30 歳を機に「BROCANTE」の店主、そして母親になった松田さん。第1話で「来た船に乗るしかなかった」と表現した通り、深く考える時間もなく、人生の転機を迎えたといいます。
「BROCANTE」を訪れるお客さん、そして大切な子どもたち、ご両親にご主人。
周囲にいる人たちの想いに応えながら作られた現在のライフスタイルは、試行錯誤の連続の末に、出来上がったものでした。
仕事も育児も、中途半端にしたくなかった。
長男が生後6ヶ月の頃からお店に立っていたという松田さん。3年間ほどは子どもを保育園に預けず、面倒を見ながら仕事をしていたそうです。
松田さん:
「今はありませんが、昔はお店の奥にキッチンがあったんです。そこで食事を作って子どもに食べさせ、そしてお客さんが来たら接客をしてという感じで、もうしっちゃかめっちゃかでした」
松田さん:
「夕方になると疲れてくるので、子どもがぐずるんです。私もいっぱいいっぱいになってしまって、当時お店の奥にあった階段で、親子揃って毎日のように泣いていました。
母としても店主としてもどっちつかずで、すごく中途半端。それが嫌で、でもどうしようもなくて、涙が止まらなかったんです」
「やめたいと思わなかったんですか?」と聞いてみると、「それはもう、根性ですよ」という答えが返ってきました。
理想の母親と、理想の店主の間で。
松田さん:
「フランス人はお店をやっていても好きな時に休むし、ご飯を食べているからとお店に出てこない時もあります。育児も1歳に満たないうちに別々に寝るし、夜泣きもそのままにする。日本とは全然違う文化です。
羨ましいし、理想に思う時もある。けれど私は、そこまで割り切ることができない。
あの時はせっかくお客さんが来てくれているのに、ちゃんと相手ができていないと思い、申し訳ない気持ちでいっぱいでしたね」
松田さんが他の人の力を借りるようになったのは、とうとう体を壊し、病院に運ばれる事態になってからだといいます。
松田さん:
「疲れがたまってしまい、半日ほど入院しました。そこからようやく義母に手伝いを頼み、長男も保育園に預けるようになったんです」
松田さんは店主になる前、ご自身のお母さんのようにいつも家にいて子どもの相手をしてくれる、専業主婦になりたかったといいます。
お母さんが見せてくれた理想の母親像と、店主としての新たに生まれた理想像が、うまく噛み合わなかったタイミングだったのかもしれません。
「働いているように見えない!」子どもに、そう言われて。
松田さん:
「休日の方がお客さんも来やすいので、土日に休みを取るというわけにはいきません。子どもには『どうして土曜日まで保育園に行かなきゃいけないの?』と言われましたね。土曜日も保育園はやってはいるものの、友達も減るみたいで『僕だけどうして?』と思ったみたいです。
『お母さんも働いているから』と言ったら、『働いているように見えない!本当にお仕事してるの?』と言われてしまって」
松田さん:
「好きなことを仕事にすると、こうなってしまうんだなと思いました。休みの日も取引先の資料を読んでいましたが、好きなことだから私にとっては自然なこと。ただ子どもには私が好きなことをしているからこそ、義務に見えなかったのだと思います。
そんな時に保育園のベテランの先生に『親がどこにいて何しているかわからないよりも、全然良いのよ』と言ってもらって。
これで良いのかなって、思うことができたんです」
「ひたすら目標を追う」そういうスタイルは選べなかった。
松田さん:
「元々が有名になりたいとか、本が出したいとか、そういった想いではじめたことではありません。ましてや私は、お店を出したいという気持ちすらなかった。
だからいわゆる『ここまで売り上げを立てる』みたいに、明確な目標を作りそれを追う、なんていう仕事の仕方はできないんです。そもそも数字があまり好きではない。
アパレルの販売の仕事をしていた時に、そういうことも経験しました。ただ、私には合わないかなと思ったんです」
松田さん:
「私はお店に来てくれる人、みんなが楽しんでくれたならそれでいいんです。常連さんが遊びに来るとつい話が弾んで、時間なんて気にせず話し込む時も。
お店のバイトの子には『能率が悪い』なんて言われてしまうこともありますが、それがそんなに重要なのかなと思うんです」
お客さんも子どもも、どちらの望みも叶えたい。
松田さんの暮らしは、お子さんとお店に訪れてくれる人々、両方の気持ちに必死に応えようと努めた日々のように感じます。例えば「BROCANTE」のオープンの時間は、ちょっと遅めの13時。
これは家事を終え、子どもにお昼ご飯を食べさせてから仕事をしようと決めてのことだそう。
松田さん:
「最初は12時かなぁ、なんて思っていたんです。でもそれだと子どものお昼の時間が11時台になってしまう。それでは早すぎると思いました。13時にオープンにすれば、丁度良い時間に子どもにお昼ご飯を食べさせてあげられる。その習慣が、今でも続いています」
オープンの時間は子どもに合わせたけれど、土日はお客さんが来やすいように休まない。
みんなの気持ちにも、そして自分の気持ちにも100%で応えたい。そういう想いを、私自身も味わったことがあるように思います。そしてだからこそ、どちらにも応えきれない自分に罪悪感を感じてしまう。
どこかで折り合いをつけなければならないけれど、それは果たしてどこなのでしょう。その答えは、目の前にあるものを注意深く見て、感じて、少しずつ判断を重ねていくより他ないように思います。
その途中で、どうしても自分の限界とも向き合わなければならない。
だからこそ苦しくて、時間がかかって、そして正解なんてないからこそ、難しいのですね。
最後の第4話ではバイヤーとして、そして店主としてのこだわりや想いをお聞きしました。仕事を通し、松田さんにとってのフィットする暮らしがどういったものなのかをご紹介します。
(つづく)
【写真】岩田貴樹
もくじ
松田尚美
アパレルの販売を経験後、夫とともに立ち上げた東京都自由ヶ丘にある造園のプランニングとフランスの古道具を販売する「BROCANTE(ブロカント)」の店主・バイヤーとなる。2児の母。
http://brocante-jp.biz/
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