【ドジの哲学】引っ越し好きが高じて
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その14
引っ越し魔の忘れられないつぶやき
ここ三年はその悪癖がおさまっているが、恥ずかしいほどの引越好きである。今の家の前は一年一か月で越した。理由はそれぞれにあるのだが、期間だけ書くと、我慢の足りない人みたいでなさけない。
引越を決定した時の話で、忘れられない思い出がある。
息子が高校一年だった。「あいつのおかんのドジがおもしろい」という噂が息子の友だちの間でちょっとだけ広まり、当時、息子からはフォローされていないのに彼の友だち何人かに、私のツイッターをフォローされていた。
ある日。午前10時頃だったか。気になっていた物件の諸条件が整い、転居を決めた。
「よし、決めた。引っ越そう」
と、ツイッターでつぶやいたら、友だちのT君が授業の合間にそれをいち早く読み、次の休み時間に息子に
「おまえんち、引っ越すんだって?」
と聞いてきたらしい。T君は当然息子は知っていると思ってのことだ。
「え?」
目を白黒させたのは息子である。何も相談してなかったのだ。
帰宅した一言目が、
「ねえ、ウチって引っ越すの? Tから聞いたんだけど」
自宅の転居を友人から聞き、母に尋ねるとは、なかなかシュールな問いかけであった。
また、こんなこともあった。息子がオーストラリアへ一か月のホームステイに行ったとき。帰国直前にこんなメールが来た。
「おとんから『一応念のため、帰国する前に引っ越してないかどうか、確認だけはしろ。おかんは何をしでかすかわからないから』って言われたんだけど、ウチ、越してないよね?」
越してないよと返信した。親子で、こんな確認ってあるだろうか。
客観的に、子どもの立場で考えると、こんな落ち着きのない母親は困るなあと思う。しかも、そんな一家の一大事をツイッターでつぶやくなんて、安直すぎる。
今年も、子どもや私宛の年賀状に「この住所で合ってる?」と書かれたのが何枚かあった。私のせいで、子どもたちも住所が不安定な人に、見られてしまっている。申し訳ないことをしたと、しみじみ反省した次第である。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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