【ドジの哲学】忘れたことさえ、忘れてしまって
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その16
干し忘れ
もの忘れのひどさを年のせいにして、反省をしない癖がついた。開き直ってはまずいと思いながら、やがて忘れて困った体験さえも忘れていく。いよいよ自分でも、これではいけないと、なんでもスマホのメモ機能に記録するようになった。
今日も、郵便局に行くついでに買うものをスマホにメモした。電球、ティッシュペーパー、シール付きフック。その前に、昨日研ぎに出した包丁をピックアップせねば。で、包丁は受け取ったが、郵便局の帰りに知り合いと会い、おしゃべりしながら帰ったら、買い物を全部忘れた。そして家に帰ると、スマホがあった。そもそもメモしたスマホを家に忘れていたのである。いくらなんでもと、自分に呆れた。
そして、私は、今現在、最大の忘れ物を誰にも言っていない。梅雨どきに塩漬けした梅を干していないのだ。昨年の7月に漬け終わったころ、たまたま3日連続の晴天がなく、干すタイミングを逸したまま、梅は冷蔵庫の奧にある。これは冷蔵庫を開けると気づくので、忘れたわけではない。正確に記すなら、「干し忘れたこと」は、忘れていない。
なんとかしなくてはと思っているうちに、とうとう年が明けてしまい、自己嫌悪に陥っている。
と、ある日、著名な有機農家の方を取材すると、「じつは梅を干してなくて……。まだ間に合いますかね」とおっしゃるではないか。おまけに「去年の7月のはじめって、3日間晴れた日が少なくなかったですか?」と。
そうそう!じつはうちもそうなんですと、初めて人様に情けない秘密を打ち明けた。どれほど心が楽になったことか。食のプロでもそんなことがあるのだなとほっとした。その帰りの足取りの軽かったことといったら。
そしてまた、反省をしないという悪循環に……。
今月は干します!(宣言)
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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