【受け継いだもの、こと】夏椿店主 恵藤文さん 前編:年を重ねても、できるだけ長く働ける女性でいたいから
ライター 大野麻里
人は誰かに育てられ、経験を積み重ねていくもの。
誰もが、社会に出て生活をし、誰かの影響を受け、成長しています。その “誰か” は家族だけでなく、時にパートナーや友人であったり、職場の上司や同僚だったりするかもしれません。
シリーズ「受け継いだもの、こと」では、さまざまなフィールドで活躍する方に、これまでどんな価値観を受け継ぎ、今の自分をつくっているかをうかがいます。
第3弾では、器と生活雑貨の店「夏椿」を営む、恵藤文(えとう あや)さんを訪ねました。
育ったのはサラリーマン家庭。そのセンスと行動力は、一体どこから?
駅から徒歩約15分。お店としては決してアクセスがよいとは言えない住宅街の一角に、「夏椿」はあります。それでも、毎月行う展示会やイベントは大盛況。遠方から足を運ぶお客さんも、あとを絶ちません。
お店に並んでいる商品が魅力的なのはもちろんですが、「夏椿」がこんなにも人を惹きつけるのは、店主の恵藤さんの人柄にあると思うのです。その大らかで頼もしい性格と、テキパキとした仕事ぶり。加えて、時代をつかむセンスのよさ。
この感性の高さと、女性ひとりで店を切り盛りするバイタリティは、一体どこで培われたものなのでしょう……?
恵藤さん:
「実家は何か特別なおうち、という感じではまったくなくて……。父はサラリーマン、母は看護師として働きながら子育てをする、ごく普通の家庭で育ちました。
私は3人姉妹の真ん中。姉は図書館司書、妹はファイナンスという堅実な職業に就いていて、自由気ままな性格は私だけ。子どもの頃から気が強い子で、父からは「男の子だったらよかったのに」と言われたこともあります(笑)。
しいて言うなら、父は家で油絵を描いているような人でした。美的なものを追求したがる性格は、父譲りなのかもしれません。母はいつも忙しく働いていて、月に何度かある当直の日は、子どもたちでごはんの準備を手伝ったりしたことを覚えています」
「好きなもの、変わらないね」と言われて
もしかして、自分はこだわりが強い性格なのかな? と自覚したのは、小学2年生の頃。しましま模様のハイソックスがどうしても欲しくて、「この靴下じゃないといや!」と主張したというエピソードを、恵藤さんは笑いながら教えてくれました。
恵藤さん:
「好きなものの許容範囲が狭くて、その理由も自分の中には、はっきりとあるんです。それを、うまく表現はできないんですけど……。それは今も変わりません。
最近、20歳の頃の知り合いに久しぶりに会ったら『好きなもの変わらないね〜』って言われて。あぁ、そういえばそうだな、と自分でも気づいたんですよね。身につけているものも、あまり変わってないみたいです」
そう話すと、何やら奥にしまってあったものを取り出しに行った恵藤さん。戻ってきた手に持っていたのは、約30年前に買ったという「インバーアラン」の手編みのニットでした。いま見ても古さを感じない、普遍的なデザインです。
恵藤さん:
「当時3万円ぐらいしたかな? 若いのに、高価な買い物ですよね。でも、その頃から納得いくものを買うことが好きでした。このニットはどうしても捨てられなくて……。シミがついてしまったので、藍で染め直して、また着てみようかなと思っているんです」
仕事観を変えてくれたのは、職場の先輩だった
恵藤さんが20歳の時、初めて就職したのが、ニューヨークに本社があるインテリアショップの日本店舗でした。当時からインテリアや生活まわりのことに興味を持っていたそうですが、入社して配属されたのは経理の部署。
その頃は、男女雇用機会均等法が制定されて、2〜3年しか経っていない時代。まだ職場で活躍している女性はそう多くはいなかったと、当時を振り返ります。
恵藤さん:
「男性と女性の仕事が区切られていて、女性であるというだけで、なにもできないと思ってしまうような雰囲気がありました。
でも、後日の上司にあたる女性の先輩が、男性と対等に働くタイプの人で……。社長室でやりあっている姿を見て、そういう人もいるんだ!ってびっくりしたんです」
▲当時働いていた店で売っていた、木に金が貼られたティッシュボックス。いまでも愛用している
恵藤さん:
「彼女は仕事が早いし、語学も堪能。頭がキレて、そして、すごく恐い(笑)。私もよく叱られました。でも、負けん気が強い性格だったから、チクショー!自分もやってやるぞ! みたいな気持ちで仕事に取り組んでいましたね。おかげでショップ事業部に異動もできて、店舗立ち上げの仕事などを担当するようになりました。
叱ってもらうのって、財産になりますよね。当時、男性の上司は、女性だからと気を遣ってくれて、あえて厳しいことを言わなかったこともあって。私はその女性の先輩に、すごく勉強させてもらったなぁと思っています」
恵藤さんにとって、働くことは人生を楽しむこと
恵藤さん:
「働くことへの考え方は、母の影響もあると思います。母は子育てをしながら看護師として働き、70代前半まで現役でした。だから、私たち3姉妹は、結婚しても、子どもがいても、女性が働くということを当たり前に感じていたのかも」
「働かなきゃ」ではなく、「働きたい」と率直に言えるのが、恵藤さんの背中を押し続けている、強さなのかもしれません。「自分のしたいことや買いたいものを、遠慮するのが私は苦手だし」とさらりと言い切る姿は、結婚していても自立した志をもっているように見えて、とても印象的でした。
恵藤さん:
「母のように、私もできる限り働きたいですね。体力は衰えるだろうから、ずっと同じ営業の仕方じゃなくても、期間限定にしたり、誰かに手伝ってもらったりして。やり方を変えながらでも、この仕事を続けて行けたらいいなと思っています」
後編では、勤めていた会社がまさかの倒産、その後の転職とさまざまな経験を経て、自身の店「夏椿」を開くまでのお話をうかがいます。
(つづく)
【写真】小野田陽一
恵藤文(えとう あや)
東京生まれ。青山のインテリアショップで雑貨仕入れを担当。作家と共同でつくるオリジナルグッズなどを手がけた。2005年、器と雑貨の店「KOHORO」の店舗立ち上げを経て、2009年には、自身の店「夏椿」をオープン。普段はひとりで店を切り盛りし、月ごとに企画展やイベントを開催している。http://www.natsutsubaki.com
ライター 大野麻里(おおの まり)
編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。現在、夫とふたり暮らし。
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