【子どもと楽しむ木育の世界】第1話:木のおもちゃが、子どもの「発想力」や「集中力」を育んでくれる
ライター 大野麻里
木とのふれあいを通して、子どもの心を育てる「木育(もくいく)」をご存知ですか?
もともとは北海道で提唱されていた教育活動ですが、幼い頃から木に触れることで、子どもの成長にさまざまな刺激や影響があることが、近年分かってきたのだそう。
今回、訪れたのは東京・四谷三丁目にある東京おもちゃ美術館。都会の真ん中で木育に取り組む、副館長の石井今日子(いしい きょうこ)さんにお話を伺いました。
木のおもちゃが、 子どもの五感を育ててくれる
取材に訪れた日は平日だったにも関わらず、開館時間と同時に赤ちゃん連れのお母さんたちが続々と集まってきました。
お目当ては、0・1・2歳を対象にした1階の「赤ちゃん木育ひろば」。ここでは国産木材で作ったさまざまな木のおもちゃが用意されていて、自由に遊べるスペースになっています。
石井さん:
「0〜2歳はいろんなものを触ったり、なめたり、においを嗅いだりして、五感で感じる年齢。その感受性の豊かな時期に、手ざわりの心地いい木のおもちゃを与えることはとてもいい刺激になります。
木のおもちゃは、遊び方やルールが決まっておらず、自分主体に考えられるのもいいところ。いくつも積んだり、ひっくり返したり、握って楽しんだり……と、いかようにも遊ぶことができるんです」
発想力を育む、ものを「見立てる」チカラ
「これ、何に見えますか?」
そう言いながら石井さんが手にしたのは、北海道の職人さんが作ったという木製玩具。前後に転がる車輪が付いていて、大人が見ればそれが車であることはすぐにわかるのですが……
石井さん:
「そうでしょう? でも、子どもは違うんです。『でんでん虫!』『おうち!』『おにぎり!』と叫ぶ子もいれば、『パパの車』や『消防車』と答える子もいます。
大人から見たらこれは絶対に “パパの車(車種)” じゃないけれど、子どもの目には、大好きなパパの車に見えたのでしょう。
子どもには “ものを見立てる力” があるので、その自由さが発想力を育てます。そういう面からも、木のおもちゃは低年齢のお子さんにとてもいいんです」
子どもより先回りしてしまっていませんか?
石井さん:
「赤ちゃん木育ひろばを見ているといろいろな親子さんがいらっしゃいます。すべてがそうではないですが、パパとママでは異なる傾向があって、面白いんですよ。
ママは子どもと過ごす時間が長いので、数あるおもちゃの中から “うちの子はこれが好き” というのが大抵わかるんですね。
それでおのずと『○○ちゃん、持ってきたよ!』と先に子どもに渡してあげる。もちろん、子どもはそれを気に入っておおいに楽しみます」
一方、お父さんは……?
石井さん:
「パパはこういう場所で遊ぶことに慣れていないからなのか、『どうぞどうぞ……』と周りに遠慮して、子どもを先に行かせるんです。
すると、子どもは目に飛び込んできたおもちゃを手に取る。そして、自分で工夫して遊んでみる。それを見たパパの方が、『わぁ、これ何?』『どうやって遊ぶの?』と感動していたりするんです」
石井さんのこのお話、子育てにおいてどちらが正解というわけではありません。ママとパパの立場が逆だったり、どちらにも当てはまらない家庭もあるでしょう。
ですが、せっかくならば赤ちゃん木育ひろばでは「先ほどの話のパパのように行動してみて」と、アドバイスをくださいました。
石井さん:
「子どもは自分で選んだものには、すごく集中して取り組みます。
自分で見つけることは実はとても大事なことで、ゆくゆく大きくなったときに、マニュアルどおりでなく、みずから考えられる力につながります。
それを子ども自身が楽しいと感じながら、経験してくれるのが一番です」
▲お話を伺った副館長の石井さん
子どものためにと先回りしそうになるのをぐっとこらえて、子どもに選択や判断を委ねてみる。ささやかなことですが、新たな気づきが生まれるかもしれません。
石井さん:
「子どもとどう遊んでいいのかわからない、と悩む親御さんが、案外少なくありません。赤ちゃん木育ひろばでも『どうしたらいいですか?』とよく相談されるんですね。
大人にはつまらないものに見えても、小さな木のかけらが子どもには素晴らしいおもちゃになります。
子どもに教えてもらう気持ちで、好奇心を持って声をかけてあげてください」
木を使った空間が、子どもの集中力を高める
東京おもちゃ美術館で、もうひとつ興味深いことがありました。それは、床の話。
赤ちゃん木育ひろばは、東京・多摩で採れた天然スギのフローリングが敷かれています。聞けば、天然の木材を使った内装は、子どもの集中力を高めると言われているのだとか。
石井さん:
「自然のものですから、色の微妙な違いや、ところどころに節や模様があったりして、ふたつと同じものはありませんよね。その環境が心をリラックスさせて、長時間いても疲れにくいのだそうです」
なるほど、それは大人も同じかもしれません。無地の真っ白い空間にいるよりも、木材を使った空間の方が何となく落ち着く気分になるのは、そういう理由なのでしょう。
自宅の床や、子供部屋の勉強机を木材にすることも、立派な木育につながるそうです。
▲東京おもちゃ美術館にはさまざまな木のおもちゃが。赤ちゃんだけでなく、幼児、小学生、大人まで楽しめる
木育は、子どもの心を育むのももちろんですが、じつは国産木材消費につなげたいというのが基本理念。
現在、国産の木材自給率は低下を続け、木材のほとんどがコストの安い輸入木材に頼っている現状。
子どもに木を好きになってもらって、大人になったときに「日本の自然を、森を、大事にしたい。木の家の住みたい」と自然と思ってもらうことで、日本の森の将来を支えたいと考えているそうです。
知れば知るほど、奥の深い木育の世界。2話では、身近な生活の中でできる木育をご紹介します。
(つづく)
【写真】有賀傑
もくじ
石井今日子(いしい きょうこ)
東京・四谷三丁目にある、認定NPO法人「芸術と遊び創造協会」が運営する「東京おもちゃ美術館(http://goodtoy.org/ttm/)」副館長。長年、保育士として働いていた経験を生かし、子どもに寄り添った木育を広める活動に携わる。自治体や企業に提案し、一緒に木育推進の活動も取り組んでいる。
ライター 大野麻里(おおの まり)
編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。現在、夫とふたり暮らし。
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