【新連載|金曜エッセイ】『あ、それ忘れてました(汗)』がはじまります — 文筆家・大平一枝

文筆家 大平一枝

 


第一話:友だちの作り方って?


 

 ずいぶん久しぶりに、立食パーティというものに出た。賑やかなところは好きなのだが、最近は、人がたくさんいすぎるとどうしていいものか、緊張してしまう。先日の会は、知り合いのオフィスで、心づくしの料理と、ソムリエが選んだワインを20人ほどで堪能する、こじんまりとしたなごやかなものだった。
 最初は初対面の周囲の人と自己紹介をしあった。ひとしきり話がすむと、そのうち顔見知りの輪のほうに移動し、結局最後までそこにいた。せっかく新しい横のつながりを、と主催者は企画してくれただろうに、つい楽な古い仲間の輪に居座り、申し訳なかったなとあとから反省した。同時に、ふと思った。私はこういう場所で友だちを作る方法を忘れてしまったな、と。

 駆け出しライターの頃は、そういう場が楽しみだった。名刺を配ったり、一生懸命相手の好きそうな話題を考えて盛り上げたり。どこで仕事の縁が広がるかわからないということもあるし、単純に、新しい友だちが増えるのは喜びだった。
 ところが、歳を重ねると、だんだん、新しい友だちを増やすことに積極的でなくなる。
 いつか、取材した女優さんが、「携帯電話に登録する友だちは多くとも5人で十分」と言っていて驚いたものだが、今はそれが少し理解できる。
 パーティでしゃかりきになって友だち作りをするような年齢でもないが、年を重ねるというのはこういうことかと、半分淋しくも思う。

 人生には、忘れてはいけないこと、忘れていいこと、忘れないとやっていけないことがある。
 ああいう場での友だちの作り方ってどうするんだっけ? かつて自分はどうしていたっけと振り返ったら、思いがけず、仕事を広げるのに一生懸命でがむしゃらだった20代の私に再会できた。あのときの私があるから今の自分がある。必死だったひよっこの自分の頭をよしよし、と撫でてあげたいような不思議な気分になった。

 大切な人との仲直りのしかた。ついこの間まであったすてきなマナー。小さなドキドキや、ほのぼのや、わくわく……。本連載は、あー、それ忘れていたけどなかなかいいもんだよなあ、という忘れ物探しがテーマである。
 それはつまり、小さな幸せを再発見し、脳裏に再登録するという作業で、忙しい日々の隙間にとりこぼしてきた小さなハッピーのかけらをすくいとることでもある。
 よかったら、あなたの忘れていたこともお寄せくださいね。
 連載開始、宜しくお願いいたします。

 
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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『dancyu』『東京人』等。近著に『男と女の台所』(平凡社)、『あの人の宝物』『紙さまの話』『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。

 
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」

 


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