【スタッフコラム】小さな台所が好きです。

編集スタッフ 齋藤

小さな台所が好きです。

リビングや書斎、庭はひろい空間に憧れがあるけれど、台所はコンパクトな方が私の好み。

私の今の台所は、横に小さく3歩もあるけばすぐ壁です。

お弁当の卵焼きみたいに、空いていたところにきゅっと詰められたようなコの字型の空間で、一人で立っているときは、なんだか個室にこもっているような気分になります。

小さくって窮屈で、でも、そこが好き。

私にとって、とても落ち着ける場所です。

 

キッチンは、素でいられるのが理想です

日々、いろいろなことで頭の中はぐるぐるとしているけれど、いつだって料理だけは「おいしいものを食べたい」という明るくシンプルな目標にまっすぐ進んでいけば良い。

そのことが、私にとってかけがえのない毎日の光だったりします。

なので料理の最中は、できるかぎり自分自身もシンプルでありたい。それを叶えてくれるのが、私にとっては小さな台所なんです。

まるで茶室みたいに小ぢんまりとして、若干引きこもり気味な空間の方が、「たったひとりでこの場にいる」という実感がわくからか、心が落ち着く気がします。

さらに今の台所は窓の方向を向いているため、居間に背を向け、自分だけのリズムにどっぷりつかることができるんです。

祖母の家も、思い出してみれば北向きに窓がついていました。小さい頃は、薄暗く、にぎやかな居間から離れたその昔ながらの台所を、なんだかちょっと湿っぽく感じたものです。

けれど大人になって、自分が日々台所に立つようになってみたら、ガラッと見方が変わってしまいました。

今では、なんて贅沢な空間だったのだろうとさえ思っています。

ひとりきり、「おいしいもの」のことを考えて、ひたすら手を動す。夏は窓をあけはなして鈴虫の声を聞き、冬はむわりとガラス越しの冷気が手元に落ちてくるなか、コンロの火をつける。

頭がどうにも働かず献立が決まっていない日などは「どうしたらいいのー!」と、はちゃめちゃな気分で落ち込むこともあります。

でも、やることがするっと決まっているときは、例え仕事帰りで疲れていたとしても、この無心で料理を作る時間が、私にとっての癒しなのです。

 

そういえば、大好きなあの本の主人公も

▲書名『キッチン』、吉本ばなな著、福武書店

そんな台所への愛を書いていたら、思い出しました。作家・吉本ばななさんのデビュー作も「理想のキッチン」を例えにして、自分の新しい居場所を探すまでの物語。

子どもが何をしているのかしっかり見える対面式の方が良いというお母さんもいるでしょうし、収納がたっぷりのキッチンが良い、という方もいるでしょう。

居心地の良い場所はみんなそれぞれ違うものですし、そしてきっと移り変わっていくものでもあると思います。

私自身も、いつか違う台所を大好きと思う日が来るかもしれない。

けれど、今は、この場所が愛しくて仕方がありません。


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