【店長コラム】「生活はアート」なんだと、もう一度、24歳だった過去の自分に言ってあげたい。

店長 佐藤

24歳という微妙な時期に。

「こういうことを大切にしてもいいんだ」「こういうことを大切にしたいと思う自分は間違いじゃないんだ」。

そんな安心感や肯定感を誰かから貰ったとき、静かな喜びを感じることってありませんか?

わたしにもそういう経験が何度かあるのですが、その経験のなかに確実にランクインするのはある一冊の本との出会いです。

それは24歳だった頃のこと。

わたしにとって24歳って、なかなか微妙な年齡でした。

まだまだ若い、でも、もう二十歳じゃない。20代後半も視野に入ってきて、このままでいいのかといった漠然とした焦りがある。そんな時期でした。

漠然とやりたいことの方向は見えているようで、一体何者になれば、どんな職業につけば、どんな資格をとれば、どんなインプットを重ねていけばその方向に向かっていることになるのか。

「答えじゃなくてもいいからヒントくらいくれ〜」ともがいていた頃に、ある一冊の本と出会ったのです。

 

コミック雑誌『りぼん』。そして、受話器置きオルゴール。

(単行本は1996年に発行され、2003年に文庫版に。現在は中古でしか手に入らないようです)

一冊の本とは、パトリス・ジュリアンさんが書いた『生活はアート』という本です。

当時の自分が、なぜこの本を買おうと思ったのかは記憶に残っていません。

単行本の装丁に惹かれたのか、『生活はアート』というタイトルに直感的に惹かれるものがあったのか。

ただ当時まだ実家で暮らしていたわたしは、この本を買ってきたあと、自分の部屋に籠りベッドの上で夢中で読みふけったことだけをハッキリ覚えています。

読み進めるうちに書かれている内容にあまりに共感してしまうものだから、折り目がいっぱいになりました。

わたしは子供の頃から生活のなかの細かいディテールがすごく好きでした。

小学生、中学生の頃も、月に一度のお小遣いをもらったら、まずは『りぼん』(コミック雑誌)を買って、残ったお金で自分の部屋に飾る造花や布なんかを買うような少女時代を過ごしました。

誰かの家に遊びに行けば、その家の窓辺にかかっているカフェカーテンが気になったり、電話の受話器置きのオルゴールに目がいったりして、母が自分たちの家にも受話器置きのオルゴールを買ってきた日には「うちにも来た!」と密かに喜んだりしているような感じでした。

それは20代になっても変わらずで、実家にある自分の部屋はまさに「お城」。

4畳半の個室だとしても、棚のうえに並ぶ雑貨の配置を夜な夜な換えてみたり、小さな机のうえに花を飾ってみたり、お金を貯めて間接照明を買って夜になったらその照明だけをつけて音楽(多分、ボビー・コールドウェル♩とかだった)を流しながらウットリ浸るみたいなことをしていました(笑)

誰に指示されるわけでも、勧められるわけでもなく、たとえ逆に止められるとしてもやらずにはいられなかったこと。

それが「生活のなかの細かいディテールと戯れる」ということだったのだと思います。

それくらいに好きで好きでたまらないのに、それは誰かに発表できるようなことでも肯定してもらえるようなことでもなく、「生活のなかの細かいディテールと戯れる」遊びはどんどん自分のなかだけの聖域のようになっていきました。

そんな時期に、この本と出会ったのです。

「おいおい、生活はアートって言ってくれている人がいるよ!」と、もうそれはそれは嬉しくなりました。

 

「生活」ってこんなにもクリエイティビティを発揮できる場所なんだ!

この本を読み終わったときの読後感。

それは「自分が好きなことを本気で大切にしていいんだ」というものでした。

来日後、フランス大使館で働かれたり東京日仏学院の副学院長などを経て、白金で「サントル・フランセ・デ・ザール」というレストランを経営されていたパトリス・ジュリアンさん。

彼が居心地のいい場をつくりたいという一心で、住まいにおいて、レストランにおいて実践されていた「生活のなかのささいなシーンでクリエイティビティを発揮する」ということの意味。そうすることの豊かさ。そして、そうしていいんだというメッセージ。

それらをこの本から受け取ったからだと思います。それまで、誰からも言ってもらえなかったことだったんだと思います。

「サントル・フランセ・デ・ザール」には、それから一年くらい経った頃だったでしょうか。勇気を出して予約をして友人とランチコースを食べに出かけました。

その日のことも忘れられない思い出です。

ここはレストランなのか。家なのか。単なる「おしゃれ」「素敵」を超えた本当に居心地のいい空間と時間でした。

パトリスさん自らが「今日はこんなチーズがあるけど、どれにする?」と木製のカッティングボードにのせたチーズを運んできてくれたことも懐かしく蘇ります。

『生活はアート』という本と出会ったこと、その後レストランに出かけた体験を経て、24歳だったわたしは、とにかく「生活」を大事にしたい、していいんだと思えるようになりました。

生活のささいなことも、立派なクリエイティブなんだ!と。良い意味で開き直ることができました。

もちろん、その後も20代ならではの迷いはずっと消えないまま。

でも仕事になるかならないか、他の人から見て分かりやすい特技かということはいったん置いておいて、生活を大事にしよう。引き続き、大好きな生活と戯れよう。

何になるか、何者になるのかはそれからでいいやと思えたことは、ささやかな救いでした。

近く、平日にお休みをとれるようなタイミングがあったら、この本をゆっくり読み返してみたいなと思っています。

 

「パトリス・ジュリアンというと『陽気なお料理のおじさん』だと思われているようですが、僕は料理の専門家ではありません。暮しの本を書きましたが、暮しを職業にしていませんし、作家やスタイリストでもありません。

おいしいものをレストランで食べる以上に、自分で料理することが好きです。

ファッション・ショーを見る以上に、おしゃれをすることが大好きです。

誰かの考えを読んだり聞いたりすること以上に、自分で考えていたいと思います。

映画が好きですが、自分の人生を映画のように面白くしたいと思っています。

繰り返しの毎日で、自分らしい暮しを作るたった一人の主役は自分なのです。」

—『生活はアート』(幻冬舎文庫)パトリス・ジュリアン著—
12〜13ページより

 

 

 

 


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