【白髪に憧れて】第1話:見えない世間なんて気にしない。自然と行き着いた「染めない」選択肢(イーオクト代表 高橋百合子さん)
編集スタッフ 岡本
いくつになっても尽きない、髪の悩み。
さいきん本屋さんでつい手に取ってしまうのが、「白髪(はくはつ)」にまつわる本。
きっかけは私の母の悩みです。
60歳になったら「オール白髪になる」と宣言していたものの、その節目を迎え数年経った今も、月に一度のカラーリングに通っています。
今と大きく印象が変わるのが不安。 移行期間ってどうしたらいいの?など、困ったような顔をして話す様子を見ていたら、なんだかいてもたってもいられなくなってきました。
もともと黒髪ロングがトレードマークだった頃を知っているだけに、髪型の変化で洋服やお出かけまで諦めてほしくない。おせっかいな娘心がうずうずします。
白髪、はくはつ、ハクハツ……。なかなか出ない答えに悶々としている母と私とはうらはらに、するりと受け入れた2人の女性たちがいました。
一人は、これまで一度も髪を染めずに、長い年月を経て白髪になった女性。
一人は、20年ちかく続けたカラーリングをやめ、60代で白髪になった女性。
お二人に会ってから、私にとって白髪は「避けたい存在」ではなくなりました。
母よりも少し歳上のお二人からお話をうかがう、全2話の特集です。
第1話にご登場いただくのは、イーオクト代表・高橋百合子さん。以前、『暮らしのおへそ 21号(主婦と生活社)』でお見かけしたときから、いつかお会いしたいと思っていました。
その理由は、夫婦並んで歩く朝の散歩風景がとても魅力的だったから。そしてヘアスタイルは、夫婦揃って白髪です。
聞くと、高橋さんがはじめて白髪を意識したのは、1歳年上の夫と出会ってしばらくした頃だと話します。
40代からちらほら。でも、歳を重ねる変化のひとつとして受け入れました
グレーがかった髪色が印象的な高橋さん。毎月一回美容院へ通うものの、これまで一度も白髪を染めることはなかったそうです。
高橋さん:
「白髪についての取材と聞いているけれど、正直、白髪になり始めた時期を思い出せないくらい、気になったことがないんです。
歳を重ねるうえで起こる変化のひとつだから、私にとってはあまりに自然なことで。
今振り返ると、夫と付き合い始めてしばらくした頃、『私よりも髪が白いな』と思ったのが初めて白髪を身近に意識したときかもしれませんね。
でも、いやな感じはしなくて、なんとなく素敵だななんて。
それから徐々に私の髪も白くなってきて、60歳くらいかな。ふと、夫とお揃いになってる自分に気付きました。
30年くらいかけて今の白髪になったから、自分にも周りにも、ゆっくりと馴染んでいったんでしょうね」
そんな話をしていると、聞いていたスタッフの方が以前雑誌に掲載された夫妻の写真を見せてくださいました。
そこには今よりもグレーが濃い髪色の高橋さんの姿が。隣には高橋さんよりもワントーン明るいシルバーヘアの夫・エドワードさんも一緒です。
写真は『ku:nel vol. 13』2018年3月号(マガジンハウス)より
白髪にいいイメージがあったのは旦那さんの影響もありそうですねと言うと、「そんなことはないけれど」と高橋さんは笑います。
歳を重ねて白髪になるのは、誰の目にも自然なこと。
分かっていたはずなのに改めて言葉にすると、あまりの納得感にハッとしました。
今年70歳を迎える高橋さん。その語り口ははつらつと迷いなく感じられますが、これまでに自分の見た目の変化や周りからの印象がどうしても気になってしまう時期はなかったのでしょうか。
周りの人はきっと、自分以上にありのままの私を見てる
高橋さん:
「一日のなかで自分の顔を見るのってせいぜい10分くらい。
朝、顔を洗うついでやお化粧をしながらだと、それほど細かく気を配らずにいたのかもしれません。
人からの印象はもっと関心がなかったですね。だって、人からどう思われるかなんて、人によって違うもの。
例えば今日会った二人がここを出て、私の印象について話したとしてもきっと同じではないはず。
その人それぞれで切り口がちがうから、見た目によって誰にどう思われたいか考え始めたらきりがないでしょう」
高橋さん:
「人にはもっと “ありのまま” が見えているんじゃないかしら。
にじみ出る人柄やちょっとした行動、そういうのが合わさってその人の印象になるから、髪が白くなってもシワが増えても、その人自体の印象ってあまり変わらないです、きっと。
なにもこの年齢になったからそう思うわけじゃなく、ずっとそうやって感じてきました。
よく『世間』っていう目線があるけれど、実態なんてないじゃない?
たとえば、大好きな人がワンピースが好きって言ったから着るのとは違う、気にしたところで仕方がないもの。
私は白髪を “選ぶ” という感覚ではなかったけれど、もし周りの視線が気になってしまうのであれば、自分が染めたいと思うのか、白髪を選ぶのか、それだけを考えればいいと思いますよ」
「1回きりの人生」を自分はどう生きたいか
白髪ひとつとっても、自分の軸をまっすぐ貫いて暮らしへ反映してきた高橋さん。
大切な伴侶とともに毎日を過ごし、会社は軌道に乗っている。だからこそ、リタイアの文字が頭をよぎった時期もあったそうです。
そんなとき、高橋さんの人生観を変える出会いが巡ってきました。
高橋さん:
「60代半ばである人と出会い、学校の設立に関わったんです。その発起人の口癖が、 “one life(人生一度きり)” という言葉でした。
『人生は一回だけだから、やりたいことを思いっきりやりたい』って、ことあるごとに何度も言うからだんだん私にも浸透してきちゃってね。
『そうか、人生一回きりなのか。私はどう生きたいんだろう』って、改めてこれからの人生を考えるきっかけになりました」
自分自身の本質的な幸せに軸足を
「人生は一度きり」
高橋さんにそのキーワードを投げかけた人との出会いからほどなくして、ロンドンオリンピックが開かれました。
遠い地で活躍する選手たちの懸命な姿や努力の軌跡に目を奪われたそうです。と同時に、自分はどう生きたいのかと問い続けていた高橋さんの心が動きました。
高橋さん:
「今の私は、感動をもらって満足しているだけかもしれないって思ったんです。自分自身がもっとも力を発揮できる舞台で、思い切り輝いている姿は素晴らしい。
じゃあ私の舞台は?って。
そう考えてみたら、ここにあるじゃない!と。今の仕事、今の暮らし、目の前にある人生こそ、私が力を発揮できる舞台じゃないかって気付いたんです」
自分の人生は、自分の舞台。そう気付いたからこそ、高橋さんのひとつひとつの選択には、「自分」という軸がぶれずにあるのかもしれません。
高橋さん:
「自分の本質的な幸せに軸足を置いて、いろんな選択をするべきだと思います。
人からの評価をたとえ気にしたところで、世間はだれも面倒みてくれませんから。本当、自分だけですよ。
だから何かに迷ったり選ぶとき、まず考えるのは自分が幸せかどうか。髪で迷ったときだって、同じです」
白髪をきっかけに高橋さんのこれまでを聞きたい、と取材に向かった当日。イメージしていた働く女性としての強さよりも印象に残ったのは、柔らかい物腰のなかに宿る凜とした聡明さでした。
「自分の本質的な幸せに軸足を」という高橋さんの言葉と、部屋じゅうに柔らかく差し込む光を受けて微笑む眼差しが、取材を終えた今も忘れられません。
30年以上ともに変化してきた白髪は、そんな高橋さんの表情をいっそう明るく見せていたように感じます。
つづく第2話は、白いエプロンがトレードマークの、のみやパロル・桜井莞子(さくらいえみこ)さんにお話をお聞きしました。
15年以上ヘアカラーをしていた時期を経て今、エプロンと同じくらい白髪が馴染んでいる桜井さん。白髪へと切り替えたそのきっかけとは?お楽しみに。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
高橋百合子
大学卒業後、読売新聞社へ入社。1987年に現在の会社の元となる、株式会社オフィスオクトを設立。以来、「ひとりひとりの暮らしから、快適でサスティナブル(持続可能)な社会の実現」を目指し、人にも環境にもやさしい商品を数多く届けている。北欧の暮らしから学んだ、毎日使い続けたくなるアイテムは当店でも取り扱い中。
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