【スタッフコラム】ただ生活をしている。それだけ。
編集スタッフ 二本柳
ただ生活をしている、その様子に心がほぐれていくような感覚は初めてでした。
そもそもメキシコに向かった理由は、「色にまみれてみたい」と思ったから。どちらかといえば強烈な体験を予感していたのに、そこで得られたのは、むしろ安堵感でした。
生活を愛する人たち
今でも先住民が多く暮らし、民芸の村でも有名なのがオアハカ州。
到着した翌日、朝日に照らされた街並みを目にした途端から、心底うれしくなりました。
思っていた以上に、色・色・色なのです。民家の壁から家具、雑貨、道に咲く花や、身にまとう衣類まで、すべてがカラフル。
でも、不思議と目が疲れないのです。なんでだろう、最初のうちは意外でした。
その理由は、散策してすぐに分かりました。
ここに溢れている「色」は、つまり「生活」なのでした。
我先に目立たねばと競い合う看板がつくる色の嵐とも、はたまたアートとも違い、ここでは「生活」に色彩が根ざしてる。だからこれほど色に溢れているのに、どれも素朴で馴染んでしまう。
オアハカ州は、陶器の村、織物の村、刺繍の村……といった具合に、村ごとに特色ある手仕事が盛んなので雑貨好きにもたまらない町です。
時間が許せば村を巡るのもいいけれど、私は郊外のティアンギス(スペイン入植前から続いている青空市場)に足を運びました。ティアンギス では、近隣の村で作った民芸品を作り手から買うことができます。
▲どの売り手も、たとえば羊毛を紡いで、それを染めて織り、かばんを成型して持ち手をつけてチャックを施す、すべてのプロセスをていねいに説明してくれました。
女性たちのファッションも、花柄にチェック柄が組み合わせられるなど、あまりにおしゃれなので目が離せません。
3人が集まって立ち話なんかしていると、もうそれだけでアートのようでした。
一見奇抜なのに調和がとれているのは、こうしたファッションも「生活」を彩る楽しみのひとつだからかもしれません。
こだわらない大らかさ
メキシコといえば、ついイメージしがちなのが大きな帽子とポンチョ姿、ギターを片手に歌を歌う陽気な性格。
でも実際に出会ったメキシコの人たちは、それとはちょっと違う。もっと地に足のついた、なんていうか「陽気」というよりも「寛容」という言葉がぴったりくるような人たちばかりでした。
店先で値段を知りたい人がいれば、忙しい店員にかわって客同士で教え合う。道に迷った人が誰に向けるともなく声を発し、それに応じて周囲の人が適当に声をかけあう、そんな場面も何度となく目にしました。
大都市メキシコシティでさえ、スマホを見ている人の数は圧倒的に少ないことに気がつきました。目の前で繰り広げられる日常をながめているといいますか……。
「自分」と「自分のまわり」に起きていることが同等で、だからお節介が特別じゃない。
平気で親切を与えて、平気で親切を受ける、そのこだわりのない大らかさが心地よいとともに衝撃的で、なんだかとても大切なことに気付かされたような気がしました。
▲メキシコシティのアイスクリーム専門店は、涼しげなブルーで統一されていて可愛らしい
ただ生活をするということ。
ただそれを垣間見たメキシコでの10日間。
民芸品を売る人たちと話していると、必ず「私たちが」「私たちの村が」という言い方をするのが印象的でした。
彼らにとって、自分の生活とは、つまり「自分たち」の生活なのだという表れであるようにすら思えました。
とくべつなことでもなんでもない、そんなシンプルな考えが当たり前に根ざしていたメキシコ。たまたま訪れた旅行者の私にさえも、その当たり前がありがたく、体が自然とほぐれていくようでした。
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