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【金曜エッセイ】“打ち明け話”に思うこと
文筆家 大平一枝
第三十四話:“打ち明け話”に思うこと
言葉に対して繊細な感覚を持つ友達が、かつて教えてくれた。
「私ね、人から打ち明け話や相談をされたとき、絶対言わないようにしようと思っている言葉があるんだ。それは、“人それぞれ、人生いろいろだよね”と、“難しい問題だよね”のふたつ」
何の気なしに私もつい口にしている気がして、はっとした。
どんなに真剣に話しても、これを言われたら終わってしまう。とても都合のいいまとめの一言で、いかにもその人の身になっているようで、じつはなんの解決も、励ましにさえもなっていない。
育児、夫婦、人間関係。複雑な話ほど、簡単に他人に進言できないもの。だからといって「いろいろだよね」と濁すのではなく、相談されたからには、自分なりの意見や考えを伝えよう。それができないなら、相談ごとにのるべきじゃないと思うんだよね、と前述の彼女は語った。
本当にそのとおりだと、深く共感した。
新米母の頃の悩みは、子どもが勉強ができないだの、夫が家事を手伝わないだの、育児や家族の身近な問題が多かった。だが今、私の周囲では病気や介護、親しい人を亡くしたり、定年や、ときには離婚など、人の生死や離別にかかわる事柄が増えてきて、悩みも深く多様化し始めている。
相談ごとは、自分を必要とされていると感じられ、悪い気はしないものだが、最近、そういう場面で振り返って自分を点検をする。最後まで、心に寄り添えているか。私に話すことでその人が本当に楽になれているか。
“親身になる”とは、無責任とは正反対の、とても高度で丁寧な人付き合いの術(すべ)である。もしも、意を決した打ち明け話に対して、その場限りの耳あたりのいい言葉しか添えられそうになかったら、中途半端に聞くことはすまい。
歳を重ねるごとに、本当の優しさとはなにか、自問自答は深まるばかりだ。人生の途中で立ち止まり、ふと思い出した友達の禁句の話は、その問いを解く小さな手がかりになっている──。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。『天然生活』『dancyu』『幻冬舎PLUS』等に執筆。近著に『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)など。朝日新聞デジタル&Wで『東京の台所』連載中。一男(23歳)一女(19歳)の母。
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