【お坊さんのお悩み相談室】第10回:子供が生まれてから、夫にあまり優しくできてません
編集スタッフ 松浦
家事や子育て、日々の仕事。私たちのくらしには、小さなことから大きなことまで「悩み」がつきものです。
「お坊さんに聞く、くらしの悩み相談室」は、仕事や子育てなど、日々のモヤモヤを、お坊さんに答えていただく連載。 クラシコムのオフィスに「くらしのお悩み箱」なるものを設置し、スタッフのくらしの悩みを集めました。
お答えいただくのは、著書『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)なども人気の、浅草・湯島山緑泉寺 僧侶の青江覚峰さん。青江さん自身も、3児の父として、子育てにも奮闘中ということもあり、お坊さん目線、そしてひとりの親目線でお話ししていただきます。
子供が生まれてからというもの、愛情が子供に集中してしまい、夫にあまり優しくできいません。家族だからという甘えもあると思うのですが、それにしたって度々冷たい態度をとってしまう自分に自己嫌悪することも。パパとして、僧侶として、アドバイスいただけたら嬉しいです。(スタッフM)
仏教のお話に、「帝釈の網」(たいしゃくのあみ)というものがあります。
帝釈天(たいしゃくてん)という仏様が、世界をすっぽり覆うほどの大きな網をかけました。その結び目の一つに一つに、まるで鏡のようにきらきらと輝く宝石がついています。
網ですから、その一部分を引っ張ればまわりも引っ張られて動きます。結び目についている宝石もつられて動くと同時に、そこには周りの動きが映っています。近くの宝石の輝きは大きく、はるか遠くにあるものも小さくとも必ず映っています。どの宝石も、四方八方にある他の宝石と影響し合わずには存在できません。隣が動けば自分も動く、自分が動くから、その隣もまた動く。
その連鎖は途切れることなく、肉眼では確認できないほど遠くにある宝石にも作用します。そして宝石は、もし網から外れたら落ちて割れてしまうのです。
この帝釈の網は世界を、そして宝石は私たち一人ひとりを表しています。家庭というのは小さな網です。それが連なって地域をかたちづくり、世界をかたちづくっています。
子どもに対する態度は家族に、地域に、そして広い世界にもつながっています。ご主人に接する態度も然り。当然、他の宝石との距離が近ければ近いほど、その作用はすみやかに、顕著に現れるでしょう。心得ておいてほしいのは、あなたの行いの影響を受けて動いた他の宝石の動きもまた、あなたという宝石に影響を及ぼすということです。
強く乱暴に動けばそのように、優しく穏やかに動けばそれなりに。あなたの言葉、行動、表情、したこと、しなかったこと、全てが必ず周囲の人々と連動し、いずれ自分に返ってくるのです。
我が家にも3人の子どもがいます。質問者さんのお悩みにも心から共感します。でも、これではいけないと思って無理に取り繕うのは、かえって悪循環になってしまうのではないかとも思います。
できるなら、今のご自分の状況やお気持ちを、ご主人に伝えてみてはいかがでしょうか。子どもの成長とともに、家族のあり方も、自分自身の心のあり方も変化していきます。ときに厳しい態度をとってしまっても、心底嫌ってのことではない、自分の中でうまくバランスがとれていないためだというのをご主人に知っておいてもらえたら、相手に与える印象もだいぶ違ったものになると思います。
青江覚峰
もくじ
僧侶 青江覚峰
浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー
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