【スタッフコラム】「できない」から、全てはじまった
編集スタッフ 小林
仕事帰りに、ふらりと立ち寄る店があります。
家の近くにある、こじんまりとしたワインバーで、店主とその日担当のアルバイトさんの2名で切り盛りしている、L字型のカウンターが印象的なお店。
そこは食事もワインも美味しくて、その日あったことをぼんやり振り返りながら、1杯、2杯と、ついついお酒がすすんでしまうような、私にとっての癒しの場所です。
4月になってはじめて、そのお店にいったときのこと。
お店に入り、いつも通りカウンター席に座ると、見慣れない顔が。どうやらその日が初出勤のアルバイトさんのよう。
「そうか、世の中的には新人さんが入ってくるような時期なんだなぁ」なんて思いつつ、店主にいろいろと教えてもらいながら一生懸命働く彼女の姿に、目が釘付けに。
私は前職で飲食店の店長をしていたので、なんだかすごく懐かしい光景に思えたのです。
そんな笑顔が初々しい彼女に早速白ワインをお願いして、しばし待っていると、私が頼んだワインを彼女に抜栓してもらうことになりました。
慣れない手つきで、一生懸命ワインをあけようとしているけれど、なかなかあけられず、苦戦する彼女。そんな姿に微笑ましくなって、つい差し出がましくも、アドバイスをしてしまう私。
「キャップシールは指で剥こうとするんじゃなくて、切れ目に刃を引っ掛けてそのまま剥がすと上手にできるよ」
「スクリューは中心に、垂直になるように刺すといいよ」
その後もワインボトルと格闘する彼女。店主や他のお客さんもその様子に、「テコの原理を使うんだよ」なんてアドバイスをしながら、横目で見守ります。
その光景を見ながらふと、思ったんです。わたしも「できない」から全部がはじまったなぁと。
ワインだって、1人であけられなかった。はじめて包丁で万能ネギを切ったときは、とても大きなビーズのようになってしまった。アイロンかけで服を焦がしたこともある。
だけどそれらもひとつひとつ、誰かに教わったり、本を読んだり。日々を積み重ねて、いろんなことができるようになった。
いい大人になっても未だに「できない」ばかりで途方に暮れ、自分って才能ないなぁ、と落ち込むこともある。
だけど、今ではワインもあけられるし、ネギも細かく刻めるし、アイロンをかけることも、写真をとることも、誰かの相談にのることも、完璧とはいかないまでもできるようになった。
きっとこれからも、「できない」ことは「できる」ことになって、まだまだ増えていくだろう。たとえうまくいかない日々が続いても、そう希望をもって、「できる」ようになった今までの自分を信じて、年齢を重ねていく他ないのだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、ようやく、彼女が初めて注いでくれたワインに、口をつけた。
それはとてもとても、美味しかったです。
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