【住まいは語る】第2話:完璧じゃなくていい。「だれかの好き」より「自分の好き」を信じるもの選び

ライター 藤沢あかり

誰かの部屋を訪ねたとき、住まいにその人の生き方や人生観が詰まっていると感じたことはありませんか?

それならば魅力的に生きる人の住まいには、これまで歩んできた道のりや、暮らしの哲学が潜んでいるはず。

そんな内側を見せていただけたらとご自宅を訪ねるこの特集。今回は、ライフスタイルや食にまつわる企業のブランドやディレクションにフリーランスで携わる、鈴木純子さんのご自宅です。

 

「だれかの好き」より、「自分の好き」を信じるもの選び

「基本的に、“一生使い続けたい” と思えるものしか、家には置いていないんです」と、鈴木さん。

鈴木さん:
「誰かが持っていたとか、流行っているとかよりも、自分が好きだと信じられるもの。それが一番の基準です」

▲大切に着ている、『OUTIL(ウティ)』のワークコート。藍の上から備長炭染めを施し、色が複雑に重なり合う。着続けることで、生地の縫い目に色がたまり、風合いの変化も楽しめる。

鈴木さん:
「たとえば洋服は、肌触りがいいもの、天然素材のものを選んでいます。もう、好みもあまり変わらないので、同じブランドのものを着続けているし、その経年変化もいいなと思えるんです」

 

完璧でなくていい。“ゆらぎ” が魅力になる

鈴木さん:
「器や道具も、アンティークや作家ものが好きなんですが、それは使い勝手やデザインというよりも、“個体差” の豊かな表情に惹かれているのかもしれません。ガラスのゆらぎやステンレスの鈍い光は、古いものならではの味わいだと思います。

自然の中では、完璧なものよりもゆらぎのあるもののほうが、しっくりくる気がするんです。人間だって、同じですよね。

洋服の経年変化を良いと感じるように、アンティークの器も長年愛され受け継がれてきたからこそ、今の世に残るもの。欠けやひびこそ、その歴史を映すものとして愛でています」

日常使いのグラスは、カイ・フランクのヴィンテージ品。水出しのお茶に使っているポットは『HARIO』のフィルターインボトル。

▲二階堂明弘さんのコンポート皿は、割れを金継ぎしてもらったことで景色が豊かになり、さらに愛着が増した。

器は、アイアンと古材をシンプルに組み合わせたオープンシェルフに。『HAY hutte』でオーダーしたものです。

鈴木さん:
「アイアンは、さび止め加工をせずに仕上げてもらいました。木材も、約100年前の古材を切りっ放しのままで使っています。使い始めて4年くらい経ちましたが、少しずつさびが浮き上がり、新品の時よりも味わいが増してきたんですよ。長く使いながら、変化していく様子を楽しみたいと思っています」

 

長く受け継がれてきたものには、「ルーツ」と「プライド」がある

▲器は、国内外で出会う古いものを中心に、安藤雅信さんや竹村良訓さん、吉村和美さん、額賀章夫さんなど、作り手の姿勢に共感できるものを少しずつ揃えてきた。

鈴木さん:
「信頼する人が手がけているものや、ものが生まれるバックストーリーに共感して選ぶことが多いです。なぜそのものづくりにたどり着いたのか、その『ルーツ』や『プライド』など、根っこがしっかりしているものが好きなのかもしれませんね。それは、プライベートだけでなく、仕事をするうえでも変わりません。

たとえば、このタオルもそうです」

▲手触りのよさと、長く使い続けられる耐久性の両立を叶えたシリーズ、『ZUTTO』。

やわらかく、もっちりとした肌触りのタオルは、日常を支えているお気に入りのひとつ。

鈴木さん:
「タオルって毎日使うものだから、それがすごく好きだと思えたらしあわせですよね。
今治の『藤高タオル』は使い心地だけでなく、絶妙なニュアンスカラーで揃えられるのも気に入っています。

染から仕上げまですべて自社で生産している、今治に残るタオルメーカーの中では一番古く、100年の歴史がある企業なんです。タオルって、たくさんありすぎて悩むこともありましたが、ものづくりの技術の確かさや、このシックなカラーも自信を持ってオススメできるので、贈り物にもよく使っています」

▲ピーター・アイビーの照明は、天井から吊るさずにソファのかたわらに置いて。

 

今この瞬間は「お預かり」しているだけ。次の人につないでいけるもの選びを

旅先でもお店でも、古い布があるとついつい手に取ってしまうという鈴木さんですが、中でもこれは、とびきりお気に入りだそう。お土産に見つけてきてもらったという、アンティークのバスクリネンです。

鈴木さん:
「ラインのブルーはインディゴ染めなのだそうです。手間がかかった、贅沢なものですよね」

貴重な品ですが、ベランダでランチョンマットのように使ったり、テーブルセンターにしたりと、どんどん使っていきたいと話します。

▲パイン材のダイニングテーブルは、東京・代々木上原のアンティークショップ『SIEBEN(ジーベン)』で。足元にはカンタ刺繍のアンティークラグを敷いて。

鈴木さん:
「ものは、使ってこそ価値が生まれると思っています。

誰かが使っていたものが、今は縁あってわたしの手元にある。

そうやって巡ってきたものは、いずれまた、誰かのところへ託すことができると思うんです。

古いものや顔が見えるものが好きだというのも、どちらも時代を超えた美しさがあるから。だからこそ、今につながっています。今、この瞬間は自分がお預かりしているだけで、いつかまた誰かに受け継いでもらえるように。

覚悟というと少し大げさに思えますが、そんな気持ちで、ものを受け入れています」

▲プラスティック製品は、理由があるもの以外は取り入れない、というのも鈴木さんのルール。サスティナブルな取り組みは地球のためだけでなく、その選択のひとつひとつが日常の心地いい景色に

作り手の顔が見えるもの、変化を楽しめるもの。そしてルーツがあるもの、受け継いでいけるもの……。鈴木さんの住まいにただよう、一見ミックスされながらも一貫された雰囲気は、そんなもの選びの姿勢のあらわれでした。

次回、最終話となる3話目では、そんなもの選びのきっかけともなった、フランスとの出会いについて伺います。部屋中をいろどる、フランスにまつわるエレメント。そこには、ライフワークとしての自然派ワインを訪ねる旅がありました。

(つづく)

【写真】濱津和貴


もくじ

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鈴木純子

アタッシェ・ドゥ・プレス。家電ブランド「アマダナ」を経て独立。現在は、老舗だしブランド「やいづ善八」や今治の「藤高タオル」など国内外のライフスタイルブランドのPRを担当している。現在は浅草橋に6月オープンする「CAFE / MINIMAL HOTEL OUROUR(カフェ アンド ミニマルホテル アゥア)」の立ち上げPRも担当。一方、フランスの自然派ワインの生産者めぐりはライフワークとなっている。Instagram: suzujun_ark

ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。


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