【店長の今日のエッセイ】「続ける」は「続いている」に見える。
店長 佐藤
「続ける」は「続いている」に見える。
これまでの人生のなかでいくつものお店に影響を受けてきた。
カフェ、喫茶店、セレクトショップ、花屋、リラクゼーションサロン……。
なかでも、忘れられないカフェがあった。今から20年近く前に足繁く通っていた店だ。
当時そのカフェはまだオープンして間もなく、誰に教えられて行ったのかは記憶に残っていないのだが、はじめて訪れたときはまだ床が工事の途中という感じで土がむき出しになってる箇所もあったのを覚えている。
それでも初めて訪れたその一回で、郊外にあるこのカフェを気に入った。居心地がよかったし、デザートに出てきたさくらんぼのクラフティーは最高だった。
テーブルにはガラスの小瓶にさりげなく野花がいけられており、外壁には蔦が繁っていて、テラス席の向かい側には小さな公園があった。
当時まだ20代で、いつか自分のカフェをやりたいと夢見ていたわたしは、そのカフェまで車を走らせて足を運ぶたび「カフェのアイデア帳」ならぬ今思えば恥ずかしいノートを広げては学んだことや真似してみたいことをイラストや文字で書き留めた。
この場所の良いところを、と探す目線を持つことはとても楽しかった。
時は経ち……。
自分がイメージしていたカフェをつくるには至らなかったけれど、今から少し前に偶然本屋で手に取った本に、そのカフェのオーナーの女性が取材されている記事を見つけることになる。
本のなかでの思いがけない再会だった。
「あのカフェじゃないか!!!」
わたしの頭のなかは当時の思い出が忙しく駆け巡った。なにか夢を見ることでなんとか自分を保とうとしていた当時の自分にとって、そのカフェに通う時間がどんなに救いだったかを。
そして、その後わたしが遠くへ引っ越したこともありそのカフェへ行かなくなってしまった長い時間のあいだに、オーナーの女性がどれだけの苦労を経験されたのかを記事を読んで知ることになった。
家の近所の喫茶店でその買ったばかりの本を読みながら、なぜだか分からないが、とめどなく涙があふれて止まらなかった。
「続ける」ということは周りから見たら「続いている」ということになるのかもしれないが、当人にとっての「続ける」にどれだけの葛藤や紆余曲折があったのかを知ったからかもしれない。
いつか平日休みがとれたら、あのカフェに行ってみよう!
そう思った。
その「いつか」が、先日実現しました。ひとりで、行ってきました。
ドキドキしながら(本当に)そのカフェの黒い扉を開け、昔と変わっていない木の椅子に座り、ランチセットを食べ、コーヒーを飲む。
タイムスリップしたような、本当に不思議な気分で。
テーブルにはガラスの小瓶に赤い実のついた小枝がいけられていた。
帰り際にレジでスタッフさんに「昔よく来ていたんです」と声をかけることはできず、そのかわりに「コーヒー美味しかったです。コーヒー豆も買って帰りたいです」とレジ横にある豆を指差すので精一杯。
小さな公園を歩いて抜け、長い時間を電車に揺られて家に帰る。
家に着いてから、さっきの買ってきたばかりの豆でまたコーヒーを淹れる。
それが一番上の写真です。
特別な気分を味わいたいときだけ使っているスウェーデンの古い窯のカップ&ソーサーに注いだ。
カフェオリジナルの豆で淹れたコーヒーを飲みながら、あの場所に再び身を置けてよかったなぁと思った。
これまでと、そして今日も。わたしに良い影響をありがとう、と。
またしばらくしたら行ってみたいな。どうか、続いていてほしいな。
「続いている」という見え方には「続ける」という意志やそれ相応の物語があるんだということを改めて実感したから、今まで以上に、心からそう思う。
▼Instagramの投稿と連動して時おりこんなエッセイを書いています。過去のものは「#佐藤の気まぐれ日記」でも読めます。
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