【金曜エッセイ】彼女たちが、自分らしく生きるためにしていること

文筆家 大平一枝


第六十二話:「自分らしく生きる」のが上手な3人


 

 長男が社会人になったとき、「自分らしくがんばれ」となにげなくメールに書いた。就職3年目。ひと月ぶりに会った先日、だいぶ疲弊した顔をしていた。そうだよな。“自分らしく”ってこの社会ではけっこう難しいよなと、心のなかで思う。同時に、そもそも、自分らしくってなんだろうと考え始めた。

 不合理だと思うことにはきちんとノーと言ったり、ときには自分を曲げず貫き通したりすることも含まれるだろう。新社会人にはなかなか簡単ではないはずだ。
 かくいう私だって、「ノー」は下手だ。元来、人からの誘いをあまりうまく断れない。

 今朝、SNSを使ったバトン形式のある企画について話が回ってきた。賛同したので、次のバトンを渡すべく、心当たりの人に打診をした。
 すると、しばらくして断りのメールが来た。参加していない人の立場になると疎外感があるかもしれないので辞退するという長く丁寧な返事だった。
 率直な言葉の連なりはすんなりと私に染み込み、よく理解と納得ができたのでお礼を告げた。相手から「こちらこそ伝えることで、自分のもやもやも整理できた、ありがとう!」とお礼を返された。

 ノーの伝え方が上手な人だなと頭が下がった。誠実に、自分の気持ちを伝える。妙なフォローや言い訳やとりつくろいは一切しない。丁寧な文面から、思いがこちらの心にまっすぐ届いた。
 いろんな考え方があっていいし、価値観は他人に押し付けるものではない。その人から、私は人付き合いの基本をあらためて学んだ。誰かがいいと言ったことに賛同するにしろ、違う立場をとるにしろ、「自分は」どう思うのかを言葉で表明する。それは、自分の軸をしっかり持っていないとスムーズにはできない。

 そのときふと、ふたりの女性を思い出した。
 ひとりは、「全員とゆっくり語り合えないのは未消化な気持ちが残るので」という理由で、4人以上では飲まないと決めている友達。
 もうひとりは、「友達をたくさん持つことに意味を見いだせなくなったので、スマホの電話帳の連絡先を5人に絞ったのよ」と取材で語っていた女優さんだ。ふたりともひどく晴れやかな表情が印象的だった。

 自分らしく生きるのは、甘くも簡単でもない。覚悟もいる。でも、思いや理由を誰かのせいにせず、またその場限りにとりつくろうこともせず、一生懸命言葉を紡いだら必ず相手に届く。
 今朝、それを再確認できたので、いつか息子に伝えられたらいいなと思う。

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文筆家 大平一枝

作家、エッセイスト。長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。

大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com

▼本連載の過去記事はこちら

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