【スタッフコラム】「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます」
商品プランナー 斉木
こころの奥深くにしまっている大事な箱のなかから、時折取りだしては眺めてみる、おまもりのような言葉があります。
「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます」
2017年に放映していたドラマ『カルテット』で主人公のまきさんが、泣きながらカツ丼を頬張るすずめちゃんに伝えた言葉です。はじめて聞いたとき、「あぁ、あの日の私が救われた」と思いました。そして、この言葉を忘れなければ、きっとこの先も自分はなんとかなる、と。
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ドラマよりすこし前、当時26歳だった私が泣きながら食べていたのは、豚アボカド丼でした。
そのころの私といえば、幼い時から憧れていた編集者になりたいと、会社員生活からえいやっと飛び出したばかりで、収入はほぼゼロ。夢だけは溢れんばかりに抱え、毎日全力疾走していたけれど、その頑張りが報われる保証はどこにもありませんでした。
ちょうどそんな頃、いま思えば若いけれど、若いなりに真剣だった恋愛を終えると決めて。それは同時に、帰る家もなくすということでした。
ぜんぶ、自分で決めたこと。どれだけそう言い聞かせても、「職なし・家なし・彼氏なし」そんなブロック塀がコントの一場面のように脳天を直撃したような、泣きたいんだか笑いたいんだかよくわからない気持ちだったのを憶えています。
親戚の家に居候させてもらいながら、適当なゼリー飲料だけを口に含んで、なんとか眠りにつく。そんな日々が3日ほど経った頃でしょうか。ある夜、お腹の底から思ったのです。
「白米が食べたい。あとアボカド」
その足で近くのスーパーに行って、レンジでチンするご飯と、アボカド、豚肉を買いました。
帰ったら、豚肉をサッと茹でて冷ましている間に、醤油・みりん・酒・砂糖を煮立たせる。アボカドを切ったら、チンしたご飯の上にお肉と一緒に乗っけて、タレをかける。
家主の冷蔵庫から生卵を一個拝借して、仕上げに卵黄とマヨネーズをかけたら、ものの10分でできあがり。
湯気の立ったそれを、豆電球をつけた薄暗いダイニングで一口食べたら、喉がツーンとして。味なんてよくわからないまま黙々と咀嚼しながら、「これが大人ってことなのかもな」とぼんやり思いました。
子どもの頃は、何か悲しいことがあったとき、ご飯が喉を通らないくらい落ち込めるのが大人だと思っていたんです。
でも、落ち込んでいても腹は減る。そして明日は待ってくれない。
私がいまこの瞬間に食べたいものを作って、明日動くための活力をチャージしてあげられるのは、この真夜中に自分ひとりきり。そして私はそれを達成できた。これが大人じゃなくて、何が大人なのだろう、と。
次の日、昨日と同じ地下鉄のホームに立ったとき、まだ油断したら涙は出そうだったけど、絶望的な気持ちはちょっと和らいでいました。
今日は昨日よりほんの少し元気になってる。じゃぁ明日はもうちょっと元気なんだろう。そこには何の根拠もないけれど、たしかにそう信じられたのです。
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あれから5年。
ちょっとしたことで打ちひしがれたり、もうダメだ~と弱音を吐きがちな私には、幾度となく、ご飯が喉を通らないって言いたくなる瞬間が訪れました。
でもそのたびに台所に立っては、冒頭のカルテットの言葉をマントラのように唱えています。そうすると、自分でいうのも変なのですが、あの日豚アボカド丼を泣きながら頬張っていた私が、最高にカッコ悪く、最高に愛おしい存在に感じられるのです。
この先、あの日以上に絶望し、あの日以上に切実な面持ちで台所に立つ日はきっと来るのでしょう。どうかそのとき、自分自身を温める何かを作れる自分であれますように。そしてもし、いまあの時の私と同じような心持ちでいる誰かがいるならば。無責任に聞こえるかもしれないけれど、この言葉を手渡したいです。
「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます」。
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