【金曜エッセイ】花が一輪ずつ増えていくたのしさ

文筆家 大平一枝

 なんでも枯らしてしまうので、友だちから緑ならぬ茶色の指を持つ女と呼ばれている私でも、最近少しだけ花に詳しくなった。切り花を長く持たせるコツも心得つつある。
 花屋さんで、毎月定額を払えば1日一輪もらえるというサブスクがあり、1年前から始めたからだ。システムに加盟している店が近所にあり、仕事や買い物の行き帰りに立ち寄る。

 ラナンキュラスには多様なフォルムと色があることや、チューリップの咲き方はフリンジ、一重、八重、クラウン、パロットと呼び名が違うと知った。
 最初は一輪挿しの花器に飾っていたが、次第にジャムやミネラルウォーターの空き瓶、安いワイングラス、古道具の鉄瓶、徳利などいろんなアイテムで代用するようになった。

 一輪ずつ、毎日増えていくと予想外に楽しみの幅が広がる。高低差のあるガラス瓶を3つ並べ、低いものには数センチに切ったガーベラを。高いグラスにはバラとスイートピーをそれぞれ挿すと、空間に動きや表情が生まれる。
 ガーベラも最初は背の高いグラスに飾り、茎のしおれ具合に合わせ切って花器を替えると、たった1本で何通りにも楽しめる。

 一輪が命をまっとうすると、次の新入りが咲き誇ってがんばってくれる。一輪でも“咲き誇りどき”があり、少しずつ年老いて最後はドライフラワーになり永遠の命を吹き込まれるものもある。

「新入りをよろしく」「おつかれさん」と声をかけたくなるような。植物に話しかけるとよく育つと聞くが、私の場合は切り花で、あてはまりそうにない。それでも、なんだかサブスクをやるようになってから、切り花の命が長くなっているような気がする。
 ブーケをいただいいたときには気づかなかった一輪ごとの花の特徴や寿命が、以前よりずっとわかるようになっているのは確かだ。

 さて、このサブスクのシステムがあるとき変わった。
『あらかじめ決められた対象の切り花から毎日1本』とは別に、『好きな切り花990円分を月6回』、『好きな切り花1,430円分を月6回』などリーズナブルな価格で、コースの種類が増えたのだ。

 990円でも数本にはなり、小さな束になるだろう。おまけに好きなものを選べるのか! 月に6回も。
 最初は胸が踊った。いつも立ち寄る花屋さんにも、新たなコースの花々が並び始めた。私ならどれを選ぶかな。横目で見ながら、あれとこれとと、シュミレーション。家に飾ったところも想像する。

 あれれ。不思議と興奮が少しずつ鎮まってゆく。
 毎日一輪を切ったり花器に入れ直したり並べ替えたり、狭い空間で工夫して遊べるようになるまでに1年かかった。
 そんな私には、ミニブーケはまだ早くて多すぎる。

 なんでも選べるというのは、好きなものしか選ばなくなりがちだ。私は限定された少ない対象から選ぶことで、吾亦紅や百日草の可憐さを知った。ユーカリひと枝でも、どれほど空間が雄弁になることか。

 子どもに、巨大なおもちゃ屋で「何でも好きなものを買っていいいよ」と言ったら、案外悩んでなかなか決まらない。「◯円まで」と言うと好きなものが並ぶ棚めざして駆け出す。
 私は食べ放題のビュッフェが好きだが、最初は大興奮して欲張るのに、最後は飽きてデザートコーナーをうらめしそうに見つめながら「当分来なくていい」と膨らんだ腹をさすったりする。
 食べ放題も選び放題も、楽しいものだ。でも私の場合は、たくさんあるより少ないから発見できる小さな喜びや楽しみが、今は嬉しい。

 上級者になったら、たくさん好きな花を選べるコースにトライしてみたい気もするが、当分先になりそうだ。
 今日の我が家は、蕾をふたつつけたラナンキュラス、淡いピンクのバラ、ユーカリ、デンファレ。4日分のささやかなヨロコビが寸胴のガラス瓶に収まっている。

 

長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。

大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com

 
photo:安部まゆみ

 
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