【57577の宝箱】刻々と零時になるたび生み出される 半熟卵の物語たち

小説家 土門蘭


以前どこかで、人の集中力は15分単位、というのを読んだことがある。
息子の通う小学校が45分授業なのも、私が通っていた大学が90分授業だったのも、そのためなのかなぁと思った。

学校に通っていた頃には長いと思っていたどちらの時間も、大人になったらそんなに長いと思わない。やることが多い上に、終わりがないからだ。それに、誘惑だって多い。
コラムを書こうとしたらいつまで経っても満足のゆく仕上がりにできなかったり、資料集めをしようとしたらどこまでも調べてしまったり、関係ない記事を読み耽ってしまったり。90分どころか、3時間だってあっという間だ。

だけどこの集中力の単位の話を読んで以来、「じゃあ、時間割を作って仕事をしたらいいのでは?」と思うようになった。

例えば、「1時間目は国語の授業。課題は、エッセイを1本書くこと」とか、「2時間目は社会の授業。課題は、取材対象の方をリサーチして質問内容を箇条書きにすること」とか。
時には2コマぶっ通しで「経済の授業。課題は、確定申告の経費を入力すること」なんかもある。

授業時間内に終わらせようと思うと俄然集中力が高まるし、クオリティではなく時間を基準にしているので、成果物が確実にできる。先述のように、いつまでもこねくり回したり、あげくネットサーフィンをしてしまう暇なんてない。

「締め切りは、創作の母だよ」
かつて編集者の方にそう言われたことがあった。
締め切りがなければ、いつまでも手直しができてしまうでしょう?と。

「締め切りがあるからこそ、人は何かを生み出せるんだ」
その言葉を、私はよく思い出す。

§

社会に出てから思ったのは、正解のない仕事ばっかりだということだった。

公式や文法を覚えればなんとかなるようなことは、基礎の基礎でしかなく、求められる仕事はその先にある。
覚えた公式や文法を使って何を発信するのか、何を作るのか、何を課題としてどのように解決するのか。誰も正解なんて知らないし、そもそも正解なんてない。公式や文法すら、時代とともに常に変わり続けているのだから。
そんなことはわかっているのに、私はいつも「正解」があるような気がしてしまう。

今の仕事である「文章を書く」ことについてもそうだ。

「正解」を出さなくちゃいけないような気がして、何度も書いたものをこねくり回し、他人の書いた「正解」らしいものを読んでみては、よくわからなくなってまた最初からやり直す。そんなループにハマってしまい、どんどん時間をこぼして、結局何も生み出せないことがよくあった。

だけど以前、大学の講義にゲストティーチャーとして参加した際、先生が学生たちにこんなことを言っているのを聞いてハッとした。
「下手でもいいから、とにかく完成させなさい。100点を取ろうなんて欲張らないこと。今のあなたが書けることしか書けないんだから」
それは「物語を作る」という課題を出した時に、先生が言ったことだった。

私は先生の言葉を聞きながら、「本当にそうだよなぁ」と思った。
今書けることしか今は書けない。自分にできることしか自分にはできない。それをただただ、精一杯やるしかないのだ。

正解を出そうとするのではなく、まずは完成させること。
完成さえできれば、人に差し出すことができる。そうすれば何かの反応が起こり、さらに磨くことができる。きっと、その繰り返しでしかないのだろう。そのための覚悟を、「締め切り」が決めさせてくれるのだ。

不安そうな、でもワクワクしているような、学生のみんなの顔つきを見ながら、そんなことを思った。

§

こんな文章、おもしろくないんじゃないか。
ありきたりで、つまらないんじゃないか。
時間があれば、もっと手直しできるんじゃないか。

そんな私のためらいや悪あがきを、終鈴の音は待ってくれない。
時計をチラチラ見ながら、目の前の文章に没頭する私の頭からは、ちっぽけなプライドや見栄なんて抜け落ちている。私はその瞬間がやってくると、ようやく「書く」ことができているような気がする。そんなふうに、締め切りが生んでくれた文章は数えきれない。

締め切りが創作の母なのだとすれば、なんて厳しくも温かい母なんだろう。

締め切りは見栄や怠慢は許さないけれど、今完成しているものをすべて受け入れてくれる。
「お疲れ様。とにかく、今できることができたね」と。

私はそれに向かって、今書けるものを書き切るだけなのだ。

 

“ 刻々と零時になるたび生み出される半熟卵の物語たち ”

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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