【57577の宝箱】冷蔵庫開けて中身を確かめる 未来の私はこれでできてる
文筆家 土門蘭
心の余裕がどれくらいあるかは、部屋を見ればわかる気がする。
私の場合、忙しくなるとわかりやすいくらい仕事部屋が荒れる。
あらゆるところに本が積まれ、書類は散乱し、クローゼットの中はごちゃごちゃ。
その状態を見てようやく、「ああ、今私は余裕がないんだな」とわかる。
禅宗には「一掃除二信心」という言葉があるそうだ。
「何よりもまずは掃除、信心はそのあとで」という意味らしいけれど、初めて知ったときは「そんなに掃除が大事なのか」と驚いた。でも確かに、部屋が散らかっていると、修行にも身が入らない気がする。
ところで、私は片付けが苦手だ。
だからものはあまり持たないようにしているのだけど、気づくとどんどん溜まっていく。
ここ最近は特に忙しいのもあり、仕事部屋だけでなくリビングも散らかっていた。
毎朝掃除機をかけたり、床に落ちているものを拾ったりはするけれど、テーブルの上や収納箱の中にものが雑に移動するだけで、片付いたとは全然言えない状態。
ダイニングテーブルにはDMや書類が溜まり、収納箱には細々とした電池やらボールペンやらが詰め込まれ、子どものおもちゃも溢れんばかり。
「時間があれば、片付けるのに」
そう思うものの、時間もないし、やる気も出ないし、もうどこから手をつけたらいいのかわからない。
キャパシティオーバー。まるで、今の私の心の中のようだと思う。
§
これではいけないと、この間の土曜日、意を決して掃除をすることにした。
どこから掃除をしようかと、散らかった部屋を前に一瞬途方に暮れたものの、まずは一番気になっていた台所から片付けることにした。
最初に、ガスコンロの下にある引き出しタイプの収納棚に取り掛かる。
かつおぶし、わかめ、麦茶などの乾物・茶葉コーナーと、サランラップ、タッパー、アルミホイルなどの梱包コーナーが入り混じり、何がどこにあるのかよくわからなくなっていたところだ。
まずは、中に入っているものを全部床の上に出した。すると出てくるわ出てくるわ、小分けになったティーバッグやふりかけ、ぐしゃぐしゃになったビニール袋……。私はそれらを丁寧に仕分けし、ボックスの中に片付けていった。タッパーは同じ大きさのものをまとめてスタッキング。蓋のなくなったものや欠けているものは処分していく。
収納棚の底面を雑巾で拭いて、そこにまたものを戻していく。乾物、サランラップ、タッパー、醤油やみりんの瓶など、ジャンルごとに分類して収納したら、スッキリと片付けることができた。
「うわ、すごく気持ちいい」
何がどこにあるかが一目瞭然。これで、使いかけのわかめがあるのに新しいのを開封してしまったり、タッパーの蓋を延々と探すなんてことがなくなる。素晴らしい!
§
調子が出てきたので、このまま冷蔵庫も片付けることにした。
上の段から順番に食べ物を出していく。棚板も出して、じゃぶじゃぶと水洗い。こびりついたシミやカスなども、洗剤で全部洗い流した。
冷凍食品や肉や魚でパンパンになっていた冷凍庫も、手早く中身を出して同じ手順できれいにしていく。肉や魚を手に取りながら、「これはもう古くなりかけているから、今日食べちゃおう」と、冷蔵庫に移し替えて解凍したり。あまりにも多い保冷剤を処分したり。
そんなふうにして、1時間ほど夢中で掃除をしていただろうか。
終わったときにはものすごい達成感で、心の中がスッキリしていた。この日は収納棚や冷蔵庫の中など、表には見えないところを片付けたのだけど、それでもとても気持ちがいい。
汚れを落としたり、ゴミを捨てたりすることはもちろん、今あるものをすべて外に出して確かめるだけでも、こんなにスッキリするんだなと思った。
何が足りなくて、何が多すぎるのか、何が古くなりかけていて、何がもう使えないのか……自分の持ち物をそんなふうに把握することで、次の動き方が見えてくる。今日の晩御飯で古くなりかけているのは使っちゃおうとか、今度の買い物ではあれを買わなくちゃとか。
自分は、何をどれだけ持っているのか。
掃除って、それを確かめるものでもあるのだろう。
「一掃除二信心」という言葉はもしかしたら、「自分の現状を把握することから始めれば、自ずと次にやるべきことが見えてくる」ということなのかもなぁ。手を洗いながら、そんなことを思った。
§
それ以来、ちょこちょこと掃除を頑張っている。
忙しくてテンパっているときこそ、身の回りの片付けをするとちょっとスムーズになる。バッグの中とか、テーブルの上とか、メールフォルダの中とか。
目の前の風景が整ってくると、心がすっと落ち着いてくる。忙しいのはもちろん変わらないのだけど、何がどれだけあるのか把握することで、冷静になってくるのだ。掃除とはきっと今の自分を知ること、そして、自分を整えることなのだろう。
自分のいる環境と自分の心は繋がっているのだと、身をもって感じている今日この頃。
心を整えるように、部屋を整える。そんな習慣を身につけたいと思う。
“ 冷蔵庫開けて中身を確かめる未来の私はこれでできてる ”
1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。
1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。
私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。
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