【眠るまえのショートストーリー 】vol.8_ハルオさんの春さがし
あわただしい一週間をかけ抜けている皆さまへ。眠るまえの、ちょっとした時間でも読める、童話のようなショートストーリーをお届けします。本を手にとる元気がない日、心に余裕がない日でも、ひととき現実を忘れて、物語の世界へもぐり込んで。今日という日が心地よく幕をとじ、よい眠りにつけますように……
ヒツジ雲
北国の小さな町を訪れたのは、2月も終わりのことでした。
ホームも駅舎もどこもかも、ふかぶかと雪が積もっています。
もう一枚重ね着をしてくればよかったな。そう思いながら改札を出ると、ハルオさんがブンブンと手を振りながら待っていました。
「ようこそ雪国へ。もう、春がきていますね!」
厚着をしたハルオさんはそう言って、白い息を吐きながら笑いました。
えっ、春ですって?
びっくりして見つめると、ハルオさんはうれしくてたまらないといったように笑って、
「さあ、行きましょう。春をたしかめに!」
と、鼻歌混じりに歩きはじめました。
目抜き通りは、雪で真っ白でした。
いったい、どこに春がいるのでしょう。
商店街の店先に貼ってある「ランドセルあります」の紙、あれが春のしるしでしょうか?
けれど、ハルオさんは目もくれません。
街路樹は大きなわたぼうしをかぶって、枝をしならせていました。
あの枝のこずえにとまっているふくらスズメ、あれが春のしるし?
けれども、ハルオさんはスズメの前を歩き過ぎていきます。
公園に入ると、毛糸の帽子をかぶった子どもたちが走り回っていました。
あの元気な子たちが春のしるし?
しかしハルオさんは、子どもたちの脇もすりぬけていきます。
公園の真ん中に、噴水がありました。あまりの寒さに、大きなつららがいくつも下がっています。
まわりを花壇らしきものが囲んでいましたが、そこも厚い雪で覆われて真っ白でした。
ところが、ハルオさんはパッと表情を輝かせ、そこへ突進していきました!
「さあ、ここです!」
ハルオさんが指をさしたのは、噴水と花壇の境目でした。
ほんの少しだけ地面の土がのぞいています。そして分厚い雪に埋もれながらも、ごまつぶのような草の種から、産毛のような芽が、ひょろんと生えているのでした。
「ね、雪の下はもう春でしょう。春がはじまっているんですよ」
ハルオさんはそう言うと、花が咲いたように笑いました。
文/ヒツジ雲
おやすみ前の皆さまに、いい夢をお届けできるようなショートストーリーをつくっているユニット
イラスト/杉本さなえ
鳥取出身。2018年から福岡を拠点に活動。少女や花、動物などをモチーフにした物語性のあるイラストレーションを制作。近年は墨汁の黒と朱の2色のみで描く作品に力を入れている。イラストレーターとしても活動中。2018年に作品集「Close Your Ears」発行。
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