【おとなの学び】第1話:マイペースで学んでいる「絵」。少しずつ上達するのが嬉しくて(濱津和貴さん)
ライター 嶌陽子
何か新しいことを始めてみたい気分が高まっているこの時期。習い事、もしくは何かの勉強をする、ということが気になっています。
前から興味のあったことをゼロから勉強してみる、以前に習っていたけれど、しばらく中断していたことを再開してみる……。形はいろいろあれど、何かを学ぶことはそれ自体が楽しいだけでなく、日常にも新しい風が吹きそうです。
一方で、忙しい毎日の中で続けられるのか、どんなふうに学ぶ先を見つければいいかなど、疑問や不安がちょっぴりあるのも確か。
そこで今回は、無理なく学びを続けている方々に話を聞くことに。「大人の学び」ならではの楽しみ、無理なく続けるための秘訣などを、全3回にわたってお届けします。
半年前から通う絵画教室。自由な雰囲気が決め手でした
最初に訪ねたのは、フォトグラファーの濱津和貴(はまつ わき)さん。当店の読み物ページでも数々の素敵な写真を撮っています。
濱津さんが半年前から習い始めたのは「絵」。きっかけや、どこで習っているのかなどを聞いてみました。
濱津さん:
「絵は前からずっと習いたかったんです。写真とは別に、もうひとつ自分の好きなことを表現できる手段を身につけられたらいいなと思っていて。でも絵を描くのがすごく下手だという自覚があったので、きちんと教わって上手になりたいと思っていました。
インターネットなどで探しつつ、最終的に絵を学んでいる友人に教えてもらったのが銀座にあるアートスクール。通えそうな曜日や時間だったので、まず見学に行ってみたら、雰囲気が良かったので入学を決めました」
濱津さん:
「モデルの人を写生したり、テーマを与えられて描いたり、好きなものを描いたりと、授業内容はさまざま。平日の夕方から授業があるんですが、自分が登録した曜日を欠席した場合は他の曜日に振り返ることもできたり、かなり融通がきくのが続けられている理由かも。
生徒も若い人から年配の人まで幅広く、お互いの作品のいいところを言い合ったりと、和気あいあい。最近は、クラスの仲間で授業が終わった後に食事をしたり、休日に絵の展覧会に一緒に行ったりするようにもなりました。ここに通わなかったら知り合えなかったような人とも出会えるのが楽しいですね。
かといってそういった活動も決して強制参加ではなく、それぞれが自由でいられる雰囲気なのも気に入っています」
描いた絵を見せるのに抵抗があったけれど……
▲さまざまな海藻を描いた絵。「友人とkinhijiというユニットを組んで日本の食をテーマに活動しているんです。最近、海藻のプロジェクトを始めたのでこの絵をウェブサイトに掲載しています」
濱津さん:
「最初の頃は、描いた絵を先生に見せるのに抵抗があったんです。他のみんなは上手なのに、私は下手だし……と思っていて。
でも入学する前に『本当に下手なんですけど』と迷っていたら、先生が『絵は上手下手じゃない、楽しめるならそれでいい』って言ってくれて。それに私の描いた絵を面白がってくれるので、少しずつ平気になってきました」
▲好きなテーマである「食べ物」の絵は普段からよく描いている。
▲「先日吉祥寺で開いた個展では、写真作品と一緒に自分が描いた絵も数枚だけ展示しました」
濱津さん:
「絵を描いている時は楽しいし、通い続けるうちに少しずつ上達していく感覚があって、それも嬉しいんです。
前は下手だと思い込んであまり絵を描こうとしなかったけど、最後まで描いているうちに良い方向へ変わっていくこともあるってことも分かってきて。だから最近は『下手でもいいからとりあえず描いてみよう』と思えるようになりました」
母の味や旅の風景もスケッチで記録
▲母親が作ってくれた料理の絵をレシピと共に。
濱津さん:
「最近は、家や旅先でも絵を描いています。先日は実家に帰った時に母が作ってくれた料理の絵を描いたんです。
母の料理は何らかの形で記録しておきたいけれど、写真の場合は印刷してノートなどに貼り付けて横にレシピを書いて……とかなり手間がかかるんですよね。絵はこうやってすぐに形にできるのでいいなと思います」
▲旅先で絵を描くために作った携帯用のセット。
▲旅先の公園でスケッチしたもの
濱津さん:
「旅先でじっくり風景をスケッチすることも時々あります。写真は動き回って撮る感じですが、絵はじっくり座って時間をかけて完成させるもの。でもその分、自然と触れ合う時間も増えたなあと思います」
無理なく、楽しく習い事を続けるコツって?
実はこれまでにもさまざまな習い事に挑戦してきた、という濱津さん。今も続けているものもあれば、すぐにやめてしまったものもあるそうで……。
濱津さん:
「お花を生ける “花いけ” は7年前に始めて、今も細々と続けていますが、もうすぐ先生が辞めてしまうので一旦お休み。でも、けっこう飽き性だった自分がお花は長く続けられたことで、絵も続けられるかも、という気持ちの後押しになりました。
それ以前には、サックスやオンライン英会話なども習ってみたんですが、難しすぎたり、求めている内容と違ったりしてすぐやめてしまいました。スポーツジムも入会したものの、なんだか居心地が悪くてすぐに退会してしまったことも。
興味があっても、実際に一度体験をしてみないと、自分に合うのか合わないのかは分からないですよね」
濱津さん:
「もうひとつ、どこかに通う習い事の場合、場所も私にとっては大事です。家から近いか、もしくは好きな街かどうか。
今、絵を習いに行っているのは銀座ですが、常に変化がある街なので歩くのが楽しいんです。そういうプラスアルファのお楽しみがあると、通うモチベーションも上がりますね」
濱津さん:
「あと、あまりストイックになりすぎないようにもしています。実は今通っているところは授業が週2回あるんです。でも仕事などがあって、全部は出席できないんですよね。
毎回出席しなくちゃ、とプレッシャーを感じていたら、続けられなくなってしまいそう。もちろん、授業料との兼ね合いもありますが、私の場合はいろいろ考えて納得した上で、週1回行けたらいいな、と思うようにしています」
まわりと比較せず、自分のために学べる楽しさ
今夢中になっている絵をはじめ、これまでさまざまな習い事に挑戦してきた濱津さん。大人になってから始める学びの楽しさとは?
濱津さん:
「子どもの頃は勉強が嫌いだったんですが、20代でアメリカに留学した時、周りのみんなが色々なことに詳しくて会話の引き出しも多いことに驚いたんです。それ以来、自分もいろいろなことを学びたい、と思うようになり、興味を持ったことにはいろいろトライしています。
大人になってから始める勉強って、誰かにやらされるわけではなく、全部自分で決めたこと。だからやらなきゃっていう気持ちも強くなりますね」
▲いつもより大きなサイズで描く「アートワーク」の授業での作品
濱津さん:
「子どもの頃だったらもっと周りを気にして、自分が上手か下手かということを今よりずっと意識してしまっていたと思うんです。皆と同じようにしなきゃというというプレッシャーもあったかも。
でも大人になると、純粋に自分のために学ぼうと思うから、周りはあまり気にならなくなりました。あくまでも自分のペースで楽しめる、それが大人の学びということなのかもしれないですね」
習い事をしようと思っても、いざとなると頭の中だけでぐるぐる考えてしまって、なかなか重い腰が上がらないことも。興味を持ったことに軽やかに挑戦している濱津さんの柔軟な学び方が新鮮に感じられました。
続く第2話では、回数も場所も決めない、そんな自由なかたちで学んでいる冨澤緑さんにお話を伺います。
【写真】川村恵理(1〜5、7〜13枚目)濱津和貴(6、13枚目)
もくじ
濱津和貴(はまつ わき)
フリーランスフォトグラファー。都内のスタジオ勤務後、2012年に独立。日常に佇む美しさをテーマに、はたらく、食べる、着る、奏でる、旅するなどの人の営みと、そこから生まれる光景を撮り続ける。最新写真集『summer vacation』も好評発売中。また、 日本の「食」から広がるストーリーを海外に届けるユニット「kinhiji」の一員としても活動している。2023年1月27日〜2月11日、福岡市のHACHIJU-ICHI 81にて個展を開催。
ウェブサイト:http://wakihamatsu.com/ インスタグラム:@wakyhama
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