【いつものおしゃれ】後編:ワンピースが大好き。安心の定番があると「冒険」だってたのしい
編集スタッフ 糸井
『おしゃれをしたい気分』を忘れたときに、無理なくそれを思い出すにはどうしたらいいんだろうと、想像をふくらませることがあります。
毎日選ぶ服と、おしゃれ。その付き合い方が知りたくて、話を聞きに行ったのはライアー奏者・手仕事作家の山下りかさん。
前編では普段着や、おしゃれ心の温め直し方についてお聞きしました。
後編は、山下さんのスタンダードアイテムやこだわりについて伺いました。
安心の定番アイテムがあると、できること
▲白いスカートはアンティークのもの。ベージュの『Tabrik』の巻きスカートに、『TOUJOURS』の花柄と黒いスカート2点。
1日のコーデは、クローゼットにある『今日着たい服』を探すことから。そんな山下さんのマイ・スタンダードといえるものにはどんなものがあるのでしょうか。
山下さん:
「歳を重ねても、好きなスタイルは変わらないんです。スタイリストをしていた頃からずっと、トラディショナルなデザインやシルエットが好きでした。
アイテムでいうと、ロングワンピースやギャザーの入ったロングスカート。どれももう、何十年選手のものばかりですね。
ワンピースってかわいくて楽で、着ているといつも気分がいいから、年中同じものを着ています。長めのギャザースカートも季節問わず穿けるし、真冬も色々中に着込めて、心地いいんです」
▲ペールグレー色のカシュクールワンピース&シャツブラウスは『Yoli』のもの。春に一枚で着るのがたのしみなのだとか。
▲着続けているワンピース。色・ブランドは違えど、どれも長さは大体このくらい。左から、『TOUJOURS』のワンピース二点、『-M-[medium]』、『DOUBLE MAISON』、『Tabrik』のワンピースが並ぶ。
山下さん:
「それと、妥協できないのが生地ね。自分にとって着心地はなにより大事だから、『素材は何が何%使われているんだろう』と、表記タグは必ず見るようにしています。
『この服はコットンとシルクが入ってるから光沢があるのね!』と知れるのもたのしいんです」
▲『今日は真っ黒で出かけたい』と思う日も多い。自分のなかではリセットのような意味があるのかもしれません、と山下さん。左から『TOUJOURS』、『Yoli』、『ERICA TANOV』、と手作りの麻ワンピース。
定番になりつつあるものを見つけて
▲パリで見つけた『ALEXANDRA SOJFER』の傘。壊れてもお直し可能なので、もとのウサギの柄に新しい傘を付け替えて使っている。
定番アイテム、スタイルが定まっている山下さん。いつも思うのは、そんな人はどうやって定番を見つけ、決めたのかということ。自身を思い返すと、なんとなく着続けているものはあれど、大きなこだわりもないので代替可能なものだとも思えるんです。
山下さん:
「クローゼットを見返したとき、何年も着ているもの、『同じものがもう一度買えたらいいのに』と思えるものがもしあれば、それが定番になりうるんじゃないかしら。
そこには選び続ける理由がきっとあって。シルエットなのか生地なのか、楽さなのか。その要素をもとに、自分が居心地良く過ごせる服=定番が見つかることもある気がします」
誰かの定番が、自分の定番になったスニーカー
▲スニーカーは特に定番を見つけると楽で、試着なしでネットで買っても大丈夫なのが嬉しいそう。ついこの前新調したばかりのもの(左)と、何年かお世話になったもの(右)。
山下さん:
「自分の定番がないなと思ったら、誰かの定番を試してみるのもいいですよね。
たとえばスニーカーは、『CONVERSE』のJACK PURCELL(ジャックパーセル)一択になっているほど、繰り返し買い続けています。
でもきっかけは40年ぐらい前に、どこかでひとつの定番ものとして紹介されていたからだったと思うんです。
はじめはそうだったけれど、今や自分にとってはなくてはならないものになっていますね」
▲スニーカー以外には、『dansko(ダンスコ)』も山下さんの定番。どちらも靴下を重ね履きしても問題なく履け、素敵に着こなせる。暖かい季節には『BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)』を愛用しているそう。
冒険するのに、頼りにしているブランドがあるんです
安心の定番があることで、ちょっとした冒険も軽やかに迎えられることもあります。
山下さん:
「新しい服を買うのは、やっぱり心が踊るもの。今も毎年、季節ごとに何着か迎えています。
服を買うときは事前に『今回こういうものがあったら買おう』と決めて行くのですが、別のものに目がいってしまうこともしょっちゅう。そのまま冒険するように、アイテムを買うことが増えましたね。
今年の冬に買ったのは、ピンクのウールコートと、おそろいのマフラー。
元々はパンフレットに載っていたホワイトを買う気満々で行ってみたら、ピンクに目を取られてね。これまで試してなかったけれど、『こっちのほうがいいじゃない? 』って。とっても軽くて、暖かいんです」
▲『-M-[medium]』のウールボアコートとストール。ライアーコンサート当日にこのコートを着ていくと、スタッフ全員から大好評。
山下さん:
「冒険をするのには、頼りにできるブランドをいくつか見つけるといいかもしれません。
私の場合は、『-M-[medium](ミディアム)』、『TOUJOURS(トゥジュー)』、『Yoli(ヨリ)』、『TOWAVASE(トワヴァーズ)』。どれも本当に素敵で、全部欲しくなるくらい大好きです。
ブランドから出る新作のおかげで、おしゃれのたのしみも、毎年ほどよく訪れる。好きな漫画やドラマの新作が出るのが待ち遠しい感覚に似ているかもしれません」
▲新しく取り入れたピンクのシルクのパンツも、ミディアムのもの。着慣れたカシュクールワンピースの下から覗かせ、足元はいつものダンスコ。慣れない色でも戸惑わない定番の強さを感じます。
今の自分にぴったりなおしゃれは……
前後編合わせて、服のちからを知り尽くす山下さんだからこその方法をお聞きしてきました。
定番が確立されていて、おしゃれをしたい気持ちの泉が枯れることなく、シーズンごとに新作をたのしむ。お気に入りのブランドがいくつか決まっている。気に入れば何十年も愛用し続けて、着古したら無理のない使いみちを見つけ直す。
わたしにとってのおしゃれな人って……、と想像したときに浮かぶ要素をいくつも持っている山下さんが眩しくて。お気に入りの服への好き度が薄れることがないのかなと、ふと気になりました。
山下さん:
「好きが薄れること……気分によってはあるけれど、そんなときはしばらく寝かせるんです。何年もしまったままなことも普通にあります。そうすると、不思議とまた好きになれたりするのかな。捨てることがあまりないから、服を増やす必要もあまりないんです。服は、自分の財産だと思っているのかな」
自分なりのおしゃれを育てるのがとても上手な姿に憧れて、わたしも服のちからを日々に取り入れてみたくなりました。まず変えてみたいのは、家での普段着(兼、仕事着)。家事やらで汚れたら……と思い、おしゃれは難しいと感じていたけれど、山下さんのように「今より作業がたのしくなる服」を考えたい。浮かんだのは、気に入っていたのに最近は出番がなかった、寝かせたきりのワンピース。今の自分に、色々ぴったりな気がしています。
(おわり)
【写真】メグミ
もくじ
山下りか
ライアー奏者、手仕事作家。雑誌『オリーブ』でスタイリストとして活躍したのち、渡米。出産後、子育てを通じてシュタイナー教育に出合う。 1998年に帰国後、現在は手仕事や竪琴の一種「ライアー」の講座、演奏活動などを行なっている。著書に『季節の手づくり 夏と秋』、『季節の手づくり 冬と春』(ともに精巧堂出版)がある。CD「septime stimmung」も販売中。https://rikayamashita.com/
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