【あの人の生きかた】第3話:おいしいものは素直に「最高」って思える。まずは自分を肯定することから

ライター 嶌陽子

人生後半も前向きに自分らしく進んでいくためのヒントをもらいに、料理研究家の枝元(えだもと)なほみさんを訪ねています。

第1話は料理の世界に進んだ経緯について、第2話では40代後半から始めた料理以外の取り組みについて聞きました。最終話の今回は、数年前に病気が発覚した枝元さんの近況や、今考えていることについて伺います。
1話目はこちらから

 

数年前、大きな変化が訪れて

枝元さんの病気が分かったのは4年前。「間質性肺炎」という、原因や治療法がいまだに不明な病気だと診断されました。それ以降気をつけて暮らしていたものの、ある日事態が急変します。

枝元さん:
「コロナにかかって急に悪化してしまって、1ヶ月間入院してました。

それまではものすごく丈夫で、何でもやりたいことをやっていた生活。病院にも検診にも行ったことがなかったし、薬局の薬も全然飲んでなかったの。でも、あの時は本当に大変だった。

病気や事故で突然生活が変わるってことは、本当に誰にでもあるんだなあってあらためて思いました」

▲入院中に一日一枚描いていたという絵。「蓮の花が好きで、写真集を見ながら色鉛筆で描いたの

枝元さん:
「退院して家に帰れたのは嬉しかったけど、酸素チューブをつけなくちゃいけなかったりして、完全に元の生活には戻れないんだと気づいた時はショックだったな。

でも仕方ない、もうそういう自分を認めようって思ったの。だから最近は酸素チューブをつけてテレビにも出たし、講演もしています。こんなふうにしながら仕事や生活ができるんだよっていうことをを皆さんに知ってもらえたらいいかもと、病院の先生たちとも相談してね」

 

前より人に上手に頼れるように

▲猫のくぅちゃん(オス、4歳)は、「女の人が大好きなの」

枝元さん:
「病気になる前は、あまり考えずにどんどん仕事を入れていて、『最低月に1回は休みなよ』なんて周りに忠告されるくらい。

最近は、スケジュール帳が真っ白な日もあります。でもね、仕事ができないもどかしさはなくて、その真っ白なスケジュール帳が大好きになっちゃった。『今日は何にも予定がない!』って思うとうれしくなるの。

近頃は “午前中は自分の時間” って決めていて、起きたらアロマオイルでマッサージしたり、日によっては簡単な体操をしたり、音楽を聴いたり。きれいな空き箱を切って、しおりを作ったりもしてるんです」

▲最近は、干し納豆作りにもハマっているそう。

枝元さん:
「病気をしてから、前より人に頼れるようになったかな。うちに来る友達が『何か買っていくものある?』って言ってくれたら、『じゃあ、にんじんと玉ねぎを頼むわ』ってお願いしちゃったり、皆でイベントの準備とかをしてる途中で『私、疲れたからもう寝るね』っていうことも。そうするとみんなが残りをちゃんとやってくれる。

自分がいなきゃだめって思わずに、『できないから頼んでいい?』って言うほうがいいんだなって最近思う。

ダメな時はダメって人に素直に言っちゃう。そうすると助けてもらえる、そのことがほんとにありがたいの」

 

大切なのは、自分を肯定すること

▲もう1匹の猫、きぃちゃん(メス、10歳)と一緒に。

どんな状況になろうと、いつだって今を楽しむ術を見つけて、できることに取り組んでいる枝元さん。その秘訣を聞いてみました。

枝元さん:
「大事なのは、自分を肯定することなんじゃないかな。私なんか、何かやろうって思ったらすぐやっちゃって、石橋を石橋だって気づかないで渡っちゃうタイプなんだから、完全に自分を肯定してるよね。

健康であろうと、病気になろうと、どんな時だって自分を認めて肯定したい。

『本当はこれがやりたいのにできていない』みたいに自分を責めるんじゃなくて、できることを考えたり、マインドを変えるだけでもいいんだと思うの」

枝元さん:
「みんな、周りからどう思われるかとか、 “こうあるべき” っていう枠から外れたらどうしようとか、怖がりすぎてる気がするな。

たとえば身のまわりのことや社会に対しておかしいって思ってても、こんなこと言ったらだめかなあ、とか。

でも、自分を肯定して、とにかく思ったことは言ってみる。遠慮しないで『おかしいんじゃない?』って言ってみる。

大がかりなことをしなくても、まずはそういうことが何かを変えていける一歩になると思う」

枝元さん:
「それに、いろんなことを言ってる変なおじさんおばさんがいる世の中の方が楽しいし、きっと子どもや若い人たちも元気に育つと思うの。世の中、行儀のいい人ばっかりじゃ苦しいもの。

私も若い頃は遠慮して言いたいことが言えないこともあったけど、おばちゃんになったら、ガンガン言えるようになった(笑)。

歳をとるにつれて真面目に行儀よくなるんじゃなくて、言いたいことを言うおばちゃんになったほうが、気を楽にして生きられると思うなあ」

 

料理は、自分を肯定できる一番の行為

これからしたいことは何ですか、という問いに「夜のパン屋さんの活動をもっと頑張って、赤字を出さないようにすること、それから病気をきちんと治して料理の仕事をまたたくさんすること」と答えてくれました。

枝元さん:
「私はやっぱり料理が好き。この前久しぶりに料理の仕事があったんだけど、キッチンに立つのがうれしくて。何を作るか考えたり、このにんじん、いいねえ!なんて思いながら切ったりしてるのがすごく楽しいの。

この間もスタッフの子たちと料理をしてて、途中で私が別の部屋で休んでたの。そしたらキッチンからものすごく楽しそうな笑い声が聞こえてくるのよ。

そうやってみんなが笑い合えるような場所って、最高にいいなって思うんです」

枝元さん:
「料理って、すごく自己肯定感を持てることだと思う。

ふだん、仕事なんかでは周りから褒められることも、自分で自分を褒めることも、そんなに多くないでしょう。

でもおいしいものって、素直に “最高!” って思える。食べ物で自分を養えるっていう自信って、すごく大きいなと思うんです」

途中で何度も飲み物やフルーツを勧めてくれながら、じっくり話してくれた枝元さん。

心がじんわり温まったのと同時に、これからの生き方を考えていくうえでの土台となるようなことを教えてもらった時間でした。

自分にとっての「正解」を、周りの声や「こうあるべき」という枠に求めるのではなく、失敗しながらでも自分の頭で考えていきたい。自分の暮らしを人任せにせず、自分で選び取っていきたいなと思ったのです。

そのためには、思ったことをちゃんと口に出したりして、自分を肯定することから始めないと。心の声を大切にする練習を積み重ねていったら、きっと人生後半、ほかの誰のものでもない、自分自身の道を切り開いていけそうです。

まずは日々、「おいしい!」と自分を褒めながらごはんを作りたい。枝元さんがごちそうしてくれた、とびきりおいしいサンドイッチを思い出しつつ、今日も台所に立とうと思います。

 

【写真】井手勇貴

もくじ

 

枝元なほみ

劇団の俳優、無国籍料理レストランのシェフを経て、料理研究家としてテレビや雑誌で活躍。農業支援活動団体である「チームむかご」の代表やNPO法人「ビッグイシュー基金」の共同代表も務め、雑誌「ビッグイシュー日本版」では連載も持つ。著書に『捨てない未来―キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』(朝日新聞出版)など。最新刊『枝元なほみのめし炊き日記』(農山漁村文化協会)が9月30日に発売予定。


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