【空を見上げて】前編:毎日見ているけど意外と知らない。天気予報を作っている人にお話を聞いてみました

ライター 花沢亜衣

「明日、晴れるかな?」とチェックする天気予報。雨予報にがっかりして予報が変わらないかな……と数時間おきに更新してみたり、「今日も暑くなりそうだ」と着る服を考え直したり。

日々の暮らしのなかで、ちょっとした気分や行動も左右する天気。その天気をお知らせしてくれる天気予報は、だれがどうやって作っているのだろう?

そんなささやかな疑問から気象予報士の佐々木恭子(ささき・きょうこ)さんを訪ねました。

意外な理由から気象予報士を志した佐々木さんに、天気予報や空に関するあれこれを聞いてみました。

 

エンターテインメントの裏側に憧れて

「天気って本当におもしろくて、どんどんネタが出てくるんですよ」と、話しはじめてくれた佐々木さん。あまりにも楽しそうに話すその様子から、もうずっと天気や空が好きだったのかと思いきや……実はそんなこともなく、天気とは一見関係のないテレビの制作に長年携わっていたのだそう。

佐々木さん:
「中学生くらいのときから、テレビや映画の裏方に興味があったんです。大学では演劇専修を専攻して、卒業後にテレビ番組の制作会社に入りました。テレビの制作の現場は肌に合ったし、とてもおもしろかったです。

さっぱりわからないところから、徐々にできることが増えるのがすごく楽しかったですね。4年半から5年くらいAD(アシスタントディレクター)として経験を積み、ディレクターになりました。一般の人が見ているエンタメの裏方の仕事をしているんだ、ということが誇りでした」

 

当たらない天気にヤキモキして気象予報士に

当時は、空や雲を見て「きれいだな」と思うことはあっても、特段興味の対象ではなかった天気。だけど、テレビの番組を作るなかで、天気予報に興味を持つできごとがありました。

佐々木さん:
「屋外で撮影をするときは天気がすごく大事なんですよね。雨の予報が出ていれば、雨具を準備しなくてはいけないし、晴れている空を撮りたいときは「晴れ」の予報に合わせてスケジュールを立てなければならない。予期せぬ雨で撮影をストップしなくてはいけないこともあります。複数のタレントさんがいるような番組だと、天気を鑑みながらスケジュールを組むのも一苦労です。

ある時期、天気予報が外れてロケがうまく進まないということが立て続いて……。『誰かが作った予報でスケジュールを立てるから、外れたときにイラッとするんだ』と思ったんです。自分で天気を予報して、スケジュールを立てることができたらイライラしなくなるんじゃないかなと。無知ゆえの発想ですよね(笑)」

そこから佐々木さんは「天気を予報できるようになるには、気象予報士になるしかない!」と、動き出します。でも、その時点では、テレビ制作の現場で天気予報を生かしたいという思い。天気を仕事にすることまでは考えていませんでした。

佐々木さん:
「天気に振り回されることが多かったので、『天気って、何様なんだろう』みたいな気持ちが強かった。気象予報士の勉強をはじめたのも、撮影現場で雨に降られたら嫌だなくらいの小さな理由でした。

その頃は、天気予報を仕事にするなんて考えてもいませんでしたね。やっぱりテレビの裏方というお仕事は中学生の頃からの夢だったので、根強いものでしたから」

 

難しい数式の意味は、身の回りにあった

いざ、勉強をスタートしようと訪れた本屋さん。気象予報士の参考書を開いて佐々木さんは愕然。難しい数式ばかりの参考書を、その場でパッと閉じたといいます。

佐々木さん:
「天気や気象というのは物理の話なので、数式や公式がたくさん出てくるんです。数式には苦手意識があったので、最初はとにかくつらくて……。でも、数式をただ暗記するのではなく、意味をちゃんと理解しようと思ったら、世界の見え方が少しずつ変わっていったんですよね」

佐々木さん:
「たとえば、私はマラソンをするんですけど、夏に暑い外を走っていて、コンビニの前を通過すると自動ドアが開き、店内の冷気を足元だけに感じたことがあったんです。『そうか、冷気は重いから足元に来るんだ!』って。教科書に書かれていることを体感できた瞬間でした。

水蒸気や湯気、水滴があるお風呂の中は雲ができて雨が降る仕組みと同じ、圧力鍋で気圧と温度の関係に気づいたり……。意識してないだけで、天気につながるものに囲まれて生活しているんだなと気づいたんです。

数式の意味が理解できると、問題が解けるようになるだけではなく、普段の生活にも紐づくことばかりだった。身の回りの見え方が天気や気象のこととして捉えられるようになったら、数式も全然苦じゃなくなったんです」

 

知れば知るほど楽しい天気が導いた、決断

「夜の露天風呂で、光が当たらないところはなぜ湯気が見えないのか……」「冬に足が冷えるのは……」と、身近な不思議を投げかけると「そう、それも気象と通じているんです!」と、佐々木さんはキラキラした表情で解説してくれます。

佐々木さん:
「知れば知るほど、これはなんだろう?、この現象はどんなときに見られるんだろう?という気持ちになってきますよね。私もそうでした。

気象予報士試験は合格率5%と、確かに難しい試験ではあります。私は気象予報士試験のためのスクールもやっていますが、やっぱり勉強を楽しいと思える人は合格していくなという印象。試験は楽しいって思ったもの勝ちなんですよね」

気象予報士の勉強をするなかで、天気がおもしろくなってきた佐々木さんは、試験の合格を待たずにテレビの制作の仕事を辞める決断をします。

佐々木さん:
「資格が取れたら辞めようではなく、資格に集中するためにも試験前に退職しました。そのあとはひたすら勉強に集中する日々でしたね。

もちろんテレビの仕事はずっと憧れでしたし、やりがいも楽しさもありました。ディレクターの仕事は、いかにおもしろいものをつくるか。ゴールはなく、突き詰めれば深いことも知っています。だけど、ひと通りできるようになり、新しいことや違うことに挑戦してみたい気持ちも出てきていたんだと思います。

なにより天気や気象を知ることが楽しかったし、もっと知りたいという気持ちがありました」

 

勉強するほどに広がる好奇心

佐々木:
「気象予報士試験の勉強をしていると、空の色の理由、雲が白い理由、虹ができる条件とかがでてくるんです。今までは、『見つけたらラッキー』くらいに思っていた虹を自分でつくれるようにもなって。

天気に関わることって、とにかくロマンチックだし、ワクワクするんです。本屋さんで最初に参考書を見たときは、数式しか書いてないと愕然としたのに……。

実技の勉強をするようになると、雲や空の現象の1つ1つの理由だけでなく、そういったすべての知識を武器として装備して、天気図から天気を予想していかなければなりません。温帯低気圧や台風などの現象の仕組みを理解して、答えていかなきゃいけない。

徐々に、そういう天気の変化を予測するのがおもしろくなっていきました。天気を勉強していると、興味がどんどんどんどん変わっていって、終わらないんですよね」

§

天気予報は毎日見ているのに、あまりよく知らない気象予報士というお仕事について聞いてみました。

少し想像していない理由ではあったものの、「わからないことを知るのが楽しい」という夢中になる理由は、共感できる気がします。

「天気や気象の背景がわかるのはおもしろいし、今日はこの雲に出会えるかもと予想するのも毎日楽しくて!」と快活に笑う佐々木さん。

後編では、天気の楽しさ、そしてこれからの時代、天気予報に求められることについてお話してもらいます。

 

【写真】龍門


もくじ

 

佐々木 恭子

合同会社『てんコロ.』代表。気象予報士。防災士。大学卒業後、テレビ番組制作会社入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや交通機関、企業向け予報を担当。現在は予報業務に加え、気象予報士資格取得スクールなどを主催・講師を務める。

著書:『天気でわかる四季のくらし』(新日本出版社)など

編集協力:『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)シリーズなど

YouTube:@tencorochannel
X(旧 Twitter):@tencorocoro

 


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