【やめてみたふたり】前編:メモ帳と日記をしまってみる。「聞くこと」を学んで変身中です(筒井 × 小針)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は......実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、人事企画室で組織作りに携わる筒井と、ストア編集グループで商品ページを作る小針が登場。筒井は2016年、一人目の人事としてクラシコムに入社。小針は2021年入社で、長年の愛読者から「つくる側」になった一人です。

会社のこと、お店のことをそれぞれに見ていたふたりは、これまでどんな試行錯誤を重ねてきたのでしょうか。前編は主に小針が聞き役となって、筒井に色々と質問してみました。


自分の居場所って、どうすれば作れるんだろう?

小針:
筒井さんとの「はじめまして」は採用面接でした。こうして向き合って話すのって、なんだか新鮮ですね。

筒井:
面接のときの応募書類を見ても、「小針さんは本当に暮らしのこと好きだろうなぁ」と感じたのをよく覚えています。その中に、まっすぐに通っている芯みたいなものもあって。

小針:
そんな印象だったんですね! 面接ではどうしても私の話が中心でしたけど、筒井さんがクラシコムに入るまでのことを、改めて聞いてみたいです。それこそ、どんな子どもでした?

筒井:
福岡生まれの福岡育ちで、大学まで福岡にいました。小さい時はすごく活発で、目立ちたがり屋だったんです。ただ、そういう感じの個性のままで思春期に入ってみたら、ぶつかることも出てきてしまい、うまく集団に馴染めなかったんです。

自分の居場所をどうすれば獲得できるのかわからなくて、ある時からは、勉強にその矛先を向けていました。

小針:
私も似たような感じだったかもしれません。

筒井:
当時の変化でもう一つ覚えているのは、きっかけは忘れちゃったんですけど、その頃ぐらいから日記を書き始めました。自分のふつふつとした思いを言葉にするだけの、誰にも見せない “秘密の日記” です。


言語によって違う!「ところてん」みたいな捉え方

小針:
大学では何を勉強されたんですか?

筒井:
哲学です。きっかけは、高校で国語の先生が「言語によって物事の捉え方は違うんだよ」と話をしてくれたこと。たとえば、虹の色は必ずしも七色でなかったり、同じ動物でも違うように表現したり。私はそれを「ところてんみたいなものか」って思いましたね。

小針:
塊をぎゅーっと押し出すと、ところてんらしい、あの細長い形が決まる……という感じでしょうか?

筒井:
そうそう!

何かしらの概念が言葉によって押し出され、認識されるものとして変わる。それに衝撃を受けて、言語学や心理学、哲学が勉強できる人文学科を選んだんです。大学では主にライプニッツに学んで、ドイツ語やフランス語、ラテン語と格闘しつつ本を読みましたね。今となっては、中身はすっかり忘れてしまったのですが。

その経験は今も「思考の筋肉」みたいになってるかも。抽象度が高いことや概念めいたことを、いかに捉えて理解しようとするのか。それは大学4年間で鍛えてもらったことです。


面接で「太陽のような人です!」と背伸びしたけれど…

筒井:
卒業後は、文房具メーカーに就職することができました。日記を書いたり、言葉で書き記したりすることが生活の大切な要素になっていて、それを支えてくれるのは良い使い心地の筆記具やノートです。そういった道具があったからこそ、自分を保つための内省ができました。私にとって文房具は話し相手のような感覚で、本当に救ってもらっていましたね。

そういう思いもあったので「企画部門で商品を作りたい」と入社しましたが、配属は人事。面接では「営業も志望です」とも言っていたんですけど、人事にピンとくる何かがあったのかな……?

小針:
筒井さんが営業志望というのも、ちょっと意外です。

筒井:
実は、申し訳ない話なのですが、心から営業志望だったわけではなくて……。就活がうまくいかない時期を重ねて、「こういうふうに答えた方が好印象なんだろうな」と、本質的でない「傾向と対策」みたいなものを持ってしまっていました。

例えば、面接で「一言で表すと、あなたはどんな人ですか?」という質問には「太陽のような人です!」と言ったり。「自分自身も輝くし、周りも明るく照らします!」みたいな。今思えば、それは本当の自分ではないし、背伸びしていましたね……。しかも、後から聞いた話ですが、面接官だった方々にも感づかれていたようです。

小針:
面接官たちには「どうも違うぞ?」って、バレてしまっていたんですね(笑)。

筒井:
でも、そこがすごく嬉しかったです。この会社に入りたいと思っている学生に対して、言葉の表面だけでなく、深く知ろうと真摯に向き合ってくれたと感じたんです。私の拙い話の奥にある「その人の良さ」や「弱さ」も踏まえた上で、それでも一緒に働きたいと思ってくれたわけですから。


社会人は「参考書がない迷路」みたいだった

小針:
人事のお仕事は性に合っていたんですか?

筒井:
社会人になりたての頃は、人事の仕事が合ってるかどうかよりも、社会人として日々を過ごして成果を出していく、その新しいプロセスに慣れることに精一杯でした。

それまでの勉強は、良い点数が出せれば居場所が確保されますし、勉強はやり方が確立されていました。参考書には答えと解法も載っています。時間をかければかけるほど、成果に繋がりやすい。でも、社会に出たら参考書はないし、答えだって有るようで無い!

いきなり目隠しで迷路に入って、手探りどころかダッシュで壁にバーン!ってぶつかって進むような感覚で。「一体何なんだこれは?」と戸惑いながら、ぶつかりながら進んでいたら何年か経っていた、みたいな感じでした。この迷路の日々のモヤモヤも、例の日記に書いていましたね(笑)。


商品への思いと、社員の健やかさの両立を探して

小針:
そこからクラシコムに転職しようと思ったきっかけはあるんですか?

筒井:
9年勤めて、30代に入ったんです。やれることの幅が広がり充実感もあった一方で、「手慣れ」のようなものが自分の中にあって、それを変えていきたいと思うようになりました。

裸一貫でやり直してみよう、とはいえ「自分は何がしたいんだろう?」と。前職は、良い商品を通じてお客さまや世の中の役に立ちたいという理念のもとに、社員一人ひとりが真摯に自分の仕事に取り組んでいたのが好きで、人事という職種で会社の発展に貢献できることも好きでした。

その取っ掛かりを信じて、社員が仕事を通じて感じている充実感や健やかさと、お客さまの役に立ちたいと思って作った商品に込められた思いが、どちらも同じくらい大切にされているところで働きたい、と探し始めたんです。

小針:
商品への思いと、社員も健やかである、が両立していてほしいわけですね。

筒井:
いろんな企業を調べるうちに、(代表の)青木さんのインタビュー記事に出会って、クラシコムはまさにそれを両立している会社だと感じました。今でも、それは変わらないなと思っています。


責任を握り締めず、シェアして、取り込んで、より良くなっていく

小針:
筒井さんは一人目の人事として入社したんですよね。

筒井:
そうですね。最初は管理系業務のベースを整える段階から始まって、青木さんや他の管理系のスタッフと一緒に色々なシステムを導入したり…テストで良い点数を取るための勉強みたいに、一つひとつの「やるべきこと」をクリアしていく感じだったんです。

でも、ある程度それが終わって、今度は「より実現したい方向」のために何をやっていけばいいのかを作り上げていく段階になったら、結構悩みました。「もう『やるべきこと』スタンプラリー」が終わっちゃった!みたいな感じ。

小針:
組織への貢献の仕方が変わったんですね。

筒井:
それに、今度は「人事としてやれること=自分の能力の限界値」みたいな状況のように感じて、申し訳なさがあって。でも、今はメンバーが増えて、人事企画室として5人体制になり、「人事としてやれること」も広がりました。

小針:
一人で抱え込まずに、チームでやれるようになったと。

筒井:
そうなんです。人事として組織に貢献できる幅や可能性が広がったことが嬉しいです。「クラシコムのために、もっといろんなことができるようになったぞ〜!」という感じ。

ただ、その難しさにも直面しています。前の会社でも自分の癖として、一人でぎゅっと責任を握りしめて、必死にやってしまう傾向があったんですね。同じチームメンバーと何かをシェアしながらやっていく、ということがなかなか身についてなくて。

ここ1年ぐらい、それを獲得している最中です。それから、子どもが生まれて、仕事時間に制限があるからこそ、限られた中でやっていかざるを得ないという状況もあります。

小針:
産休から復帰されてからはいかがでしたか?

筒井:
復帰した時は、ちょうど会社が大きく変化しているタイミングで、私が2022年7月にお休みに入って、8月にクラシコムが上場したんです。休んでいる1年弱の間に会社の状況がすごく変わっているように感じて、キャッチアップするのに必死でした。

小針:
環境の変化についていくのが大変だったんですね。

筒井:
そうですね。復帰して3ヶ月で、一度体調を崩して1ヶ月お休みをいただいたんです。なんだか余裕がなくて、今までだったらしなかったような失敗もしちゃって。「周囲に心配や迷惑をかけてしまった」「人事としての役割を全うできていない」という気持ちが心を占めるようになり……。

でも、お休みをもらって仕事を仕切り直したら、周りのみなさんのサポートもあって、ちょっとずつ適応できているところも増えました。

自分ひとりで責任を握り締めるのではなく、「どうやったら相手や会社にとって良いものになるんだろう」とみんなで考えていく。自分が考えつかないようなアイデアを出してもらったり、やることを分担したりと、みんなに力を貸してもらいながら取り組んでいく。

そういう仕事の進め方を強く体感したのは、産休から復帰したここ2年くらいのことですね。ひどい状態が続いたとしても、もう駄目になっちゃったわけではないんだなって。自分自身、変化していけることへの希望を諦めなくてもいいのかもしれないと思えて、少しホッとしています。


今はメモする手を止めて、変化の真っ最中です

小針:
今日もお話して思ったんですが、筒井さんの言語化力が羨ましいです。それも日記などで言葉にする機会が多かったからなんでしょうね。

筒井:
実は、クラシコムに入社してから、印象的だった出来事があるんです。ある時、私の報告に漏れがあって、青木さんからフィードバックをしてもらった時のこと。いつものように黒革の手帳を開いて書き留めようとしたら、「今はメモをする手を止めて」みたいに言われたんですよ。

青木さんは真摯に伝えようとしてくれていたゆえの発言だったと思うのですが、「大事なことを聞き逃したらどうしよう」と、その時は心配でした。でも、今思うと、私はそれまで、言われたことを一旦書き留めることで、言葉が自分の中にまで直撃しないように守っていたのかもしれません。

その守りのシールドがあることで、きっと救われてきたこともたくさんあったと思うのですが、自分を守ろうとするあまり、大切な「話す」や「聞く」が疎かになっていないかな?と最近気づきました。そんなこともあって、日記もお休みしていて。

小針:
大切だった習慣を、あえて手放すのは大きな変化ですよね。

筒井:
子どもが生まれて、そもそも時間が取れなかったというのもきっかけだったんですけどね。自分が弱くなっているときや図星のフィードバックをもらうときなど、言語化することで自分の居場所を作って、自分と世界を隔てるバリケードを組んでしまうことがある……そういうことに気づきはしたけれど、「新しい自分に生まれ変わった!」みたいな感じでもなくて。

ただ、大きな変化のプロセスにいるな、という感覚はあるんです。最近読んだ心理学者の河合隼雄さんの本(『こころの処方箋』新潮文庫)に「生まれ変わるためには死なねばならない」という一節がありました。

精神的に「生まれ変わった」と思えるくらいに自分が変化することの裏には、自分の中心となっていたものがなくなるようなことがある。そういった概念的な「死と生のプロセス」を経ることで本質的に、大きく自分の精神性が変わることがある、といったお話でした。

それにすごく共感したんです。だから、私は今、「生き方のパターン」を変えつつある過程、なのかもしれないです。


(つづく)


【写真】川村恵理

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