【小さな趣味のハナシ】前編:「ただの私」で居られるから。手紙を書くことの楽しさを、中臣美香さんに聞きました

編集スタッフ 野村

仕事と育児と家事とを淡々とこなしていく毎日の中で、ふと自分の「好き」ってなんだっけ?と考えてしまう瞬間がありました。

日々小さく楽しみにしていることや、人に語れる趣味と呼べるものがあんまりないかもなぁと自分の中身がぽっかりと空洞になっている気がしたのです。

大人になってからの趣味や、自分の中の小さな「好き」ってどんなふうに見つけて育むものなんだろう? 漠然とそんなことが気になりました。

そこでこの特集では、日常の中に楽しみを見出すように趣味や自分の好きなことを大切していると感じられる人に、話を聞きに行きました。

まず訪ねたのは、吉祥寺のセレクトショップ&カフェ「coromo-cya-ya(コロモチャヤ)」のディレクター、そしてシャツブランドの「Houttuynia cordata(ホーチュニア コダータ)」のデザイナーを務める 中臣 美香 (なかとみみか) さんのお宅です。

 

手紙を書くのが、小さな趣味です

中臣さんのもとへ訪れたきっかけは、以前、中臣さんのお宅に取材へ伺った際、「手紙を書くことが小さな趣味です」とお話ししていたことが印象に残っていたから。

文字を静かに、丁寧に綴っていく時間をとること。そんな営みを日常の中で大切に育んでいる中臣さんに、趣味にまつわるお話を伺ってみたいと思ったのでした。

中臣さん:
「文字を丁寧に書くことや手紙を綴ることが好きになったきっかけは、思い返してみると小学生時代に遡ります。

当時住んでいたのは、長野県の安曇野。通っていた習字教室が、鉛筆字やペン字も教えてくれる教室で、文字を丁寧に書く時間の楽しさを教えてもらいました。

手紙を書くことの楽しさを知ったのは、文通がきっかけです。夏休みの間だけ東京から安曇野に来ていた同い年の女の子と仲良くなって始めました。

私は夏休みになると、祖父の営む縫製工場によく遊びに行っていたのですが、その子は工場の隣のお家に泊まりに来ていて。工場とお隣さんの間にはとても大きな池があって、そこで出会って仲良くなりました。

文通は小学生の頃から高校生くらいまで、定期的に続けていましたね」

中臣さん:
「送った手紙に返事がくること、次はどんな便箋で送ろうかなと考える時間、文章にすることで自分の考えが整理整頓されていく感覚……。そんなちょっとした喜びが日々続いていく感じが好きでした。

だから、働き始めてからも、仕事やプライベートでお世話になった人には手紙を書く機会を設けるようにしていて。

『手紙が大好きで、いつもいつも書いています』というわけではないのですが、細々と続けている大切にしたいことですね」

 

文字だからこそ、伝えたくなってしまう

中臣さん:
「手紙を書くことを、もっと定期的にできたらいいなと思っていたこともあり、今年からお店で『贈り物の定期便』を始めました。1ヶ月に1回、私がお客様にプレゼントしたい贈り物にお手紙を添えてお届けする定期便です。

どうしてこの贈り物にしたのかということに加えて、その月に自分が思っていることなどを手紙に綴っています。

手紙では、普段の接客でお客様とお話するのとはまた違った話題を書くことができて楽しいんです。

たとえば、『今、息子は黄色がすごく好きで、今日は何色の服を着る? と聞くと、いつも黄色! と答えるんです』というようなことって、面と向かう接客の時にはわざわざ話さないかもしれませんが、手紙だとなぜか自然と書けてしまって」

中臣さん:
「こんな風に、手紙だからこそ書けることがきっとあると思うんです。私ができる、お客様との新しいコミュニケーションのひとつかもしれないなと感じています。

定期便でお送りした手紙に、お客様からお返事をいただくこともあって。想像もしていなかったことで、びっくりするのと同時に、喜びも一緒に受け取っている気持ちになります。

手紙は定期便のおまけのような存在かもしれませんが、感情をささやかに彩ってくれるものだなぁと実感しています」

 

自分の名前を、ちょっときれいに書けたなら

数ヶ月に1回、中臣さんのお店では「ペン字のレッスン」も開かれています。レッスンはどうして始めたのでしょうか?

中臣さん:
「文字って人を表すことがあるなと思います。書いた文字がどんな文字であるかで、文章の伝わり方も変わってくるというか。

お店の取引先の方で、見ると心が洗われるようなとても綺麗な文字を書かれる方がいて。納品書に添えられた一筆箋の文字がすごく印象に残っていました。

それで、お礼を書いたり、自分の名前を書くというちょっとしたことでも、自分が気持ちいいと思える文字で書けたら、日々の気分がちょっとだけいいものに変わってくるんじゃないかなと思ったんです」

中臣さん:
「お店のスタッフに、『ペン字レッスンをやってみたいね』とぽろっと話をすると、やってみたいです! とすごく盛り上がりました。

そこで、字がとても綺麗な取引先の方にお話を伺ってみると、カルチャースクールでペン字の講師もされている方で。ぜひペン字の講師をお願いできないかと頼み、数ヶ月に1回であればできますよ、と話がまとまっていきました。

まずはスタッフたちの間で始めて、その後お客様にも向けて企画し、今のレッスンの形になっていったんです」

 

「ただの私」でいられる、無邪気な時間

中臣さん:
「レッスンに来てくれた方にお話を聞いてみると、文字が綺麗に書けるようになりました、というよりも、集中して文字を書く時間が良かった、という感想が多かったんですよ。

その感想を聞いて、上手い・下手ということだけじゃなくて、ただ文字を書くことを素直に楽しめる時間って、とても豊かで大切なことなんだと感じたんです」

中臣さん:
「私自身、子どもが生まれてからの時間の流れが変わって、やるべきことだけに追われて、自分のために使う時間がないと感じていた時期がありました。

たとえば、映画を観にいきたいとか、やってみたいな〜と自分の中でふわっと湧いて出てきたという感情や、意味があるかどうか分からないけれど自分が大事にしたいと感じたことをすくい上げていかないと、どんどんと消えてしまう、と焦りを感じていたんだと思います。

何かを『習う』ことには、そういう自分の中の『小さな好き』を守ってくれる作用があるなと思うんです。

私自身もペン字レッスンを楽しく受講している一人。書いた文字に花丸をもらえる瞬間や、『お』が上手く書けなくて何度も何度も集中して書く時間は、『コロモチャヤ店主の私』でも、『デザイナーの私』でもない、『ただの私』でいられる無邪気な時間だな、と感じています」

***

趣味を楽しむことや、自分の「好き」を楽しむのは、無邪気な時間。

そんな風に話してくれた中臣さんとの取材を経て、自分が無邪気でいられる時間はどんなことだろうと改めてゆっくり思い返してみると、気になる本を手に取った時や、好きな音楽を聞いている時間が思い浮かびました。

側から見ると取るに足らない小さなことかもしれないけれど、自分にとっては大事にしたい時間です。だからこそ自信を持って、これが趣味です、と言いたいなと思いました。

(つづく)

【写真】井手勇貴


もくじ

 

中臣美香

1982年、長野県生まれ。吉祥寺のセレクトショップ&カフェ「coromo-cya-ya(コロモチャヤ)」ディレクター、シャツを中心としたブランド「Houttuynia cordata(ホーチュニア コダータ)」デザイナー。夫と息子と3人暮らし。Instagram:@nakatomimika


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