【最終回|お星さんがたべたい】12:花を吸う
なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。
小学校の帰り道、道端でつつじの蜜を吸ったり、小さいぶどうのような実をたべるのが一時期、流行った。
はじめはつつじの蜜をちゅうちゅうと吸うともだちをみて、あの子はたしかにわたしのたいせつなともだちだけれど、道端の花をぶちっと摘んでは根本をちゅうちゅう吸って、にやにや笑っているなんて、どう考えてもへんなやつだからけっしてこころを許してはならない、と思っていたのだけれど、「まあまあ騙されたと思って」とかなんとか小学生は言わないはずだけれど、そんなようなことを言われて、おそるおそる吸ってみると、ほのかに甘くて、びっくりとして、へらへら笑ってしまったことをおぼえている。
それからはよく吸った。すごく甘いのと、あんまり味のしないのがあって、運だめしのように、ぶちぶちと花を摘んでは蜜を吸った。
いまあらためて調べてみると、つつじの蜜には毒がある品種もあるらしく、毒のあるものとないものを見分けるのはむずかしいので、つつじの蜜なんて吸わないほうがいいらしい。
つまり、あのころ、わたしたちは吹けば飛ぶようなちいさな体で、必死に、夢中で、ちゅうちゅう甘い毒を吸っていたのだ。ふしぎなことである。
もう大人だから(毒があることも知っているし、道端のだれがなにをしているかわからないものに口をつけるなんて恐ろしいから)つつじを見つけても蜜を吸ったりしないけれど、道端に咲いている花の蜜を吸うのは、大人になったいまも、ほんとうはたのしいことなのだろうと思う。
たとえば休日、ともだちと駅前で待ち合わせて、「久しぶり」「いい天気だね」などと言い合いながら、お気に入りのカフェーへ向かってだらだら歩いているとき、ふとつつじをみつけて、ぶちっと摘み、普通の顔して、ふたりして吸う。黙って吸う。大人の女性のくちびるにはさまれるうすいピンク色のつつじ。
やはり、なんともたのしげである。もうしないけれど、想像上はたのしげである。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
編集部より>>月1回の更新でお届けした小原晩さんの連載「お星さんがたべたい」は、今回が最終回です。ご愛読いただき、たくさんのご感想もお寄せいただき、ありがとうございました。
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