【店長コラム】ひとつの転機に。「かもめ食堂」を観ていなければ今のお店はなかったかもしれない。

店長 佐藤

 kamome_photo_150818_01文 店長佐藤

 

『かもめ食堂』との出会いがなかったら…

しずかで穏やかな池にポーンと小石が投げ入れられ、そこに波紋がひろがる。

印象的な映画を観たときに心のなかで起きる現象って、それに似ているような気がします。

穏やかだった心に小さな波紋がひろがって、それまではどこかで見て見ぬふりをしてきた何かや、きっと叶わないと諦めていた理想がザワザワしはじめる。

映画『かもめ食堂』を初めて観たとき、わたしの心のなかで起きたのはまさにそれでした。

公開された当時、女友達とふたりでシネスイッチ銀座に出かけ、この映画を観ました。テレビCMの予告編を見て感じた「この映画は絶対観に行かなくては。何かあるぞ」という予感を携えて。

エンドロールの後もすぐには立ちあがれず、となりに座っていた友達と顔を見合わせ「よかったね」と言い合ったのを覚えています。

なにがそんなによかったのだろう?グッときたんだろう?

それに、あの映画と出会っていなければ「北欧、暮らしの道具店」というお店はなかったかもしれない。ということは、実は転機をもらっていた?とさえ思えるのです。

 

『かもめ食堂』から私がもらったコト。

diary_photo_150818_01(食卓に並べるたび映画を思い出す24h AVECブルーのお皿)

 

北欧に行ってみたい!という強い動機

それまでインテリア関係の仕事をしていたわたしは、北欧でうまれた数々の家具デザインに心を奪われていました。

でも『かもめ食堂』を観て自分もぜひ味ってみたいと思ったのは、北欧の空の色・森の澄んだ空気・ゆったりとした街並み・焼きたてのシナモンロール!そういうものたちでした。

「やっぱり一度は北欧に行ってみたい!」ものすごく強い気持ちでそう思うことになります。

”かもめ食堂”に詰まっている居心地の良さに憧れるキモチ

映画を観て憧れたのは”北欧”だけではありませんでした。

あの”かもめ食堂”という空間に詰まっている居心地の良さです。

食堂の色づかい、インテリアのセンス、かわいい料理道具たち。食堂で繰りひろげられる愉快な人間関係と控えめなようでまっすぐなコミュニケーション。

ひとつひとつの要素が重なり合うことで実現されているように見えた、居心地の良さ。

映画の中にしかない空間なのに、気分だけはお客さんになりきって、なんて居心地がいいんだ〜となりました。

せめて自分が暮らす家をこんなふうに居心地のいい場所にしたい!と、正直悔しくなるくらい憧れるキモチがとまりませんでした。

自分でなにかを始めるという選択肢

主人公のサチエさんがフィンランドで素朴なごはんを出す食堂をはじめる選択には、地味に刺激をうけました。

当時30歳だったわたしには、この先なにができるのか見当もつかなかったけれど「いつか周りの人に喜んでもらえる”なにか”を自分で始められたら」と、新たな選択肢が目の前にうすらぼんやりと現れることになりました。

自分にできることをしようという勇気

なにかを始めるとき、まず自分にできることをする。「できること」とは多分、頑張らなくてもできることという意味ではなくって、自分にとって大切で好きなこと。

主人公のサチエさんから教えてもらったと、わたしが勝手に思っていることです。

周りの人から「フィンラド人にも食べやすい日本食を」「日本人観光客が来やすい食堂にしたほうが」と言われてもオニギリや豚カツといったメニューを大事にするサチエさんは勇気があるなあと思いました。

自分にできること、自分にとって大切なことから始め、それを続けていく勇気です。

 

この映画をみた翌年、はじめて北欧を旅しました。

kamome_photo_150818_02

偶然にも翌年、夫が仕事の関係で2週間ほど北欧に行くことが決まり、わたしも仕事を休んで便乗することを迷わず決定!

今思えばウソみたいな話ですが、この初めての北欧旅行が「北欧、暮らしの道具店」開店までの道のりを決定づけるキッカケとなったのでした。

旅行中に知り合った現地に住む友人、食事に招かれて目の当たりにした現地の人のライフスタイル、自分へのお土産にと夢中で掘り出しモノをさがした蚤の市やアンティーク市での買い物体験。

それらひとつひとつが「北欧、暮らしの道具店」の出発点であるヴィンテージ雑貨店としてのスタートにつながっていきます。

『かもめ食堂』を観て、一度は北欧に行ってみたい、何かを自分で始めてみたいと心がザワザワしていなかったら、今のお店はなかったかもしれない。

『かもめ食堂』はひとつの転機をくれた大切な映画として、これから先もきっと何度も飽きることなく観るんだろうと思います。

もう台詞も覚えてしまっているくらいなのに、何度観ても心地よい気分になれる本当に不思議な映画です。

 


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