【きっかけシネマVol.05】あふれる自由のなかで選択に迷う私たち。「善き人のためのソナタ」
文 ライター新田まるむ

『善き人のためのソナタ』(2006年)
【監督】
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
【キャスト】
ウルリッヒ・ミューエ
マルティナ・ゲデック
セバスチャン・コッホ
ウルリッヒ・トゥクール
【ストーリー】
ベルリンの壁崩壊の5年前、東ドイツを舞台に、シュタージ(国家保安省)の忠実な役人が、監視対象の思想に影響を受け、個人の意思に目覚めてゆく姿を描いたヒューマンドラマ。旧東ドイツの監視社会の実態を克明に描き、恐怖政治に翻弄される芸術家たちの苦悩も浮き彫りにする。主演のウルリッヒ・ミューエは、旧東ドイツでの役者生活の中、自身も監視された経験を持ち、身近な者まで密告者となっていく現実を身をもって体験している。この映画公開の翌年、俳優人生を全うして亡くなった。

小さな自由と、大きな自由。
先日、夏のサンダルを買おうとサイトを見ていたら、あまりに様々な種類があり過ぎて、しまいには一体自分はどれが欲しいのか分からなくなってしまいました。
そこで思い出したのが「リーバイス501」。
ジーンズ選びの苦労も似たようなものがありますが、私が20代のはじめだった頃はリーバイスの501がマストアイテムとしての定番でした。とりあえずこのモデルを買えば、ジェームス・ディーンのように似合おうが似合わなかろうが満足していられたのです。
そんなわけで、私たちは洋服選びから人生の選択まで、大きな自由に恵まれて暮らしています。
ありとあらゆる価値観と選択肢に迷い、時に「ジーンズは501」と決めてくれた方が楽かも、なんて思うような贅沢さの中で。
一方、好きな映画を観ることも、自由に考えることもできない世界もあります。
情報も思想も制限された全体主義、決められた考え方以外は許されない世界。そこにいる自分を想像してみることさえ難しく感じます。
今日の映画はまさにそんな世界の物語。

全体主義と監視社会の中で、人々は互いへの疑心暗鬼を抱きながら生きています。
主人公のヴィースラーの仕事は、反体制的な人々の監視をすること。
実直な彼は疑問を抱くこともなく淡々とその仕事をこなしていましたが、ある時、有名な劇作家の監視をすることになり芸術家たちの自由な思想に感化されていきます。
美しい音楽を聴いたり、恋人と愛を交わしたりという人間らしい生きる歓びに、ヴィースラーの心は開かれていくのです。
そしてある日、盗聴器から聞こえてきた「善き人のためのソナタ」。
音楽が人の心を動かす力を見せる素晴らしい場面、その曲が彼の心の奥に響いた時、彼は初めて自分で良いと思う選択をします。
彼の小さな自由の中では、選択肢はふたつにひとつしかなくて、正しい選択はシンプルにたったひとつでした。
一方で大きな自由に恵まれた私たちは、ありあまる選択肢と多様な価値観の中で迷っています。
小さな自由の世界で、いわばたったひとつの正解「リーバイス501」を迷わず選ぶ満足感と心の平和。
あふれる自由の海原で幾つもの正解に迷いながらも、より良い選択をするために迷える贅沢な私たち。

どちらにも、それゆえの苦悩があるのかもしれません。
とは言え、何を信じてもいい、どんな生き方をしてもいいという私たちの大きな自由は決して当たり前のものではない。
そんなありあまる自由についての見方を変えてくれた、きっかけシネマです。

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