【40代の、前とあと】雅姫さん:後編「40歳からは自分が人生の主人公に」

ライター 一田憲子

16写真 砂原文

モデルとして、そしてご自身のブランド「ハグ オー ワー」のデザイナーとして活躍する雅姫さん。

前編では、モデルデビューから、結婚、出産、そしてお店オープンまでのエピソードを伺いました。後編では、今43歳になった雅姫さんが、どんな40代を迎えたのか、そして、「40歳の、前とあと」がどう変わったのかについて語っていただきます。

 

やっぱり家で過ごす時間が好き。
インテリア取材を受けてから、仕事の質が変わってきた。

あちこちで見つけた古いガラス瓶には、自宅で飾りながら、自然にドライフラワーになった紫陽花などをディスプレイあちこちで見つけた古いガラス瓶には、自宅で飾りながら、自然にドライフラワーになった紫陽花や木の実、キャンドルなどを入れてディスプレイ

実は、お店を始める少し前から雅姫さんは、いろいろな雑誌で自宅のインテリア取材を受けるようになっていました。当時自宅を公開するモデルさんはほとんどいなかったそうです。そのセンスのよさはたちまち評判となり、やがて集英社「LEE」の誌面に度々登場。多くの読者の憧れになりました。

雅姫さん:
「『LEE』で何度か取材を受けたあと、『パリに雑貨を買い付けに行く』という企画のお話をいただいて。当時2歳だったゆららを連れていってもいいのなら、とお受けしました。インテリア取材は『雅姫さんに』と声をかけてくださるので、それがすごく嬉しかったんです。モデルの仕事では、容姿だけでしか判断されなかったですから」

masaki_04_shikaku_160225初めて取材でマルセイユへ

masaki_07_paris初めてのパリ。カフェで親子でティータイム

一方で、子供服の企画、デザインを手がけ、お店の準備も着々と進んでいました。

雅姫さん:
「『LEE』のおうち取材の記事の隅っこに、小さく『子供服始めます』って告知をのせてもらいました。『返信用の切手を同封いただければ、カタログ送ります』って。50通ぐらいくればいいかなと思っていたら、なんと4000通もきたんです! ポストに入りきらなかったですね。

カタログといっても、知り合いのカメラマンさんに頼んで、代々木公園に娘と友達を連れて行って撮影し、そのポラを切り取ってカラーコピーで手作りしていたんですよ。切手を同封してもらっているから、送らないわけにはいかない。もう商品は完売しているのに、すべて宛名を手書きして送って……。完全に赤字でしたね(笑)」

こうして「ハグ オー ワー」1号店をオープンする頃には、多くの通販の顧客さんがいたため、すぐに軌道にのったのだとか。

雅姫さん:
「無理なく始められるよう、9坪の小さなお店でした。毎日のように娘を連れて通いましたね。最初は不安だらけで……。雨なんて降ったら誰もこなくて、『何時に戻ります』って張り紙をしてお散歩に行ったりしてね。休憩室もなかったから、レジの後ろにブランケットを敷いて娘を寝かせたりしてました」

hugshop_1現在の「ハグ オー ワー」

 

どんなことが起こっても、誰かのせいにしない。
きっとなんとかなる、と信じれば、いつも笑っていられる。

masaki_01_shikaku_160225ゆららちゃんが4歳ぐらいのとき。雑誌の撮影のオフショット。

ここまでが、20代だった頃のおはなし。モデルデビュー、結婚、出産。そして27歳でお店をオープン。たった7年間の間に人生をかえるような出来事が次々と起こり、その度に、雅姫さんは新たな扉をひとつずつ開けていったよう。そのすべての決断と行動を雅姫さんは、ほぼひとりで行ってきました。

雅姫さん:
「娘が1歳の頃、夫が単身赴任で1年間いなかったことがあったんです。ひとりで子育てと、当時ラブラドールレトリバーが2匹いたから、犬の世話と……。たぶん、そこで私はぐんと男前になったんだと思います。夫は、家のことはまったく手伝わない人で、なんでも自分でやらなくちゃいけなかったから。

二度だけ、夫の前で泣きましたね。一度目は『ハグ オー ワー』の仕事が忙しくて、娘のことをちゃんとかまってあげられなかったとき。二度目は、「カリスマ主婦」と呼ばれたとき。当時暮らし周りの布小物などを作る提案をしていたんですが、みんな私のことを、身の回りのものをすべて手作りしている、完璧なお母さんだと思ってくださっているようでした。でも実際は、仕事が忙しくてそんな時間はほどんどない。本当の私と「見られている私」の間にギャップがあって、嘘をついているようで苦しくて」

私たちは、思うように事が運ばないときに、「どうして私ばっかり」とか「誰も私のことなんてわかってくれない」と不満をこぼしたり、誰かのせいにしたりしがちです。なのに、ひとりできちんと現実に向き合った雅姫さんの強さに驚きました。

私たちが今まで雑誌などで目にしてきた雅姫さんは、いつも美しく、素敵な部屋で、かわいい子供服を着たゆららちゃんとにっこりと微笑んで、何にも困ったことなんてないように見えました。でも、実はつまづきもあれば、途方にくれたこともあった……。

雅姫さんの本当の素晴らしさは、誰もが自分の内側に抱えている不満や不安を、すべて「きっとなんとかなる」とひっくり返したところなのかもしれません。

 

30代は、夫婦それぞれに
自分の道をひたすら駆け続けて。

clothshop_1「クロス&クロス」は、作家さんの器など、和のテイストのものもそろう 

そして30代になると「ひたすら仕事していました」と雅姫さん。

ご自身の書籍を出版したり、雑誌の連載などで3か月に一度は海外取材に。お店の売り上げも順調に伸び、やがて店が手狭になり、2003年に移転。子供服だけでなく、レディースの洋服や雑貨などもそろえた「ハグ オー ワー」2号店のオープン初日には、長い行列ができたそうです。さらに、キッチンクロスなどの布ものをメインに、作家さんの器や生活雑貨を集めた「クロス&クロス」をオープン。

夫の森さんは、バー「ROCK STEADY」を立ち上げ、現在はメンズブランド「WACKOMARIA」のデザイナーとして活躍されています。

「私たち、互いの生き方には干渉しないんです」と雅姫さんは語ります。

 

そして40代。自分が主人公に

10綿麻ストライプキッチンクロス \クロス&クロスで販売。ちょっと辛口のメンズライクなストライプが今年っぽい

そんな雅姫さんが、40歳になっていちばん変わったのは「自分」を大事にできるようになったところ。今、夢中になっているのは、なんとベリーダンス! 週に1度、多いときには週に2〜3度、忙しい時間をやりくりしてレッスンに通っているそう。

雅姫さん:
「今まで子育てと仕事しかしてこなくて、私には『趣味』という時間が皆無でした。だから、ちょっとゆとりが出てきた40代に、まずやりたいなと思ったのは「習い事」だったんです。仕事が不規則なので、定期的に曜日を決めて通うということはなかなか難しくて。スポーツジムは続かないし、英会話は何度トライしても断念したし。ヨガも初めてみたんだけれど、目をつむって瞑想みたいな時間になると「あれもしなくちゃ、これやったっけな?」とどんどん雑念が浮かんできちゃってダメ。

そんなとき、たまたま知り合いの編集者に誘われてベリーダンスのワークショップに参加してみました。そうしたらはまっちゃった(笑)。

13今年のエプロンは、ちょっとビビットな色に。リネンキャンバスタブリエエプロン \クロス&クロスで販売

まずスタジオに入ったら今まで聞いたことのないアラブミュージックがガンガンかかっていて、日常とスイッチがカチリと切り替わるんです。しかも、必死についていかなくちゃいけないから、余計なことを考えている暇がない。すべて忘れることができるんですよね。

しかも、レッスンに来ている人たちは、誰も私のことなんて知らない人ばかりで、それがなんともラクで心地いいんです。ベリーダンスって、筋肉を外につけずに中につけるんです。表面は女らしいんだけれど、インナーマッスルを常に意識していないといけないんですよね。鏡の前に全身で立つことなんて、そうそうないけれど、そうやって自分を見つめてハッとする。そんな緊張感も大事にしたいですね。指先から足先までに気を使って表現する……。それが今の仕事にもつながるかなあと思っています。人生で初めて、自分のためにやっていることなのかもしれません」

「SENSE de MASAKI」の次号はこの秋発売予定。もうすでに撮影は始まっているそう「SENSE de MASAKI」の次号は5月20日発売予定。撮影は着々と進んでいるそう。

そして、一昨年にはご自身が企画し、ライフスタイルを提案するムック「SENS de MASAKI」(集英社刊)が始まりました。

雅姫さん:
「『センスを磨く暮らしの教科書』というコンセプトです。40代の人が暮らしを楽しむためにヒントとなるようなことをいろいろ伝えられればいいなあと思って」

 

20代、30代で引き出しに蓄えたものを
40代では、取捨選択、整理整頓する時代

15

ご自身の20代、30代を語ってくれた雅姫さんは、とても正直で率直でした。

誰もが生きて行く上で、理想や夢の裏側に「現実」という荷物を抱えています。子育てが大変だったり、丁寧な暮らしがしたいのに、仕事が忙しすぎて理想とどんどんかけ離れていってしまったり……。でも、そんなひとつひとつの現実を「ちょっと楽しく」「ちょっと美しく」するために、雅姫さんは小さな工夫を積み重ねてきました。

雅姫:
「疲れているときは、仕事帰りに花屋さんによって、自分にご褒美の花束を買うんです」

そんな風に、ちょっと心の持ちようを変えれば、大変だと思っていた現実が、少し明るくなりそうです。

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もしかして「大変なこと」は、「大変だ」と思った瞬間に「大変」になってしまうのかもしれません。それを「大変」だと思わなければ、同じ状況も「大変」ではなくなるのかも。

そして今までの小さな工夫の蓄積は、これからワクワク楽しく過ごすための燃料になってくれるはず。20代、30代が、「何かを得る」ためにいろいろな経験を自分の引き出しにストックする年齢だとすれば、40代は一旦立ち止まり、それを点検して、取捨選択する年齢のように思います。

私自身も40代を振り返ると、いろんなことに迷い、惑った時期でした。今まで積みかさねてきたことが、果たして正しかったのか? このまま同じ道を歩き続けていてもいいのか? そして10年後どうなっていたいのか? そのためにはどちらを向いて歩き出せばいいのか?そのすべてに答えが見つからなくて苦しかったことを覚えています。

でも、今振り返ってみると、それは引き出しの中身をすべて出して、「いる」「いらない」と見極めて、また詰め直していた時期だったように思います。その作業をきちんとこなしたあと、50代を迎えると、その「引き出し」の中身を「使える時期」になる……。50歳からは、アレとコレとを組み合わせ、使う楽しみが出てくる……。

雅姫さんの中には、これからのお楽しみの種がいっぱい詰まっていました。

家具や雑貨を揃えてインテリアを楽しむこと。花を飾ること。好きな器に料理をきれいに盛り付けること。洋服のコーディネートを考えること。20代から30代、そして40代と、日々の営みの中で、少しずつストックしてきたセンスの光る暮らし方が、これからどう成熟し、どんな雅姫さんらしさとして輝き出すのか……。これから先も、そんな美しい歳の重ね方を見せていただくのが楽しみです。

 

(おわり)

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雅姫(モデル・デザイナー)

モデル(ESPRIT所属)、キッズ&レディースの服「ハグ オー ワー」、暮らしを彩る生活雑貨の店「クロス&クロス」のデザイナー。夫と娘、愛犬3匹(トイプードル“もぐら”&“ピカソ”とラブラドールのヴォルス)と暮らす。着用セーター:コットン柄編みボートネックセーター/ハグ オー ワーで販売 http://www.hugowar.com

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ライター 一田憲子

編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ブログ「おへそのすきま」http://kurashi-to-oshare.jp/oheso/


▽雅姫さんの著書はこちら。


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