電車を待っているときや眠る前など、日常のなんでもない瞬間に、何年も前の些細なもやもやを、不意に思い出すことがある。わざわざ、「じつはあのとき悲しかったんです」と口にするほどでもない、とるにたりないこと。なのに、なんだか忘れられないできごと。やるせない感情。わだかまりというほどでもない心のしこり。つくづく、日々は喜怒哀楽より、言葉にできない感情のほうが多いなあと思う。この連載では、そんな名指せない感情について、文筆家の大平一枝さんがさまざまな方とお話をしていきます。