【週末エッセイ|つまずきデイズ】小学校の卒業式。いまも忘れられないママ友からの贈り物。
文筆家 大平一枝
第十話(最終回):礼儀と礼節はありすぎるほどあっていい
約束のしかたで気づく自分の無礼
友達に「会いたい」と告げる。いいよ、会おうよと返事がくる。「じゃ、この日とこの日以外でどの日がいい?」と言う。そういう行為は、相手にとって失礼なんだなと遅まきながら最近気づいた。
長くフリーライターをしていると、自分のスケジュールを最優先する習慣がしみつく。自分にとって大事には違いはないが、それを人に押し付けるのは礼儀に欠ける。
誰にも予定があるから、すべてを合わせることはできない。だが、自分の予定を先に言うのではなく、「どの日がいい?」と相手に尋ねる方が失礼がない。
大人の社会では、そうそう注意や忠言はしあわないものだ。自分を俯瞰し、自分で気づくしかない。自然体というのは、ともすると傍若無人と隣り合わせだ。それが許される年齢を、私はとうに過ぎている。
マナー教室に通おうかと真剣に考える今日このごろなのである。
御礼の伝え方
取材で本を贈ったらていねいなお礼の葉書が届いた。メール一本ですむこういう時代だからこそ、自筆のはがき一枚が心に響く。私は紙についての本を書いているが、なかなかそのはがき一枚が難しい。
御礼で忘れられない思い出がある。子どもの小学校の卒業式の当日、自分のスーツにつけるコサージュがないことに気づいた。そういう小物を持っていそうな近所のママ友に「もし使わないものがあったら一つ貸してくれない」とメールをした。
「ああ、持ってないのよ、残念ごめんね」という返信がすぐ来た。行き当たりばったりの自分の不手際はいつものことなので、私は気にもとめずコサージュ無しで学校に向かった。
と、くだんのママ友がにこにこしながら手のひらを差し出す。「簡単だけど。よかったら使って」。え!と息を呑んだ。
端切れを寄せ縫いしたかわいらしい花に安全ピンが刺さっている。門出の服装に華を添える素敵なコサージュだった。ついさっき、作ってくれたのだ。朝の忙しさはどの家も同じ。だからよけいに、胸が一杯になった。保育園から一緒だった彼女の息子と我が子は、卒業後、バラバラの中学校に進む。もうそれほど会うことはないだろうと互いにわかっていた。「お世話になった御礼だから。こんなことくらいしかできないけど。返さなくていいよ」と彼女は笑った。
以来、やはり会う機会は殆どなく九年が過ぎてしまった。互いに越したりして消息も風の便りに聞くのみである。だが、あの心のこもった御礼の品は今も忘れられない。私が逆の立場なら、絶対できない贈り物。金額の大小やブランドではない。今までありがとうという気持がめいっぱいつまっていた。こういう礼のつくし方もあるのだと学んだ。
全十回に渡っておおくりしてきた『つまずきデイズ』はひとまず終わる。私自身、書きながら気づき、学ばせてもらった。見切り発車&まるごし人生のため、つまずく前に気づくことなどほんのわずか。やっちゃったな、の連続である。次回から、更にバージョンアップして、やっちゃった先に見つけたささやかなものを描いていきたいと思う。ご愛読ありがとうございました。
【今週の1枚】
お礼状には相手のイメージに合う切手を選ぶ。目下のお気に入りは『和の文様シリーズ』です。
作家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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