【スタッフコラム】忘れられない人。
編集スタッフ 寿山
「この人に会えて、本当によかった」
そう心から思える出会いは、一体どれだけあるのでしょう。
先日、私が二十歳の頃から親しくしていたご夫妻の、ご主人が他界されました。
享年93歳。ご自宅で家族に看取られながらの最期は、悲しいというより、避けられない別れのひとつ。
そうは言っても、なかなか寂しさは拭いきれないもの。このところ、ふとした瞬間、その方の言葉が心に湧いてきます。思い返すと、大切なことを幾つも教わりました。
一服のお茶で、人をもてなす。
出会いは二十歳で通いはじめた茶道教室。その方は、茶道の先生のご主人でした。
教室が終わった後、ご主人がいつも淹れてくれた1杯の珈琲の味に、人をもてなすことの真意を教わった気がしています。
紅茶党の母を持つ私は、恥ずかしいことに成人しても珈琲が飲めずにいました。
ご主人がカップを温め、豆を挽き、湯の量を計って、「おいしくなあれ」とまじないでも唱えるようにドリップしてくれた1杯で、その美味しさを知ったのです。
いつ訪ねても、ご主人はとびきり美味しい珈琲を淹れてくれました(よく冷えたガラス瓶から注がれた、コップ1杯の水でさえ妙に美味しく感じたから不思議です)。
一服のお茶に、こんなにも力をもらった経験は、後にも先にもないかもしれません。
きっと訪ねてくれた人への感謝を胸に、心を尽くして淹れてくれていたのでしょう。
そのことに気付いてからは、私も来客があるときは、その方に受けたもてなしを思い起こしながら、お茶を淹れています。
自然を愛し、日々を慈しむ暮らし
ときには、教室が始まる時間より早くに到着してしまうこともありました。そんなときは決まって書斎へと通されて、
「ジャズがいい? クラシックがいい?」
と、ご主人に美しい音楽を聴かせもらいました(大きなスピーカーから流れる大音量の名曲は、コンサートさながらでした)。
音楽を楽しむときは、いつも同じ椅子に腰掛けて、窓ごしに庭を見つめていたご主人。大きな窓から自然を慈しむその姿は、忘れたくない景色のひとつです。
今ある「生」に感謝。毎日を大切に過ごす
ご主人は大正生まれで、戦時中は特攻隊員として徴兵された経験のある方です。
戦地に飛び立つ前日に終戦を迎え、帰国。「妻が待っていたから、帰ってこれたのかもしれない」と、戦争前後の話をしてくれたことがありました。
一度は終わりを覚悟した人生だからこそ、毎日を大切に生きていらっしゃたように思います。
週末ごとに3世代の家族で食卓を囲み、ワインと共に息子さんが腕をふるった夕食を楽しむ。私もその輪に入り、あたたかい食事をご馳走してもらうこともありました。
食後は庭に出て、見頃の花や庭木の様子を楽しそうに解説してくれることも。その話に耳を傾け、穏やかな夜に身を委ねるひとときは、とても幸せなものでした。
帰り際には、必ず握手を交わすのがその方の習わし。その力いっぱいの握手や、手の温もりも、心に刻んでおこうと思います。
私は物心ついたときには、母方の祖父も、父方の祖父もすでに他界していました。そのせいか “祖父” という存在に、長い間あこがれを抱いていたように思います。
今思うと、彼は私の中では紛れもなく “祖父” だったのでしょう。生前はおこがましく、そんな事は口にできず、少し後悔しています。
だから、いつか娘がもっと成長したら、枕元でこの物語を話してあげよう。
「あなたには、素敵なひいお祖父さまがいたのよ」と……。
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