【44歳のじゆう帖】メイクカウンターは、デパ地下のチーズ売り場と同じ?
大人の女性がふと持ってしまう罪悪感や疑問について。ビューティライターのAYANAさんが綴る、新しいエッセイが今日からスタートします。
ビューティライターAYANA
メイクカウンターは、デパ地下のチーズ売り場と似てる?
「メイクカウンターに行くのが怖い」という話をよく聞きます。どう振る舞えばいいのかわからない、何かをすすめられたときに断る自信がない、美容に詳しくないから突っ込まれるのが怖い……。
これまで私はそんな風に考えたことがなく、すごく楽しい場所なのにもったいないなぁと思っていました。でも、私にも似たような経験があったなと最近気づいたのです。
私は20代の頃、デパ地下などの食品売り場が苦手でした。食に対して関心が薄かったので、あまりの物量に圧倒されながらも、その違いについてはさっぱりで、どのコーナーも同じに見えるし、何を見ればいいのかわからない。パッと買ってさっと帰ってしまいたいのに、自分が何を欲しいと思っているのかすらわからないトランス状態になってしまう。
いつもちょっと居心地の悪い気持ちでそこに立っていました。
今は食品売り場、昔より好きです。なぜかというと、実家を出て料理したり、おいしいお店で食事したりするうちに、食に多少なりとも興味を持ったからなんですよね。
たとえばチーズ売り場。若い頃は膨大な種類のチーズを前に、何をどうしたらいいのか全然わかりませんでしたが、「ブルーチーズっておいしいな」とか「ブラータチーズとオリーブオイルの組み合わせは最高」とか知っていくうち、なんか糸口が見える。
お店の人に「ブルーチーズのこういうサラダがとても好きなんですけど、おすすめありますか?」と聞ける。そこから会話がはじまっていったりして、もっと面白くなる。
ならば、メイクカウンターも同じでは?なんて思ったんです。どんな人でもちょっと興味を持つだけで、世界を広げることができる場所なのでは、と。
ライトな「駆け込み寺」ととらえてみる
実は私、過去に美容部員をしていたことがあります。美容部員もひとりの人間。お客さんと話がはずめばうれしいし、お客さんのお悩みを解決できればなおうれしい。そう思っています、本当に。
知りたいのは「この人はどうしてほしいんだろう?」ということであって、この人美容に詳しいのかなとか、意識高いのかなとか、そんなことはまったく問題にしていません。
カウンターに行くときに必要なのは、自分のニーズを持参すること、これのみだと思うんです。ニーズというとマーケティング用語みたいで難しいけど、こんなことに困ってるとか、こういうことがしたい、っていう、すごく無邪気な気持ちです。
「最近肌が乾燥してて困ってる」「似合う赤リップを探してるんだけど…」「シミをカバーしたい」みたいに具体的なことから、「あの女優さんみたいな雰囲気になりたい」「今ってどんなメイクが流行ってるんですか?」みたいに抽象的なものまで、すべてがひとしく立派なニーズだと思います。
論理的じゃなくてもいい、あいまいだっていい。
美容の概念を「たたずまい」まで広げてみるのもあり。こんな洋服が好きだなとか、この人の生き方素敵だなとか、そういう「こだわりの好き」を改めて大切にしてみると、自分がどうしたいのかが少しずつ明らかになったりもします。その明らかにする作業を、カウンターでしてみるのも楽しいかも。
化粧品だってチーズだって「もっと好きなもの」に出合いたいから
カウンターの向こうにはプロがいます。あなたのふんわりしたニーズを汲み取り、なにか具体的な形で返してくれる。
たとえば、カウンターでおすすめされたものが素敵で「そうそう、確かにこれは私が好きなものだな」って納得すること。これはじゅうぶんうれしい。でもさらに「え、こんな面白いものがあるの?」みたいな、予想外のものとの出合いもきっとあって。それはカウンターに行かなければ出合えなかったものかもしれないんですよねぇ。
何かをジャッジされるような場所じゃない。カウンターは、会話を楽しんで、自分がときめくものに出会う場所です。
ちょっと勇気を出して扉を開け、ひとつを知ってしまうともっともっと知りたくなるもの。それは化粧品だってチーズだって、まったくおんなじだよなぁと、改めて考えてしまいました。
【写真】本多康司
AYANA
ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang http://www.ayana.tokyo/
▼AYANAさんがスタッフの悩み相談にこたえる「メイク迷子のための往復書簡」バックナンバー
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