【44歳のじゆう帖】「ルーティン」が苦手だった私

ビューティライターAYANA

ルーティンという言葉が持つイメージ

昔、実家から電車を3本乗り継ぎ、2時間かけて大学へ行っていたのですが、同じクラスに最寄駅がまったく同じ友人がいました(家の所在地もかなり近かった)。

彼女と話していて衝撃だったのが、「電車は基本的に同じ時間・車両・位置に乗って通学している」という発言。2時間かかるその時間を、毎日まったく同じポジションで過ごしているというのです。

家を出る時間もバラバラで、昨日乗った場所なんて記憶にない。そんな私には到底実現不可能で、素直に尊敬したのを覚えています。

また、20代の頃、バンドをやりながら公務員として働いていた友人が「毎日同じ道を通って会社に行くのを繰り返していると、人生がとても味気ないものに感じる。一生このままなのかと思うと絶望的で怖くなる」と言っていました(その後仕事をやめていましたが)。

私は毎日同じ道を通っていても昨日と同じ景色には見えないし、絶望を感じたこともなく、そんな考え方もあるんだ、と驚きました。

つまり私は「同じことの繰り返し」というものに対して興味のない性格なのだな、と思うに至ったのです。要するに面倒くさがりで、忘れっぽいのです。

同じ時間に同じことをするとか、常に同じことを繰り返すようなことができない。なんとなくはしょったり、後回しにしたり、違うテンションであたってしまう。だから毎日が違う景色に見えるのだし、ルーティンという言葉に対しても、私にはあまり関係のないものだな、と考えて生きてきました。

つらいときに支えてくれるのは「習慣」

私は2度離婚しています。どんなケースの離婚であれ、精神をズタズタにするものだというのは間違いないと思うのですが、2度目は1度目の100倍は辛いものでした。些末な人生のなかで、つらい経験圧倒的1位と言っていいと思います。

その理由は大きな不条理を感じていたことと、当時3歳の息子の存在にありました。

1度目は独り身でした。あれはあれで大変でしたが、自分の気持ちのことだけ考えていればそれでよかった。2度目はそうはいきません。自分自身が傷ついてこんなに辛いのに、そのケアはもっとも後回しにせねばならず、すべての物事を自分の采配で決めていかなければならない重圧のようなものに苦しんでいました。

何度も何度もネガティブな感情に飲み込まれそうになり、というより余裕で飲み込まれていたと思うのですが、それでも私をなんとか日常生活にとどめてくれていたものが、寄り添ってくれた友人たちの存在と、日々のルーティン、習慣でした。

時間が来たら、息子を起こして朝食を食べさせ、保育園に送っていく。どんなに仕事が終わらなくても息子を迎えに行って、夕食を食べ、お風呂に入れて寝かしつける。

精神がどんな状態であっても、時間がきたらやらなければならない。そういった日々のルーティンが、ぎりぎり、私を生かしてくれていました。

考えることを中断したり、考え続けながらも手を動かしたり、そうしたスイッチのようなものがあることで、少しずつ少しずつ時間を重ねていくことができたのです。

ルーティンって、自分に手間をかけること

失恋でも死別でも、あまりに辛いことがあったときの人の精神状態というのは、ある日突然パッと吹っ切れるわけではなく、薄い紙を一枚一枚重ねて山を作っていくように、巨大な氷を常温で溶かしていくように、快方へは途方もない時間をかけて少しずつ少しずつしか向かえないものだと思っています。

そんなときにルーティンがあると、とても心の支えになるのだと知りました。小さなリセット。小さなタスク。TO DOリストにひとつチェックを入れるような、ささやかな達成感。

相変わらず、ルーティンというものにあまり関心がない性格ではあるのですが、ルーティンって自分にはなんだか面倒かもしれない、という意識から、ルーティンってありがたいものなんだな、という意識に変わったことは事実です。お守りのような、羅針盤のような、ジンクスのようなもの、と言ったらいいでしょうか。

ルーティンとはすなわち、自分自身や自分が置かれている環境に手間をかけることなんだな、と今ならわかります。

毎回毎回、全身全霊を込めて手間をかけるっていうのは大変だけど、習慣化してあげることで、脳のリソースを必要以上に割かなくても、一定のクオリティでできてしまう部分があるというか。

面倒くさがりで忘れっぽい自分を否定せず、今ある毎日の小さなルーティンを無理なく大切に愛おしく思いながら、生きていけたらいいなと思います。そしていつかは、人に誇れるような自分だけのかっこいいルーティンも持ってみたいなぁ、なんて。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

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