【44歳のじゆう帖】ギフトという名のカルマについて

ビューティライターAYANA

ギフトを贈るときに身構えていた私

ギフトをスマートに贈れる人に多大なる憧れがあります。

誕生日にさりげなくお花を用意してくれる人。どこかに行ったときのお土産を渡してくれる人。節目のご挨拶を欠かさない人。取材先にちょっとした手土産を持参する人。なんてあざやか!と感嘆してしまいます。そこに一筆添えられていたりすると、もう拝んでしまうほどに敬意が溢れてしまいます。

私はずっと、ギフトを贈ることに苦手意識がありました。その理由は幼少時代に思い当たります。

私の誕生日は3月末の、終業式モロ被りになることが多い学期末で、小さい頃は友人に誕生日プレゼントをあげても忘れられてしまい、もらえないことが結構ありました。親も私の誕生日にケーキやプレゼントを用意するタイプではなく、それが子どもながらにすごく嫌でした。

「今年はもらえるかな?」とうっすら期待して、それが叶えられず失望することに耐えられませんでした。そして、そこに不公平を感じてしまう自分が何よりも嫌でした。

あるときから「私は人に誕生日プレゼントをあげるのはやめよう。そうすれば、お返しをもらえるかもっていう期待をする必要もないから」と思うようになりました。だから、プレゼントをあげたりもらったりする機会を放棄して大人になったようなところがあります。

社会人になると、ギフトを選んだり渡したりすること自体の楽しさに目覚め、また友人にギフトを選ぶのは誕生日一辺倒だった子ども時代とは異なり、何かとギフトを贈る機会も増えていきました。

そこから「ギフトをあげるのはやめよう」という意識はなくなったのですが、ギフトを贈ることについて、まだまだどこか構えてしまう自分がいました。

自分を縛っていたのは、相手への期待

ギフトを選ぶのはとても好きです。あの人に喜んでもらえるものはなんだろう?と考えるのはわくわくするし、そういった相談に乗るのも好き。

スパイク・ジョーンズの映画『her』に「ラブレターを代筆する仕事」が出てくるのですが、いつかそれをやってみたくて、その際はギフトを選ぶメニューもオプションにつけたいと思っているほど。

それなのに、贈るのはずっと苦手でした。スマートに渡すことができず、あたふたしたり、フライングしたり。早く喜ぶ顔が見たいから、と言えば聞こえはいいですが、気に入ってもらえるかな?と反応が気になってしまうんですね。

「私の選んだものがその人にとって有益であってほしい」という欲があったからだと思います。

そんな私の気持ちを楽にしてくれたのが、30代のときに出合った『自己を知るヨーガ スワミ・サッチダーナンダ講話録』という本です。ここには人生における重要なことがいくつも記されているのですが、そのなかに私のギフトへの思いを見事に記した一節がありました。

「何かを与えるとき、もしあなたが少しでも利己的な期待を持っていれば、それはあとでかならず、あなたの心の平安を乱すだろう。努力の見返りとしてあなたが何かを期待するときはいつでも、それはカルマとなる」(『自己を知るヨーガ スワミ・サッチダーナンダ講話録』、スワミサッチダーナンダ著、P.252)

要約すると、こういうことです。

与えることそれじたいが幸福なことである。それを理解すれば相手の反応を気にする必要はない。しかし、お返しに何か──感嘆や感謝──を期待することでその幸福は妨げられてしまう。期待する反応がもらえるまでは緊張し、それがもらえないと不安になる。もらえたとしても、今度はそれが長続きしないことを恐れ、翌日にはさらにもっと欲しくなる。自分の心を乱すのは自分だけなのである。

ガツンと頭を殴られたような衝撃がありました。小さいとき求めていたお返しのプレゼントのように、感謝の気持ちを表明してもらうことを期待していたから、こんなに緊張してしまうんだと。

好きな人のために、その人を思ってギフトを選び、贈ることそのものが幸福であるということが、そのときはじめてわかったのでした。

ギフトを贈るのは、自分のため

それ以来、私はなるべくギフトを贈る機会を持ちたいなと思うようになりました。同時に、相手にとって贈ったものがどんな意味を持つのかについては、深く考えないようになりました。

すると、本当に気持ちが楽に、豊かになったのです。「与えたぶんだけもらうことができる」とはこういうことか、としみじみしてしまいます。

ギフトをスマートに贈ることのできる人までの道のりはまだまだ長いけれど、鍛錬していきたいです。

他者のためになることを考えていれば、心は平穏で常に幸せなのだという真理を、私はもう知っているから。何も心配することはないんだ、心置きなく相手のことを思ってギフトを選び、そしてさっぱりと贈ろう、と今は思えるのです。

ところで、私の人生は間違いなく年々良くなっている実感があります。辛いことや大変なことは年々減って、嬉しいことや感動することが年々増えている。ギフトの話ひとつとっても、お返しを期待して何ももらえない幼少時代より、ギフトをワクワクして選べる大人の今のほうが一億倍くらい幸せです。

希望や可能性やチャンスを受け取ることが実に多いのです。この状態はだれか、神様(のような存在)からの贈り物に違いない、と感じて仕方がありません。与えたぶんだけもらうことができる、というのは、もらったぶんだけ与えなければならない、ということだとも思っています。

私はこの恩恵をどのように返していくべきなのか、そんなことも考えてしまう今日このごろです。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

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