【44歳のじゆう帖】自尊心について、息子に思うこと
ビューティライターAYANA
「僕は天才じゃない」
私は親にあまり褒められなかったので(昭和とはそういう時代でした)、息子のことはおおいに褒めたいと思っています。大げさに褒めるというよりは、あなたはすごい存在なんだよ、というムードをすべてのベースに置くというのでしょうか。
だから息子によく「あなたは天才だね!」と言います。できなかったことができるようになったとき、ふとした優しさを見せたとき、簡単なお手伝いをしてくれたとき、面白いことを言ったとき。
「天才だね!」という言葉には、あなたはオンリーワンな才能を持っていて素敵だね、私はあなたのことが大好きだよ!というニュアンスが凝縮されているような気がしています。
少し前までの息子は、天才だと言われると「そうかなぁ、えへへ」みたいなリアクションだったのですが、5歳になったあたりから「僕は天才じゃない」と反発してくるようになりました。
「僕より同じクラスの○○くんや○○くんのほうが天才だ」と言うのです。
できない自分を直視するのは怖いこと
息子は「できない」ということをとても怖がります。たとえば、字や絵を書くのがとても苦手。保育園で絵を描く時間、みんなが描いていても絶対に描こうとしません。廊下に張り出されたクラスの子たちの思い思いの絵の中に、息子のものだけ、いつもありません。
どうして描かないの?と訊くと「描けないから、描きたくない。描けないところを友達に見られたくない」と言います。私自身は「みんなと違うのは怖い、はみ出したくない」と考える子どもだったため、クラスで独りだけ頑なに絵を描かない息子の姿勢はむしろ尊敬に値する部分もあるのですが。
思ったものと違うものしか作れないときや、ゲームで負けてしまったとき、彼はこの世の終わりか?というくらい激しく泣きます。そして「どうせ僕はダメなんだ」みたいなモードになってしまいます。
「人よりも自分が劣っている」ひいては「自分が自分の理想像より劣っている」という現実が許せないのだと思います。
彼は塗り絵が上手で、先日色彩バランスが見事な作品を保育園から持ち帰ってきました。それを見て「この色とこの色を組み合わせて、こんなに綺麗な色が作れるなんて!塗り方も凝っているし、天才だね!」と言ったところ、「この部分が少しはみ出てうまく塗れていないし、この色も気に入ってないし、こんなの全然上手じゃない。僕は天才じゃない」とふてくされてしまいました。
成長できる可能性を、どうか大切に
私はそこで、少し怒ってしまいました。「あなたが自分のことをどう思おうと勝手だけど、せっかく褒めてくれた人に対して否定で返すのは失礼だよ」と。「その人の好意を否定するということは、その人の感覚をけなしているということなんだよ。そんなのは傷つくでしょう?ありがとうと受け取るのが、言ってくれた人への礼儀だよ」と。
少し難しいかな?と思ったのですが、息子なりに思うところがあったようで、その後褒めたときには「ありがとう」と言ってくれるようになりました(比較的)。
理想に追いついていない自分を認識したり、他者と自分を比較して優劣を検証するのは、成長の証だと思います。誰だって、できなかったり、負けたりするのは嫌です。いやいや私なんて何の取り柄もないですよ、と謙遜するのは、自分が傷つかないように自分を守っているから。よくわかります。私もそうだったから。
でも、どうせ私はこうだからの国にいると、成長の機会はどんどん失われるということも知っているのです。できないまま一生を終えるより、0から1の地点へ進む(周りは100だとしても)ことに大きな価値と成長への鍵が隠されています。
いえいえ私は天才じゃありませんと謙遜するのではなく、自分は天才だからなんとかなると自惚れるのでもなく、周りからの信頼を糧に小さな一歩を踏み出す勇気を持てたら素敵な未来が待っているよ、と息子に伝え続けたいです。
なんて、これは息子に対して言っているようで、過去の、今の、未来の自分に言っているのかもしれませんが。
【写真】本多康司
AYANA
ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang http://www.ayana.tokyo/
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