【57577の宝箱】きみだけが話せる言葉を話すとき きみはひとつの楽器となって

文筆家 土門蘭


友達のKさんから、ある日こんなお誘いがあった。

「一緒にインスタライブやらない?」

インスタライブとは、SNSアプリのInstagramを使って動画配信をすることである。アカウントさえあれば、誰でも配信できるし視聴できる。でもわたしは、自分が配信するなど考えたこともなかった。ああいうのは芸能人や有名人など、フォロワーの多い人がファンサービスの一環としてやるものだと思っていて、自分が趣味としてやっていいものだとは思ったことがなかった。

彼女もずっとそんなふうに思っていたらしいのだけど、
「おもしろそうだなと思ったことは、失敗してもかっこ悪くてもいいからやってみたらいいんじゃないかなってふと思って」
と言っていた。誰に見られるとかフォロワー数がどうとか関係なく、気の合う友達と「これからどうやって生きていこう?」ということをカジュアルな雑談形式で配信していきたい。そう考えて、わたしを誘ってくれたのだという。

そんな彼女の心境の変化がすごくいいなと思い、インスタライブ初心者にも関わらず即快諾した。わたしも、おもしろそうだなと思ったことはやってみる。そんなふうでありたいなと思って。

Kさんは、もうふたり誘いたい人がいるのだと言った。彼らは夫婦で、旦那さんは珈琲屋さんを営み、奥さんは助産師をされているらしい。わたしは彼らを知らなかったが、もちろん快諾した。
そんなわけで、ヨガのインストラクターである友達Kさん、珈琲屋を営むUさん、助産師のNさん、そして執筆業を営むわたしという、てんでバラバラな職業を持つ4人で、月に一度インスタライブをやることになった。この間、その3度目を終えたところだ。

§

インスタライブを始めて思ったのは、話し言葉は書き言葉とはずいぶん違うな、ということだった。

中でも大きな違いは、調べたり熟考する時間がないこと、消して直すことができないことだ。反射的に出る言葉は、自分が普段考え感じていることだけ。だから、等身大の自分が透けて見える。「話す」って結構シビアな行為なんだなぁと、トークライブを始めてから痛感するようになった。

だからと言って、黙っていてはおもしろくない。こんなことを言って呆れられないか……そんな気持ちがよぎることもあるが、等身大の自分のまま、思い切って差し出していくしかない。すると、相手もありのままの自分を差し出してくれる。それが、とてもおもしろい。

誘ってくれたKさんは「失敗してもかっこ悪くてもいいから」と言っていたけれど、なるほどこういうことか、と思った。お互いに、自分と相手をすっかり受け入れること。素敵なところもかっこ悪いところも、個性として楽しむこと。
それが「いろんな話ができる」場を作ることの条件なのだろう。この4人で話すのが楽しいのは、その条件が満たされているからかもしれない。

§

この間のトークテーマは「嫉妬と尊敬」だった。
台本や構成などもちろんないので、思い思いに発言する。よく嫉妬や尊敬をするという人もいれば、したことがないという人もいて、本当に人それぞれだった。

そのうちに、わたしの「自信」の話になった。嫉妬深く、常に今に満足できず、「もっとがんばらないと」という思いに駆り立てられるわたしは、きっと自分に自信がないのだろうと。

そんな話をすると、助産師のNさんがこう言った。
「でも、蘭さんはこれまでずっとがんばってきたんでしょう?そのがんばりは自信にならずに、なかったことになっちゃうの?」
それに対しわたしが、
「多分『がんばった』という過去がどんどんなくなっていっちゃうんですよ」
と答える。
「『がんばった』が溜まる大きな甕があるとしたら、その甕のどこかに穴が空いていて、『がんばった』が抜けていっちゃうんです。だから自信がなくて、もっとがんばらなきゃっていつも思っているのかも」

そうしたら珈琲屋さんのUさんが、
「もしかして穴が空いてるんじゃなくて、蒸発しているんじゃないですか」
と言ったので驚いた。
「えっ、蒸発?」
「そう。甕を置く場所が不適切なのかも。日光が当たるところに置いてあるから、中身が蒸発しているんですよ」
Nさんがおもしろがって言う。
「もしかしたら、甕の中身を誰かに盗られていっているのかもしれないよね。置く場所を変えたらいいんじゃない?」

そんなこと考えたこともなかったので、目から鱗だった。甕の置く場所かぁ……と思っていると、Kさんが「いや、甕の存在自体ないんじゃないかな」と言いだして、またも「えっ」と驚いた。
「自信って溜めるんじゃなくて湧いてくるものなんじゃない?内側から。だから、甕なんて本当は必要ないんじゃないかな」
それを聞いてわたしたちは、「なるほどなぁ」と唸る。

4人の会話は、いつもこんな感じだ。どこに転がっていくかわからない。どこに転がっていったって間違いじゃないし、そこで生まれる新たな答えとの出会いがおもしろい。
「試しに甕を打ち壊してみようかな」
そう言うと、三人が笑った。どうやって穴を塞ぐか、そればかり考えていた甕について、打ち壊すなんて思ってみなかったことだ。気持ちが楽になって、わたしも笑った。

友人たちとの会話は、わたしの凝り固まった世界をどんどん広げていってくれる。自分の考えを話すことは勇気がいることだけど、こんなにもおもしろい。

きっと「おもしろい」世界は、「かっこ悪いかもしれない」の柵を飛び越えた先にあるのだろう。来月は、どんなことを話そうか。

 

“ きみだけが話せる言葉を話すとききみはひとつの楽器となって ”

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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