【いつからだってリスタート】西田尚美さん、市川実和子さん「若気の至り、どう乗り越えた?」
ライター 長谷川賢人
「若気の至り、爆発しすぎでしょ」
「至って至って、今の私たちじゃん」
2021年6月18日(金)に全国劇場公開を迎える、劇場版『青葉家のテーブル』のワンフレーズです。予告編でも照らされたこの言葉は、青葉家の母・春子と、劇場版から登場する春子の親友・国枝知世が、互いに顔を火照らせながら交わしています。
なぜ、あんなことができたのだろう。なぜ、こんなこともできなかったのだろう……いくつもの「なぜ」に包まれたそれらと、どこかで折り合いがつけられたとき、人は少しだけまた大人になっていく。
そんな誰の胸にも残る“若気の至り”は、劇場版でもキーワードの一つとなっています。
春子役の西田尚美さん、そして知世役の市川実和子さんは、時を同じく雑誌モデルとしての共演もある旧知の仲。でも、映像作品で言葉を交わしたのは『青葉家のテーブル』が初めてだったといいます。
そんなおふたりに、市川実和子さんと(ほぼ)同年代の店長佐藤が、劇場版を演じ終えての感想を含めつつ、作中と同じくご自身にも“若気の至り”があったのか、聞いてみました。
役柄だけじゃない、ふたりの関係性がにじみだしてきた
佐藤:
「劇場版の春子は、ふとした表情などから、どこか少女っぽさを感じられて新鮮でした。作中にも出てくる“若気の至り”を話すシーンがあるからとは思ったのですが、演じるときにも意識されたのでしょうか?」
西田尚美(春子・以下西田):
「意識はしていないですけれど、そう見えたのだとしたら、相手が長く知っている実和子ちゃんだったから。自然に、昔へ戻れてしまったんでしょうね」
市川実和子(知世・以下市川:)
「知世はお母さんの一面もあって、仕事をしているときの自分もあって、いろんな表情を見せるけれど、本当の中身は何年経っても変われていない人。だから春子に会うと、昔へ顔が戻ってしまうのは、自然な成り行きだったのかも。私にとっても、その相手が尚美ちゃんだったのは、すごく幸運なことだったと思います」
佐藤:
「ふたりの歴史や関係性も、映像の中に滲み出ているといえそうです」
西田:
「それは確実にあったはずです。実和子ちゃんが配役だと聞いて、納得するところもありました。でも、それこそ脚本と同じく、本人同士はずっと会えていなかったから、久しぶりの再会シーンだけに新鮮に映ったのかもしれません」
市川:
「尚美ちゃんでなければ、これほどの自然な感じは出なかったでしょうね。モデルとして1990年代の空気を一緒に味わった同志という気持ちがあるし、演じられるのがうれしいなぁ、と思いながら現場に入りました」
“点の経験”が、いまに繋がっていたんだと感じられた
佐藤:
「自然な感じといえば、知世が、栗林藍希さんが演じる娘の優子を見つめるシーンも印象的でした。そのときの表情が女神様みたいな穏やかさで……ああいった表情は、どうやって生まれてくるのか興味津々になりました」
市川:
「えー、うれしい。でも、私の心にはこんな娘がいたら可愛いなぁ、と感じるばかりで、考えて表情を作っているわけではないですよ(笑)。つくづく思うのが、私はそれほど役作りできるタイプではなくて、自分そのままで臨んでしまう。
知世に関しては、幸いなことに料理研究家が知り合いに多かったこともあって、違和感なく、のびのび演じさせていただきました。
そんなふうに、好きな本とか、料理にまつわることとか、その場ごとに楽しんできた“点の経験”が、遠くにあるように見えて、実はつながっていたんだと感じられたのも面白かったですね。点の経験って、『こんなことをして何になるんだろう?』という気持ちも心に湧くものだけれど、そういうことこそやっておくべきなんだろうなって思いました」
佐藤:
「楽しみながら自然と演じてくださったことは、私たちとしても願ったり叶ったりです」
市川:
「それこそ衣装合わせのときから、すごく安心したんです。衣装のイメージやロケ場所の話もすぐに通じて、スタッフの方たちと観てきた共通点も多かったですし。あぁ、ここは美しいものを作れる現場なんだなって。
同じものを作るのに同じ金額をかけるのなら、私は美しい方を選びたいです。『青葉家のテーブル』の現場は、みんなでその方へ向かっている感じがしました。私にとっては、すごく息がしやすいところだなぁ、って」
『なりたい自分さえわからない』という経験
佐藤:
「劇場版では春子と知世が“若気の至り”を語るシーンが象徴的です。演じられるおふたりにも、そんな若気の至りって、あったんでしょうか」
市川:
「今でも若気の至りだけどなぁ……」
西田:
「いやいや若くないから(笑)」
市川:
「じゃあ、至りだけか(笑)」
佐藤:
「たとえば、若い時に熱中していたことは?」
西田:
「私は広島から東京に憧れて上京して、とりあえず原宿へ行くような若者で。ガイドブックを読んだりしながら、一生懸命に明治通りのカフェがどうとか話していた……楽しかったですね。どんな音楽を聴いて、どこのクラブで遊ぶかを考えながら、宿題に追われていたのが青春でした。
劇場版でも、春子の息子のリクたちがカルチャーに触れるシーンがありますけれど、ちょうど似たような時期かな。たしかに自分にも若い頃があって、でも戻りたいとは思わないような時期(笑)」
佐藤:
「優子が『なりたい自分さえわからない』と春子へ打ち明けるシーンがありますよね。当時の西田さんは、上京したときからやりたいことは明確でしたか?」
西田:
「全然! 東京に出る手段として服飾専門学校を選んだし、それを仕事にするまでのことは当時はわからなかったのが本音です。でも、就職しないと田舎に帰らないといけないから、なんとか進路を決めようと就職活動もしたし……」
市川:
「就活したの?!」
西田:
「したよ! 内定だってもらっていたもん。結局は役者の世界に入ってしまったけれど」
焦る気持ちが「尖り」に変わっていった
佐藤:
「市川さんがモデルとして仕事を始めたのは、15歳のときでしたよね」
市川:
「高校1年生で、実家の近所を歩いていたらスカウトされて。年代でいうと、いわゆる就職氷河期です」
佐藤:
「私も同年代なんです! 高校生の頃から市川さんは雑誌でも活躍していて、同時代を全く違う人生で歩んでいる素敵な人として見てきたから、今日この距離でお話していることも驚きで……スカウト始まりとはいえ、モデルは志していた仕事でしたか?」
市川:
「いいえ! 私はピアノも弾けない、踊れない、特技と呼べるものがないような、とりえのない人間だと思っていて。母からも『モデルはいつまで続くかわからない仕事なんだから』と釘を差され、世の中は『ノストラダムスの大予言』で暗い感じだし(笑)、早くモデルを辞めて次のことを探さなければいけない、と考えているモードでした。
むしろ、そういうふうに考えていることを、心のどこかで少しかっこいいとさえ思っていたのは、若気の至りかもしれないですね。でも、それくらい不安だったし、不安だからこそ強く前に出ようとしていたんだと思います。
昨日、あるカメラマンさんと20年ぶりくらいに仕事したら、『昔は尖ってたよねぇ』と」
佐藤:
「それって、どういう尖り方なんですか?」
市川:
「周りが大人ばかりで、自分の仕事がいつなくなるかわからないから、ふてくされている不良みたいな感じ。人見知りだし、現場の隅っこでずっと本を読んでいる人と思われていたみたい。自分では、あまり覚えていないんですけどね」
佐藤:
「おふたりは、若気の至りも経て、これまでの自分を肯定できたと思える瞬間って、あったんでしょうか?」
西田:
「いやー……わからない、なぁ……」
市川:
「わからないって、そのまんまで言うところが、尚美ちゃんの良さだなぁ」
西田:
「えぇー? どういうこと?」
市川:
「さらさらと流れていくようというか。無理に決めたりしない感じで。でも、若い時からの道が今もちゃんと続いていて、変に気負ったりもしない。喋り方も、存在も、ほんとうに変わらないまま。今となっては稀有な存在なんだよねぇ」
西田:
「たしかに変わらない……それは、自分から『流れを変える』というきっかけがないのもあるけれど、役者がいつ切られてもおかしくない仕事で、いくら自分がやりたいと思っていても需要がなければ続けられないからだと思う。
不思議なのは、自分でも協調性がないなぁと思うのに、他人と一緒に何かを作り、各々がやりたいことと楽しそうに向き合っている現場が好きなんです。作品のたびに素敵な人との出会いがあり、また携わりたいと思えるから続けてきているけれど、それを『つまらない』と思ってしまったら、案外と簡単に辞めちゃう気もしているのね。
だから自分自身では『よし、ずっと続けるぞ!』と気持ちを固めていないのはあると思う」
市川:
「尚美ちゃんと一緒にいると、良い意味で、がんばらなくていいんだと感じさせてくれるんだよね。そのままでいてくれるから、みんなにもそう思わせる力があるというか。私もマイペースなほうだけれど、自分を今以上の存在に見せようとしたこともあったし」
怖い未来は、自分が作り出していたのかも
佐藤:
「どうやって、そんな自分と折り合いをつけてきたんですか?」
市川:
「今でも、全部できているわけではないけれど……徐々に、徐々に、思えるようになってきました。大きく見せようとしても、後ろを向いたらスカートがめくれちゃってたみたいに、結局はバレるものじゃないですか。
あるときインタビューで、『モデルの仕事をしている時には何を考えているんですか?』と聞かれたので、『何も考えてないです』と答えたんです。そうしたら『市川さんにとっての天職なんですね』と言ってもらえて。天職という言葉は、腑に落ちました。
最近はモデルの仕事を中心に据えて、映像作品は『青葉家のテーブル』が5年ぶりです。『ちょっと休憩したいな』と、一旦は映像の仕事をしないことを選んだら、本当にラクになれた。それだけ無理をしていたところがあったんだと思います」
佐藤:
「振り返ってみて、その空白期間に得られたものは何でしたか?」
市川:
「未来って、怖いところを見ていくから不安になるんですよね。『怖いことは自分が作り出しているんだ』とよくわかった5年間でした。結果、あまり考えすぎるのもやめてみようかな、と思えるようになりました」
青葉家で春子を演じてと、これからの自分
佐藤:
「劇場版まで演じられてみて、西田さんにあらためて、青葉春子という人物の魅力を聞いてみたいです」
西田:
「包容力もあるし、能動的で、アグレッシブなところ。劇場版では昔の自分に立ち返って進むシーンがありますけれど、それは勇気の要ることだし、パワーも使うじゃないですか。自分で自分を認めてあげることは、歳をだんだん重ねていくと難しくて、それだけ凝り固まっていくものですから。
劇場版では春子を通じて、自分がやりたいと思ってきたことや、過去にちょっと置いてきた気がかりなことは、歳をとってもリスタートしていいんだよ、と描かれていましたよね。“今さら”なんてことはなくて、時間ができてからでも、忙しければすき間からでも、思ったときにやってもいいんだよねって、私も背中を押してもらえました」
佐藤:
「その気持ちで、これからを迎えたいなって、感じられたんですか?」
西田:
「そうですね。今の仕事をずっと続けなければいけないという決まりはなく、自分が決めたからこそ続けられている。でも、他にもやりたいことがあったなら、自分がよしとすれば、どう動いてもいいんだよね、とはずっと思っているんです。
役者という仕事が好きで、たまたま続けてきているけれど、違うかもしれないと感じれば方向転換も間違いじゃない。思いとどまることも正しいはずです。今までのキャリアがその先に有るにせよ無いにせよ、“次へいける人”でありたいなって思います」
映画は6/18(金)〜全国劇場にて公開!
特別パンフレット付き前売り券も販売中です。数に限りがありますので、ぜひお早めにチェックしてくださいね。
映画『青葉家のテーブル』
公式ホームページ
【写真・映像撮影】白井亮
【ヘアメイク】茅根裕己〈Cirque〉
【スタイリスト】岡本純子
【衣装協力】
〈西田尚美さん〉
カーディガン ¥25,000/ナゴンスタンス、ワンピース ¥48,000、パンツ ¥34,000/ともにスズキ タカユキ、ブーツ/スタイリスト私物
〈市川実和子さん〉
ブラウス ¥48,000/タブリク(アリス デイジー ローズ)、パンツ ¥29,000/エンフォルド、靴下、ショートブーツ/スタイリスト私物
問い合わせ先
ナゴンスタンス 03-6730-9191
スズキ タカユキ 03-5846-9114
アリス デイジー ローズ 03-6804-2200
エンフォルド 03-6730-9191
【取材ロケーション協力】IWAI OMOTESANDO
西田尚美
1970年生まれ、広島県出身。モデルを経て女優へ。主な出演作に、映画『ひみつの花園』(97)『ナビィの恋』(99)『南極料理人』(09)『友罪』『生きてるだけで、愛。』(18)『WE ARE LITTLE ZOMBIES』『新聞記者』『五億円のじんせい』『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』『凪待ち』(19)『GIFT』『空はどこにある』(20)『あの頃。』(21)『護られなかった者たちへ』(21)など、ドラマに『カムカムエブリバディ』『にじいろカルテ』『彼女のウラ世界』(21)『半沢直樹』『頭取 野崎修平』(20)『メゾン・ド・ポリス』『凪のお暇』『集団左遷!!』『三匹のおっさん』(19)など。
市川実和子
1976年生まれ、東京都出身。モデル・女優。近年の出演作に、『八日目の蟬』『はやぶさ/HAYABUSA』(11)『まほろ駅前狂騒曲』(14)『ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判』(15)『猫なんかよんでもこない。』『溺れるナイフ』(16)など。
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